第1話 星護る騎士団、忘れたもの
これから前書きには前回のあらすじを、後書きにはちょっとした裏話を書きます。
広く展開される物語を、どうぞお楽しみください。
ーー俺が絶対に、護ってみせる。
その声だけが胸に残ったまま、目を開けた。
夢だったのか、記憶なのか、それすらわからない。
でも、その声だけがーー
胸の奥で、小さく灯されていた。
まるで夜空に浮かぶ星のように。
思い出すといつも、少し不安になる。
剣を握る手が、いつもより冷たかった。
「副団長、魔族を見つけました!」
「ありがとう。頑張ろうね」
ルフィーナ・フォティノース。
彼女には、胸に抱えた“空白”があった。
8歳以前の記憶が、何ひとつ残っていない。
故郷の村を魔族に焼かれ、家族を失ったときに全て忘れてしまったと聞いている。
ただ、どこか虚しい想いだけが、胸に刻まれていた。
ーー次こそ護らなければ。
そう、いつも思いながら、剣を振る。
なぜなのか、何を護るのか、わからないまま。
◯
星の光が軽く舞い、魔族が崩れ落ちた。
ふわりと黒髪が流れ、青い瞳が遠くを見つめる。
ルフィーナは剣をそっと、鞘に収める。
「ルナ、怪我はしてない?」
誰よりも早く、ルフィーナに声をかける少年。
赤から白へ変わる、美しい瞳を持つ。
団長セルヴィーロ・イオディスだ。
赤みがかった白銀の髪に、思わず目を引かれる。
彼は何かあれば、真っ先に駆けつける。
「大丈夫だよ。セルもそばにいたじゃん」
「そうだけど、心配だからね」
彼は、ルフィーナの肩に優しく手を添える。
その触れ方は、過保護にも感じられるが、まるでーー“失うこと”を恐れているようにも思える。
その時、ふわりと星の光が舞い、煌めいた。
星光を撒く、白い妖精のような4枚の羽。
守護神獣でありーー唯一の家族、ティターニアだ。
「主様、怪我をした人はいませんでした」
「それはいいね。ありがとう、ティターニア」
「はい。主様とみんなのためです」
そう笑顔を浮かべるティターニア。
淡い水色の毛並みの耳が、ふわふわと揺れる。
星空のように煌めく瞳には、隠した想いが宿る。
ルフィーナの名を呼ばない彼女。
理由は、わかっている。
(私が、ティターニアのことを忘れたから・・・)
忘れたいなんて思ってなかったはず。
それでも、どうしても思い出せない。
家族を失い、主にさえ忘れられた彼女はーー
どれだけ、悲しかったのだろうか。
主様と呼ぶ声を聞くたび、胸がぎゅっと痛む。
(必ず、思い出すから。何と戦うことになっても)
ティターニアの羽から零れ落ちる、涙のような星光。
ルフィーナはそれを見つめ、軽く頷いた。
◯
戦闘が終わり、帝国へ戻った。
騎士団東拠点に戻ると、笑い声が響いた。
おちゃらけた騎士たちが、ルフィーナに言う。
「副団長、団長〜。めっちゃ仲良しっすね〜」
「そ、そんなことないよ。いつも通りだから」
ルフィーナはそう訂正しつつも、胸の鼓動が早まるのがわかる。
その鼓動が何を表すのかは、わからない。
ルフィーナが目を伏せていると、騎士たちにかけられる声が。
「君たち、黙ろうか?」
「あ、は、はい」
セルヴィーロの一喝により、騎士達は静まる。
17歳とはいえ、団長としての威厳を兼ね備えている。
・・・いや、これはただの脅迫かもしれない。
その時、セルヴィーロに勢いよく抱きつく者が。
さすがのセルヴィーロも、バランスを崩した。
「セル!今日僕頑張ったよね!褒めて!」
「わかったわかった。よく頑張ったね、ルビアス」
セルヴィーロの守護神獣である、ルビアス。
真っ白もふもふな毛並みに、黄金の装飾。
ライオンのような姿で、翼がある。
瞳はセルヴィーロと同じ色で、繋がりを表す。
姿と性格のギャップは、騎士たちに大人気。
ルフィーナも思わず、微笑んでしまう。
「セル、次はどこに行くの?」
「そうだね。陛下もやっぱり、まず東3番地区を取り戻したいって」
「そっか。でもそこには上級魔族がいるんだよね」
「うん。だからまずはその手前にある東2番地区を攻める」
「わかった」
いつものように、素早く作戦を伝えるセルヴィーロ。
騎士たちは頷き、準備を始める。
セルヴィーロは、ルフィーナに言い聞かせる。
「ルナは俺のそばにいてね。絶対護るから」
「そこまで心配しなくても、大丈夫だよ」
「そうかもだけど、ルナは狙われやすいからね」
セルヴィーロは笑顔で、そう言った。
「絶対護る」という言葉は、自分に言い聞かせているようにも感じた。
まるで、深い傷を隠そうとしているかのように。
使命を果たそうとするその背は、どこか哀しんでいるように感じられた。
◯
ルフィーナとティターニアは、一緒に侵攻の準備。
星の光が横で揺れ、ふわふわと浮いている。
ルフィーナは声をかけた。
「ティターニアは準備できた?」
「はい。そろそろ出発しましょう」
セルヴィーロや騎士たちも、準備を終えた。
拠点の外で隊を成し、結界の外へと歩み出す。
帝国の外へ繋がる橋が降ろされ、結界をくぐった。
進軍中も、セルヴィーロは常にルフィーナの隣。
セルヴィーロは言う。
「ルナ、ペンダントはつけてきた?」
「うん。もちろん」
セルヴィーロからもらった、ペンダント。
鍵の形でてっぺんに星型の宝石がついている。
宝石の色は、セルヴィーロの瞳と同じ。
宝石の両脇には翼もついている。
セルヴィーロはこれをどこで手に入れたのか話さない。産まれた時から持っていた、とだけ。
騎士たちは東2番地区へ、勇ましい歩みを進める。
◇
しばらく進軍し、東2番地区に入る。
近くに野営にぴったりな洞窟を見つけた。
少し薄暗く、いくつかの影が彷徨っている。
彼らは堕落族ーー魔族の瘴気に侵され、理性と記憶を失った人や守護神獣。
かつては誰かに愛され、誰かを護っていた存在。
だが今は、ただ苦しみのまま彷徨っている。
騎士団に、堕落族が襲いかかってきた。
セルヴィーロは、小さくため息をついた。
「・・・何もしなければ、斬らずにいたのに」
「倒しますか?」
「ああ。かかれ!」
騎士たちは一斉に堕落族に攻撃する。
もろい人間の体では、剣に耐えることはできない。
「炎武!」
技名と共に、力をまとった攻撃が放たれる。
炎の熱と、赤い光が伝わってくる。
騎士たちによって、堕落族は倒された。
瘴気の塵となり、空へと舞い散る。
ルフィーナは天にに向けて、手を合わせ、祈る。
(願わくば、来世では安らかなる生を・・・)
こうしていると、いつもセルヴィーロが来る。
そして痛みを秘めた声を優しさで覆い、言うのだ。
「ルナ・・・君はいつも祈ってるね」
「うん。彼らの願いを、神様が聞いてくれるかもしれないから」
「神なんか、信じてもーー」
セルヴィーロは言葉に詰まり、目を細める。
いつもそうだ。
神のこと、祈ること、信じること・・・。
セルヴィーロはなぜか、それらを嫌がる。
(どうしてそんなに、悲しそうなの・・・?)
堕落族たちもきっと、まだ生きたいという祈りが、神に届かなかった者たち。
セルヴィーロは何を失い、どんな祈りが届かなかったのだろうか。
「セル、テントを準備しよう」
「そうだね、そろそろ用意しなきゃ」
話題を逸らし、野営のためのテントを設営する。
セルヴィーロとルフィーナのテントは、いつも隣。
◯
陽が地平線深くに沈み、星が瞬き始めた。
作戦会議をしながら、みんなで夕飯を食べる。
セルヴィーロから、作戦の簡単な説明がされた。
「明日もいつも通りに戦おうね」
「ふぁい」
口に食べ物を詰め込んだまま、騎士たちが返事した。
セルヴィーロは呆れつつも、優しく声をかける。
「じゃあ、そろそろ休もうか。明日は早朝に出るよ」
「了解っす!」
作戦会議と夕食を終え、それぞれのテントに戻る。
ルフィーナは、セルヴィーロに声をかけた。
「おやすみ、セル。明日も上手くいきますように」
「おやすみ、ルナ。なんかあったら俺を呼んでね」
「うん。また明日」
「また明日」
どこまでもルフィーナを護ろうとする、セルヴィーロ。
その優しさに、ルフィーナは胸がきゅっと縮む思いがする。
(私は一緒にいるよ、セル・・・)
祈るように、心の中でそう伝えた。
そしてセルヴィーロとそれぞれ、テントに戻る。
ルフィーナは寝袋に潜り込む。
ティターニアはクッションの上に横になった。
「おやすみ、ティターニア」
「おやすみなさい、主様」
星空を思い浮かべながら、目を瞑る。
その時、胸の奥に、ふと言葉がよぎった。
『ーー約束だよ!』
いつの記憶か、誰との約束なのかもわからない。
ただ懐かしくて、哀しいのは分かった。
けれど、その約束が守られたのかだけは、考えたくないと思ってしまった。
今回は帝国騎士団について書きます。
聖ラナフィアス帝国、帝国騎士団。
帝国騎士団の創設は、1000年前にも遡る、と言われています。
大昔のルナセティラ大陸は、魔族の脅威もなく、たくさんの国と人々で栄えていました。
けれどそんな平和な時は長く続かず、この星にも、魔神が襲来します。
魔神は数多の魔族を連れ、殺戮を繰り返しました。
それまで神など信じずにいた人々ですが、こんな危機的状況に陥れば、頼れるものなど神しかいません。
人々は神に祈りました。
「神様、助けてください」
すると天から神と女神が舞い降りました。
そして聖ラナフィアス帝国を作り、結界を張ってくれたのです。
そのおかげで、なんとか人類は生き延びました。
そしてその時の教訓を胸に、毎年神に祈りながら、自衛の術を身につけるため、帝国騎士団を創設しました。
でも今となっては、教訓も薄れ、自分たちの繁栄のための帝国騎士団に変わりかけています。
明日も一緒に、いられますように。




