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星の子 〜護るとは、一緒にいたいと願うこと〜  作者: 猫様のしもべ
第2章 家族と仲間、霞みゆく星
16/23

第15話 「哀歌の堕天」

〜前回のあらすじ〜

深い霧に包まれ、北9番地区に閉じ込められた。

琴の音が鳴る方へ向かうと、そこにいたのは七堕天。

哀しき歌を奏でる彼は、ルフィーナたちを追い詰めてゆく。

キィィンーー


「哀歌の堕天」が琴線を強く、爪弾いた。

空気が震え、床石が微かに揺れ、空の雲までが流れを止めた。

琴の音が、まるで星そのものを軋ませたようだった。

彼は低く、そして重く、つぶやいた。


哀憎調(ハルアイル)・・・」


その一言と同時に、琴音が鳴り響く。

だがそれは、美しい曲調や、整ったリズムではない。

鳥肌が立つような不協和音と、乱雑なリズム。


ルフィーナは思わず、耳を塞いでしまった。

音が耳を突き刺すたび、胸が縮むように痛んだ。

息が詰まり、言葉に出せなくなる。


その時、ルフィーナの脳内に、言葉が響いた。

8歳の時、目覚めた騎士団本部で目覚めた時に聞いたあの声。


『ルナ、大丈夫!?』


心配するティターニアの、幼い声。

ルフィーナの返答を聞いた時の、ティターニアの哀しむ表情。

それらが一気に、蘇る。


(ごめんね、ティターニア・・・)


ふと周りを見ると、みんな耳を塞ぎ、何かに抗うかのように、頭を振っていた。

ティターニアも小さな手で耳を押さえ、必死に頭から何かを追い出そうとしている。


「やめて!お願い、忘れないで・・・!」


耳につけた飾りを握りしめ、必死に抗う。

ルビアスは尻尾が垂れ下がり、頭を抱えて震えていた。


「無駄なんて・・・言わないで・・・」


セルヴィーロは必死に頭を振りながら、ルビアスを宥めようと手を伸ばしていた。

ルナシアでさえ、目に涙を浮かべていた。


「どうして・・・?あたしが悪いの・・・!?」


剣を強く握り、片手で耳を塞いでいた。

シェウや他の騎士達も、哀しむような、苦しむような表情。

拳を振り回す者や、地面にへたり込む者もいた。


「団長だからってなんなんだ!年下のくせに!」

「・・・シェウは大丈夫そう」

「大丈夫じゃねーよ!」


とはいえ、シェウ以外は辛そうに見える。

だが、ルフィーナには理解できなかった。


なぜみんながそんなに苦しむのか。

何が頭の中で、こだましているのか。

ルフィーナは叫んだ。


「みんなに何をしたの!?」


ルフィーナの声を聞いた「哀歌の堕天」は、顔を見上げた。その表情は、少し不思議そうだった。

少しルフィーナを見て、彼はまた、下を向く。


「そうか・・・お前が、記憶の主か・・・」

「・・・なんの話?」

「この技は・・・聞いた者のトラウマとなっている声を、呼び起こさせる・・・」

「トラウマ・・・?」


そこで、ルフィーナは理解した。

なぜ自分に聞こえないのか。

トラウマがないから?いや、そうではない。


(私に記憶が、ないからだ・・・)


他のみんなの苦しむ声が、遠く聞こえる。

それなのに、自分の胸の中だけは、静かすぎる。

まるで胸に、ぽっかりと穴が空いているようだ。


そう、ルフィーナはトラウマ以前に、記憶がない。

だからこの技が、ほぼ効かないのだ。

ルフィーナ以外のみんなは記憶がある。

苦しそうにしているのは、トラウマとなっている声が聞こえるからだろう。


(シェウのトラウマって、セルだけなんだ・・・)


そんなどうでもいいことが頭に浮かんだが、まずはこの技を止めなければ。

ルフィーナはたった1人、剣を握る。

このままでは、シェウ以外のみんなが危険かもしれない。


星の軌跡が、剣に宿った。

流れるように移動し、剣を振るう。


星流(シェアスト)!」


だが「哀歌の堕天」は、まるで霧のように、剣を避けてしまう。

霧は裂くことができない。


ルフィーナは焦る。

自分1人で「哀歌の堕天」を倒せるのか。

わからないが、やるしかない。


哀奏(アイリア)・・・」


琴線が弾かれ、不協和音が鳴るとともに見えない斬撃が、いくつも飛ばされる。

ペンダントに頼ってばかりではいられない。

ルフィーナは剣を強く握り、縦に持った。


星祈斬(オルシアス)!」


星への祈りを元に、剣撃へ変える。

星屑が舞い、ルフィーナの周りで踊る。

ルフィーナは星屑と共に、重ねて斬りつけた。


その瞬間、声が聞こえた。


「副団長が1人で戦ってるじゃないっすか!!」

「シェウ!?大丈夫・・・なの?」

「言ってられませんって!副団長になんかあったら、この幻聴を現実で言われるんすよ!」


シェウはさも深刻そうに、そう言った。

ルフィーナは理解したが、分からなかった。


「あ、そ、そうだね・・・?」

「俺も一緒に戦います!代わりに、団長への色仕掛けお願いします!」

「え、うん・・・(?)」

「団長!副団長が危険っすよ!」


シェウはセルヴィーロに向かって、そう叫んだ。

だがセルヴィーロは、頭を抱えている。


「ルナ・・・くっ・・・」


言葉にならない叫びが、つぶやきになる。

ルフィーナは心配するが、どうにもできなかった。

シェウはさも驚いたという顔で、言う。


「団長が、副団長の危機に駆け付けない・・・!?」


ルフィーナの危機に勝る幻聴とは、いったいどういうものなのか・・・。

シェウの言葉に戸惑う前に、むしろ心配が増すルフィーナ。


だが「哀歌の堕天」は、これ以上待ってはくれない。


「静かに・・・」


琴線が強く弾かれ、衝撃波が2人を襲う。

ルフィーナとシェウは、咄嗟に剣で防ぐ。

だがルフィーナの体勢が崩れる。

シェウはセルヴィーロに叫ぶ。


「ほら、団長!副団長が、えっと・・・取られちゃいますよ!」

「ルナ・・・!俺が、護るから・・・!」


そう言った瞬間、セルヴィーロは剣を杖のように立て、無理矢理立ち上がった。

肩が震え、息も荒くなり、額には冷や汗が滲む。

それでも彼は立ち上がり、歩いた。

剣を持ち、ルフィーナのそばへ。


(私のためだけにそんな・・・?)


ルフィーナは胸が熱くなるのを感じた。

隣に立つセルヴィーロを、直視できなかった。

ルフィーナは照れ隠しのように、言う。


「セ、セル、大丈夫?」

「ああ、ルナ。一緒に戦おう」

「・・・うん!」

「・・・俺もいるっすよ〜」


ルフィーナ、セルヴィーロ、シェウの3人は、剣を構える。

琴を爪弾く「哀歌の堕天」に剣を向けた。


「シェウ、俺に合わせられるな?」

「はいはい、お得意分野っすよ」


セルヴィーロが、前に飛び出した。

シェウがすぐに、技を放つ。


疾風(シルレイ)!」


身体能力を一時的に向上させる技。

それを、セルヴィーロに付与した。

ルフィーナも前に駆け出し、シェウと共に回り込む。


「哀歌の堕天」は何度も琴を爪弾き、見えない斬撃をいくつも飛ばす。

だがルフィーナがペンダントと剣、シェウも剣を盾にして、セルヴィーロに当たらないよう防ぐ。


神斬(セフィル)

星閃(アスティア)


セルヴィーロの剣が金の光の軌跡を描き、ルフィーナの剣が紫の星の軌跡を残す。

シェウの技は、戦いやすくしてくれる。

美しい光が「哀歌の堕天」を斬りつけた。


「くっ・・・!」


さすがの彼にも、この攻撃は堪えたようだ。

そのおかげか、幻聴の攻撃が止んだ。

ティターニアとルビアス、ルナシアがそばに来た。


「主様、ご無事ですか!?」

「セル、大丈夫!?」

「2人とも、ごめん、遅れを取っちゃった!」


3人は横に並んだ。

ルフィーナとセルヴィーロは笑顔で答えた。

まるで示し合わせたように、声を揃えて。


「「大丈夫!」」


他の騎士達も駆け寄り、再び陣を成した。

「哀歌の堕天」はもう、倒れかけている。

だが、彼は琴を手に取った。


「黙れ・・・夜の静かさを破る者、永遠なる静寂を。哀恋絶詩(フォル・ミレイア)!」

「!?それって、あの詩の・・・」


ルフィーナが言い終わらないうちに、琴が激しく、乱雑に奏でられる。


ギィィィンッ!!


甲高く、刃のように鋭い音を立てた。

その瞬間、ルフィーナとセルヴィーロは察した。

これはもう音なんて、刃なんて生温いものでもない。

このままでは、誰かが2度と目を覚まさなくなる。


「危ない!!」


2人は同時に飛び出し、目を合わせた。

右と左に分かれ、剣に手を添える。

その様子を見たルナシアも、前に出た。

そして剣を、強く握る。


金と紫と赤ーー光同士が混ざり合い、空中でまるで3つの星が衝突したかのように渦を巻く。

斬撃が放たれた瞬間、風が逆巻き、地面の瓦礫が空へと吸い上げられた。


神破閃(セルレイド)!」

星祈斬(オルシアス)!」

黎焔閃(セイシアン)!」


それと同時に、斬り刻むような音の嵐が巻き起こる。

耳を突き刺すような琴の音と、3人の技がぶつかり合う鋭い音。


瞬間、瓦礫が宙に舞い、騎士たちは目を瞑った。


ゆっくり目を開けると、そこには心臓を貫かれた「哀歌の堕天」と、3人の姿があった。


「うぉぉぉぉっ!!」

「倒したぁっ!」


騎士達が大きな歓声を上げる。

ルフィーナとセルヴィーロ、ルナシアはそっと、剣を鞘に収めた。


瘴気の塵となって、消えゆく「哀歌の堕天」。

その時、貫かれた胸に、煌めく小さなものが見えた。

それはまるで、何かを封じ込めたように輝く、美しい結晶だった。


一陣の風が吹き、セヴィオスの体が溶けてゆく。

その中で、胸の結晶だけは、星のように淡く光る。

ルフィーナはそっと膝をつき、その光に触れられる距離まで寄った。


「・・・セヴィオス・ラーケイン。自分のことを、覚えてる?」


ルフィーナはそう、優しく語りかけた。

セヴィオスは目を瞑り、そしてゆっくり開いた。

消え入りそうな声で、答える。


「俺は・・・人間だった」

「そうだね。貴方はセヴィオスだよ」

「・・・失いたくない人が、いたんだ・・・。ずっと、一緒にいたかったんだ・・・」

「その人は・・・ミレイア、さん?」


ルフィーナは、ポシェットから紙片を取り出した。

「フォル・ミレイア」と書かれた、欠けた詩。

それをセヴィオスに、見せる。

彼は涙を流し、小さくつぶやいた。


「そうだ・・・その詩は・・・」


涙は頬を伝い、地面に落ちる。

胸の結晶が、星屑のように崩れた。

今回は「哀歌の堕天」について、書きます。

物語の中で見えた、彼の持つ武器や力について。


「哀歌の堕天」セヴィオス・ラーケイン。


特性:沈黙の歌

己の領地から、全ての音を消し去る。

残るのは、彼が奏でる琴音のみ。

なぜ音を消すのかも、わからないまま。


武器:哀の琴

彼がいつも大切にしている、たったひとつの琴。

誰にもらって、誰と奏でたのかも覚えていない。

音を奏でるたび、衝撃波に変えることができる。


哀奏(アイリア)

琴線を爪弾くたび、目に見えない刃を飛ばす。

音は時に人を癒し、時に刃となる。


喪歌(フォルタ)

琴線を強く弾き、衝撃波を放つ。

続けて音波が追撃してくる。

彼の苦しみや哀しみは、重なって残った。


哀憎調(ハルアイル)

不協和音を奏で、それぞれのトラウマとなっている声や音の幻聴を聴かせる。

彼自身も、聞きたくない声を聴いているのかもしれない。


哀恋絶詩(フォル・ミレイア)

乱雑に琴を奏で、斬り刻むような音の嵐を起こす。

強い技で相殺しない限り、防御不可能。

音の嵐が鎮むと、小さな哀しい音が残る。

届かなかったあの歌は、嵐となって巻き起こる。


次回では、彼の過去が描かれます。

何を願い、何を失ったのか。

思い出したところで、もう戻らないーー。


明日を迎えることは、ないのだから。

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