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星の子 〜護るとは、一緒にいたいと願うこと〜  作者: 猫様のしもべ
第2章 家族と仲間、霞みゆく星
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第16話 セヴィオスとミレイア

〜前回のあらすじ〜

「哀歌の堕天」を倒したルフィーナたち。

彼は何かを思い出そうともがいていた。

そんな彼にルフィーナが見せたのは、届かなかったひとつの詩。

それを見た彼は、愛する人を心に浮かべる。

ポロンーー


柔らかな琴の音が、夕暮れの空に溶けてゆく。

小さな岩の上に腰掛け、笑顔で見つめ合う2人。

人間だった頃のセヴィオスと、恋人のミレイアだ。


セヴィオス・ラーケインは、吟遊詩人だった。

音は彼にとって、自分を形作る全てだった。

彼は恋人であるミレイア・ノスタルヒアと共に、旅をしながら詩と歌を創っていた。


「ねぇセス、それはなぁに?」

「内緒だよ、ミア。まだ君には教えられないから」

「もう、気になるじゃない。ちょっとだけ見せてよ」


セヴィオスの肩に、軽く寄りかかるミレイア。

長くしなやかな髪が、優しい風に揺られる。

セヴィオスはその髪を撫で、声をかけた。


「ミア、一緒に歌おう。昨日創った詩を」

「いいよ、セス」


セヴィオスが琴を持ち、柔らかな音色を奏でる。

風と共に音色が流れ、草花が優しく踊る。

2人は息を合わせ、歌声を重ねる。


響く穏やかな歌声は、夕陽と共に遙か遠くまで流れてゆく。

永遠とも思えるような、2人きりの時間。

この星のどこよりも平和で、優しい時間。


幸せな時間を過ごし、歌を終える。

ミレイアはほっと息をつき、セヴィオスに向き合う。

少し震える手で、たった1つの琴を、差し出した。


セヴィオスは顔を見上げる。


「これは、なんだい?」

「プロポーズーーって言ったらいいのかな?」

「・・・!本当に、いいのか?」


ミレイアは、ただ微笑んだ。

何よりも愛おしくて、何よりも護りたい笑顔。


「うん。ずっと一緒にいよう、セス」

「ーーありがとう、ミア」


セヴィオスは琴を、手に取った。

ミレイアは少し顔を赤くし、誤魔化すように言う。


「これが私達の、結婚指輪だね」

「そうだなーー僕も贈りたいものがあるんだ」


セヴィオスはたくさんの詩が綴られた、ノートを取り出す。

そして先ほどまで隠していた、1ページを開いた。


ミレイアは、セヴィオスの隣に座り、ノートをそっと覗き込む。


「・・・!」


セヴィオスが詩を口にしようとした、その瞬間。


ミレイアの胸が、何かに、貫かれた。


一瞬理解できなかった。

ミレイアの胸に鋭い何かが、突き刺していた。

それが離れると、ミレイアは目を閉じ、倒れ込んだ。

咄嗟に腕で、抱きかかえる。


「ーーミレイア!!」


ミレイアの頬から、血の気が引いてゆく。

だんだんと青白くなってゆく顔。


目の前が真っ青になる。

ミレイアの胸に、鼓動がない。

風の音よりも、鳥の声よりも、自分の心臓の音が、ただ響いた。


目に映るのは、ミレイアに貰った、世界唯一の琴。

それもまた岩の上に落ち、弦が1つ切れてしまった。


「はははっ!」


どこからともなく、嗤い声が響く。

思わず振り向くと、腹を抱えた魔族がいた。


セヴィオスは魔族を睨みつけた。


「お前・・・ミアに、なにをした!!」

「何をしたも何もあるか。見ればわかるだろ?」


時間が経つほど、冷たくなってゆくミレイア。

赤く染まった手で、必死にミレイアを抱きしめる。


失いたくない、何が何でも。

例え自分が命を削ることになろうと。

ミレイアだけは、失いたくない。


ただ虚しい願いだった。

魔族の笑みに、心底恨みが湧いた。


「許さない・・・!」


魔族はその瞳を、見た。

そして楽しげに、嗤う。


「はははっ!なんて恨みに満ちた目だ」

「ミアを、返せっ・・・!」

「俺はなぁ、音が嫌いなんだよ。特にお前らの垂れ流す音は、不快でならない」

「黙れ・・・お前だけは・・・!」

「そうだなぁ。お前なら、強い魔族になれるかもな」


魔族はさも嬉しそうに、嘲笑った。

魔族の身体から、真っ黒な瘴気が溢れ出す。

それらは霧のようにセヴィオスを包んでいく。


「やめろ!ミア、ミア・・・!」

「ははっ!面白いなぁ!」


瘴気が、セヴィオスの身体を蝕んでいく。

腕が、足が、瞬く間に黒ずんでゆく。

視界から色が奪われ、黒に染まる。


嗤う魔族と、膝から崩れ落ちるセヴィオス。

彼が最後に絞り出した一言は、ただ暗く、空へも届かず散っていった。


「哀しい・・・」


意識が途切れる瞬間に感じたのは、冷たくなった、愛しいミレイアの肌だった。


そして。


音が消えた世界に、彼は1人、とり残された。

最後に聞こえたのは、哀しいだけの、琴音だった。


ポロンーー


彼はその後、愛しいミレイアを奪った魔族に、こう名づけられる。


「哀歌の堕天」とーー。




            ◇




ルフィーナが紙片を見せる。

そこに書いてあるのは、途切れた愛の詩。

伝えることも、共に歌うことも、叶わなかった詩。


「この詩は、あなたが創ったんだよね。とても、綺麗な詩だね・・・」


その言葉に、セヴィオスは涙を流す。

もう黒くはない、透明な涙。


それを見たセルヴィーロが、地面に手を伸ばす。

そして手に取ったのは「哀歌の堕天」が、使っていた武器「哀の琴」だ。


ミレイアから贈られた、結婚指輪。

セルヴィーロはその琴を手に持ち、爪弾き始めた。


「セル・・・?」


一音、また一音と、琴を奏でる。

それは、ミレイアに贈られるはずだった、詩の歌。


時が止まったようだった。

もう二度と聞くことは叶わないはずだった。

それでも彼は、奏でてくれた。



「フォル・ミレイア」

君の声で 心安らぐ

星と輝き 微笑む君

僕ら二人 響き合い

辿る旅路 煌めく道


哀しみも 優しさも

歌にして 紡ぎ合う

僕の灯火 君と繋ぐ

愛を形に 星と共に



歌われることのなかった、たった1つの詩。

セルヴィーロによって奏でられた、優しい歌。

哀しみを拭い去るように、風に運ばれてゆく。


「・・・助け、られなかった・・・それでも・・・」


セヴィオスは小さく、微笑んだ。


「一緒にいてくれて、ありがとう・・・ミア・・・」


琴の音が鳴り止むと共に、セヴィオスの身体は瘴気の塵となり、空へと舞い上がっていった。

ルフィーナ達は、ただそれを見上げていた。


ルフィーナは、セルヴィーロに声をかける。


「セル、琴弾けたんだね」

「・・・うん。昔、習ってたんだ」

「きっとセヴィオスさんも、救われたと思うよ」

「そうかな。少しでも、罪滅ぼしになれば・・・いいんだけど」

「・・・?」


セルヴィーロは琴を手に、空を見上げていた。

ルナシア、シェウもそばに来る。

騎士達も安堵の表情で、近寄った。


「団長、そろそろ帰りましょうや。帝国が恋しくてなりませんわ」

「確かにそうだな。じゃあ帰ろう」


騎士達はいそいそと、馬を連れてくる。

ルフィーナは言う。


「セル、その琴はどうするの?」

「・・・うん。ミレイアさんは、お墓があるんだ。だからそこに、一緒に埋めてあげようと思う」

「そっか。可愛い琴だね・・・」


ルフィーナが、琴にそっと手を触れる。


その瞬間、琴がまばゆい輝きを放った。

星屑を含み、ルフィーナ達を煌々と照らす。

ルフィーナは思わず目を覆った。


「なに・・・!?」


次に目を開けると、目の前には小さな結晶があった。

薄紫色の輝きを放つ、小さな結晶。

中で星屑が煌めき、光を放っていた。

まるで武器「哀の琴」に封印されていたかのように、姿を現した。


どこか懐かしく感じ、優しい雰囲気が伝わった。

ルフィーナはそっと、結晶に手を伸ばす。

怖いとかは感じない。

ただ、触れてみたいと思ったのだ。


「ルナ・・・!?」


セルヴィーロが少し驚いていた。

ルフィーナの手が、結晶に触れる。

その瞬間、結晶はパァっと輝き、無数の星光となった。


星光の束がルフィーナの胸に集まる。

そして、吸い込まれていった。

星光が胸に宿ったとき、ルフィーナは息を呑んだ。

その暖かさは、どこか懐かしくてーー


(これは、なに・・・?)


まばゆい光が全身を駆け巡り、息が止まるような衝撃が走った。

星光が宿った瞬間、ルフィーナの脳裏に、いつかの光景が蘇った。


ーー眠りなさい 小さな星よ


暖かくて、優しい歌声。

お母さんの声なんだと、わかった。

幼い頃、毎日聴いていた子守唄。


「・・・!」

「ルナ、大丈夫!?」


セルヴィーロが心配そうに、顔を覗き込む。

ティターニアも、そばに近寄った。

その表情を見て、思わずルフィーナは口ずさむ。


「眠りなさい、小さな星よーー」

「!?そ、それって・・・!」


朧げな歌声に、瞳を潤ませるティターニア。

期待と不安の入り混じる声が、小さく聞こえた。


「思い出したの・・・?」

「・・・ごめん、思い出したのは、この歌だけ」


少し胸が痛むのを感じた。

期待を裏切ること、また喪失を突きつけること。

でも、それだけ渡したりはしない。


「そう、ですか・・・」


ティターニアは少し悲しそうに、俯く。

煌めく羽も少し弱々しく、星の光を撒いた。


「でもこれは、私の記憶なんだね」

「・・・はい」


その言葉に、ルフィーナは胸が熱くなった。

胸の奥に残る灯火が、強く輝いた気がした。


軽くセルヴィーロに、視点を向けた。

彼は少し、不安そうにも見えた。

けれど小さく、微笑みながら頷いてくれた。


「彼の、セヴィオスの武器でもあり、大切な琴からこれが現れたんだよね」


ティターニアは頷こうとした、その瞬間。

目を見開き、何かに気づいたようだった。


「七堕天の武器に、記憶があるならーー」


ルフィーナは、剣を鞘に収めた。

覚悟と希望が、宿っている気がした。


ティターニアが涙を浮かべる。

けれどその表情は、笑顔に満ちていた。

騎士達も、何もわからないだろうに、歓声を上げた。


「うぉぉぉっ!なんかいいことが起こったぞ!」

「わからんが、なんか嬉しそうだ!」

「なんか希望が見えてきた!」


ルフィーナはティターニアと目を合わせ、微笑んだ。

記憶を取り戻す道筋が、見えたから。

セルヴィーロが笑顔で、言う。


「ルナ、よかったね。これからの目標ができたかな」

「うん。全部、取り戻す」

「・・・そうだね。使命には抗えないね・・・」


セルヴィーロは覚悟するかのように、つぶやいた。

その言葉に疑問を抱いたものの、記憶が少し戻った喜びから、すぐ忘れてしまった。


帝国への道のりは、いつもより短く感じた。




            ◇




その日の夜ーー


ルフィーナとティターニアは、騎士団本部の屋根の上にいた。

夜風が静かに流れ、星の光が屋根を照らす。

帝国の喧騒が遠くで消え、2人だけの世界になった。

淡く煌めく星空を、眺めながら、話す。


「ねぇティターニア」

「はい、主様」

「あの日、1人で星空を眺めていた時、何を考えていたの?」


アスティラ村に1人で飛んで行ったティターニア。

帝国を出るその前、星空を眺めた彼女は何を思っていたのだろうか。


「・・・主様に記憶がないことを考えて、いました」

「そっか。私も分からないことがある。なんで、私の記憶を・・・七堕天が持っているのかなって」

「・・・わたしには、理由がわかります。でも、主様にもうーー苦しんでほしくないから、話せません」


ティターニアはそう言って、俯いた。

ルフィーナは、ティターニアの頭を優しく撫でた。

なぜ、そうしたのかは分からない。


(・・・私は、苦しませてばかりなのに)


その時、ふとルフィーナは思いついた。

今日思い出した、あの歌をーー。


「ティターニア、一緒に歌わない?」

「えっ?歌う、ですか?」

「うん。昔、一緒に歌っていた歌を。もう一度、2人で歌いたいんだ」

「・・・はい!」


ティターニアは笑った。

そして2人、屋根の上で、声を揃える。


その姿は覚えていなくとも、2人で歌ったことだけは覚えている。

失った日を取り戻すように、2人は心を合わせた。


もういない家族に、届くようにーー。


歌声は、星の光と共に風に乗って、流れてゆく。

まるで、運ばれるように、遠くまで響いた。



どこかから歌声が、耳に届く。

微かな、星の光が淡く輝く。


「あら、どこかで聞いたことある歌ね・・・」


歌は、新たな記憶へと紡がれる。

“星”へと繋がる、懐かしい歌ーー。

今回はセヴィオスの恋人、ミレイアについて書きます。

ミレイア・ノスタルヒア。


ミレイアは昔から人見知りで、想いを言葉にすることが苦手でした。

親への気持ちも、友達への感謝も、なかなか言葉に出せず、胸に詰まらせていました。


そんな彼女は、セヴィオスと出逢います。

想いを詩で表し、歌うセヴィオス。

ミレイアは次第に、惹かれていきました。


ある日ミレイアは、セヴィオスの詩を真似て、短い詩を創ります。

勇気を出して、それをセヴィオスに見せました。

するとセヴィオスは、その詩を褒めてくれました。


2人はそれから、ことあるごとに会って、一緒に歌うようになります。

互いに想いを伝えないまま、いつの間にか恋人になっていました。


そしてついにミレイアは、想いを言葉にすると決めます。

セヴィオスの好きそうな琴を買って、2人きりの時間をとりました。


琴を渡す前の夜、ミレイアは言いました。


「もしあなたが私を忘れたら、私は消えてしまうのかな?」


想いを伝えることに、どこか不安を覚えていました。

だからか、そんなことを聞いてしまったのです。

するとセヴィオスは、答えました。


「消えたりはしないよ。例え僕が忘れてしまっても、音と歌は、いつまでも残るから」


ミレイアは笑い、セヴィオスも微笑みました。

それが2人の、最後の夜でした。


もう二度と、明日を迎えることがなかろうと。

2人が残した想いは、いつまでも消えません。

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