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星の子 〜護るとは、一緒にいたいと願うこと〜  作者: 猫様のしもべ
第2章 揺らぐ星に願いを込めて
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第12話 焔の月

まだ太陽が地平線の下に眠っている頃。

静まり返った大地の上を、白い霧が薄く流れていた。

空にはまだ、夜の名残が色濃く残る。

みんなが静かに眠る中、ティターニアの声がした。


「主様」

「ん・・・?どうしたの、ティターニア」

「少しだけ、一緒に来てくれませんか?」

「いいよ」


ルフィーナは鎧を身につけ、腰に剣を提げる。

ティターニアと共に、静かにテントの外へ出た。

みんなを起こさないよう、足音を立てずに移動する。


流星の泉のそばへ来た。

昨日たくさん集まっていた堕落族は、1人もいない。


「あれ、堕落族達がいないね」

「そうですね・・・」


ティターニアは、ルフィーナの手を引く。

そして湖のそばで寝っ転がった。


「主様も、転がってみてください」

「?わかった」


ルフィーナも、草むらの上に寝っ転がる。

その瞬間、目に飛び込んできたのはーー

幻想的な、星空。

ルフィーナは思わず、つぶやいた。


「綺麗・・・!」


星と月が、互いの光をぶつけ合うように、煌めいている。

アスティラ村ーーその名の由来は、神々の言葉で星を意味することから。

その名の通り、美しい星空が広がっている。


「ーー幼い頃、主様と一緒に眺めていました」


ルフィーナの記憶にはない、美しい景色。

幼い頃の2人は、この星空を眺めながら、どんな会話をしていたんだろうか。


星の輝きを目に焼き付け、そっと瞼を閉じた。

ティターニアも目を瞑る。



「なぁあんた・・・」

「・・・ん?」


声が聞こえて、目を開けた。

目の前にいたのは、1人の女の子。


「!だ、だれ!?」


ティターニアも飛び起きた。

咄嗟に剣に手をかける。


その瞬間、太陽の光が3人を照らした。

東の空が、ゆっくりと薄紅に染まっていく。

湖面に映る光が揺れ、眠っていた世界が目を覚ますようだった。


ルフィーナとティターニアは、息を呑む。

その光の中に立つ少女の瞳は、まるで朝焼けそのものだった。

紫から赤へ変わる、グラデーションーー。


「あんた、誰?」


その子にそう聞かれた。

ルフィーナは毒気を抜かれ、剣から手を離した。

そして答える。


「帝国騎士団のルフィーナ。この子は守護神獣のティターニアだよ」

「ルフィーナ?可愛い名前だね!」

「あ、ありがとう・・・。貴女は誰?」


その子は、真っ黒で長く、ふわふわな髪を揺らし、笑顔で答えた。


「あたしはルナシア!よろしくね!」


その笑顔に、思わず引き込まれそうになる。

周りに守護神獣らしき影は、ない。

さまざまな疑問が頭に浮かび、胸がざわつく。

何かがおかしい、としか言葉にできなかった。

ルフィーナは深呼吸をして、心を落ち着けた。


「私達と一緒に来ない?団長がすぐそこにいるんだ」

「お、ほんとか?ちょうどよかった!」

「うん、おいで」


昇り行く太陽を背に、3人はテントへ戻った。

セルヴィーロ達も目を覚まし、着替えていた。


「ルナ、おかえり・・・その子は誰?」

「セル、ただいま。ちょっと相談したいから、みんな集めてくれる?」

「うん、いいよ」


セルヴィーロは表情を強張らせるが、答えてくれる。

騎士団のみんなは集まり、座った。

ルナシアとセルヴィーロが向き合う。


「さてと、まず名前は?」

「あたしは、ルナシア。旅人だよ」

「ルナシアだね。なんでここにいるのかな?」

「親を捜してるんだ」

「・・・親を?」


ルフィーナはその言葉に、胸がドクンと鳴った。

ティターニアも瞳を小さく揺らした。

何も知らないのに、願いが重なるーー。


「うん。だから騎士団に入りたいんだけど」


セルヴィーロはそれを聞いて、少し険しい表情で、言う。


「ルナシア、帝国騎士団は本来女性の入団は禁止だ。ルフィーナは俺から皇帝に願い出たから入れたけど、俺たちに君を入れる利益はある?」

「そうだろうと思ったよ。利益はあると思うよ。あたしは強いから!」

「へぇ、じゃあ試そっか」


セルヴィーロは立ち上がる。

そして、シェウを見た。シェウは驚く。


「俺っすか!?このルナシアって子と戦うの!?」

「いいでしょ、シェウ。ルナの次に強いんだし」

「・・・わかりましたよ。ルナシアさん、外出よう」

「な、なんか悪かったな・・・」


ルナシアはそう言った。

シェウとルナシアに続けて、みんな外に出る。

荒廃した村の中心で、戦闘する。


「ルナシア、武器持ってる?」


ルフィーナが、そう聞いた。

ルナシアは頷く。


「持ってるよ」


ルナシアは静かに手を伸ばした。

地に向けられた手のひらから、赤紫の炎が揺らめく。

炎は、星を映す水面のように、姿を変えていく。

次の瞬間、星を含んだまばゆい光を放つ。

弾けた炎から現れたのは、一振りの剣。


「あの剣、魔族のような気配がします・・・!」


ティターニアがそう言った。

ルナシアは剣を握り、シェウに向ける。

そして、炎の軌跡を描きながら、斬りかかる。


「うぉっ!」


シェウはギリギリで防いだ。

これは、呆けている暇はない。

適当に対応していたら、一瞬で負ける。

ルフィーナはそう感じた。


「どんどんいくよ!」

風刃(レイシェス)!」

「風だ!これはいいね」


シェウが風を纏った剣で、斬りつける。

ところが、ルナシアの炎は風に乗せられ、さらに勢いを増す。


「あちちっ!」

「やっぱり。炎は風によって拡散されるよ」

「不利すぎるだろ!!」

「運が悪かったね」


炎が唸りを上げ、風を裂いた。

灰燼が渦を巻き、星と光が交錯する。


シェウは、負けてたまるかと、技を放つ。

一時的に身体能力を大幅に向上させる技。


疾風(シルレイ)!」


シェウは身体能力が上がり、大きく跳び上がる。

空へ舞うシェウを、ルナシアが見た。

その時、ルナシアは剣を縦に持ち、言う。


焔月(フィセス)!」


炎の軌跡が紅く弧を描き、残光が月輪になる。

咄嗟にシェウは、剣を突き出し防ごうとした。

ところが、炎は思っていたより、重かった。


「うぐっ・・・!」


シェウは空中でバランスを崩す。

このままでは、落下してしまう。

その瞬間、フィニスが叫んだ。


風護(ファレイ)!」


風の護りが、落下の衝撃を和らげた。

シェウは傷ひとつなく、地面に着地した。

けれど剣は吹き飛ばされてしまった。


「あたしの勝ちだね!」

「くっ、負けた・・・」


騎士達が呆然としたまま、戦闘は終わった。

みんな、驚きを隠すことはできない。

先ほどの技を、見てしまったから。

騎士の1人がつぶやいた。


「なんで、守護神獣がいないのに、技が使えるんだ・・・?」


普段騎士達が技を使う時は、守護神獣の力を借りる。

ところがルナシアには守護神獣がいない。

それでいて、あれだけ強い技を使えるなんて。

冷静なセルヴィーロが、拍手しながら言う。


「ルナシア、すごいね。まさかシェウに圧勝するなんて・・・本当、驚いたよ」

「へへ、ありがとう!これであたしの力を証明できたかな?」

「うん。でも、1つ聞きたい」

「なんでもどーぞ!」


セルヴィーロはルナシアの剣に目を向ける。

そしてルビアスの方を見た。

ルビアスは軽く頷く。


「ルナシア、その剣はいったい何?」

「これか?さぁ・・・なんなんだろうな?生まれた時からこんな剣を使えたから、よくわかんないや」

「そう。ルビアスが、その剣から魔族の気配を感じるって言ってるんだけど、心当たりはある?」

「そうなのか?まったくわかんない」

「本当に、何も知らないんだね・・・」


ルナシアは嘘をついているようには見えない。

ということは、本当に、自分のことを何も知らないのだろう。


ルフィーナは少し、親近感を覚えた。

記憶を失い、自分が誰なのか分からなかったルフィーナには、ルナシアの気持ちが理解できる気がしたから。

セルヴィーロが言う。


「じゃあ、そろそろ帝国に帰ろうか。新しい仲間を認めてもらえるよう、皇帝に申し出なきゃ。ルナ、それでいいかな?」

「うん、大丈夫だよ。ルナシアも平気?」

「もちろん!ありがとな!」


みんなは疑問が尽きないままだったが、帰る準備をした。テントを片付け、掃除する。

本当はルフィーナが最後に確認するのだが、西11番地区での一件もあり、シェウが行うことになった。

シェウはまた1つ、仕事が増えた。


ルナシアは馬に乗っていないようだった。

1人でどんだけ歩いたんだ、とみんな驚いたが、ないのなら仕方ない。

ルフィーナが一時的にルビアスに乗り、ルナシアがルフィーナの馬に乗った。

そして、帝国への帰路を進み始めた。




            ◇




しばらく長い道のりを歩み、帝国へ着いた。

星のガーランドが彼らを出迎える。

星の花束や、灯りなどが帝都中に飾られている。

ルナシアは目を輝かせながら、まるで初めて見る子どものように街を見回した。


「なんかすごい飾りだな!いつもこうなのか?」

「いや、いつもではないよ。もうすぐ、年に一度のお祭り「星花祭」が始まるんだ。だから飾りつけているの」


星花祭ーー星の花と、神への祈りを祀るお祭り。

ルフィーナも、その日は少し楽しみにしている。

星がそばにあるように、感じられるから。

ルナシアが言う。


「それはすごそうだな!そのお祭りが始まったら、一緒に行きたいんだが、いいか?」

「うん。帝都内だし、一緒に行こうね」

「やった!」


ルナシアが喜んで、笑う。

飾りつけられた道を歩き、騎士団本部へ向かう。


騎士団本部に新しい部屋を作る必要がある。

今使われていない部屋は3つ。

できれば団長副団長に近い部屋がいい。


「よし、ルナの隣の部屋にしよう」


セルヴィーロがそう言った。

「マジで?」と騎士達は目を丸くする。

今までセルヴィーロ以外、誰1人とて、ルフィーナの隣の部屋を使えたことはない。


理由は単純。

ルフィーナが女の子だから、だ。

「男を隣に置くなんてあり得ない!」ってのが、セルヴィーロの考えらしい。

「なら、女の子なら別にいいよね?」が、今の考え。


「ルフィーナの隣か?いいな!」


ルナシアは喜んでいる。

ルフィーナも、ルナシアが隣なら安心できる。

こんなにも、強いんだから。


さて、部屋が決まったところで、セルヴィーロは皇帝に報告しに行く。

その間に、他の騎士達は家具を揃える。

そして、ルフィーナとルナシアは、小物や服などを買いに行く。


見た感じ、ルナシアは今着ているものしか服を持っていなさげだ。

ルフィーナだってほぼ毎日鎧とはいえ、セルヴィーロからもらった服を何着か持っている。


「じゃあ俺は城に行くけど、ルナも気をつけてね」

「うん、大丈夫だよ」


セルヴィーロは馬車に乗って、城へ行った。

ルフィーナはルナシアに言う。


「じゃあ買いに行こっか。ついでに帝都を案内してあげる」

「ありがとな!楽しみだ!」


ルフィーナとルナシア、そして護衛として付けられたシェウの3人で買い物に行く。

シェウは荷物持ちも言いつけられたとか。


「まずはお洋服かな。こっちにおいで」

「ひっろいな〜。相変わらず迷路だ!」


相変わらず、と言われるとまるで一度来たことがあるように聞こえる。

来たことなどないはずだが。

洋服屋へ向かっていると、話しかけられた。


「あら、副団長さんじゃない!」

「あ、初めまして」

「こっちはもう知り尽くしてるわよ、副団長さん。私はリンダよ。いつもありがとうね」

「こちらこそ、リンダさん。これから洋服店へ向かうところですので、そろそろ行きますね」

「あらほんと。お邪魔しちゃってごめんなさいね。これからもよろしくね」

「はい。それでは」


リンダさんと手を振り合い、再び洋服店へ向かう。

ルナシアは言う。


「ルフィーナ、あんたすごいね!人気なんだな!」

「そこまでじゃないよ。副団長っていう地位あってのことだから」

「そんなことないよ!あのリンダさんって人も、すごく嬉しそうだった!きっと信頼されてるんだろうな!」

「・・・ありがとう、ルナシア」

「うん!」


少し歩いて、洋服店に到着した。

ルナシアは喜んで、服を見て回る。

何度か服を持って来ては、ルフィーナに見せた。


「この服なんかどうだ?めっちゃ可愛いよ!」

「そうだね。ルナシアが好きなものを選んでいいよ」

「どうしよっかな〜。よし、決めた!」


少し悩んで、ルナシアは買いたい服を決めたよう。

3着までと決めていたので、その通りに持って来た。

あとは、物々交換の交渉だ。

ルフィーナが服を持ち、店員の前へ。


「この服買わせてください」

「いいですね!とてもお似合いです!何と交換しますか?」

「そうだね。さっき、帰って来る前に採ってきた新鮮な果物なんかどうかな?」


限られた土地でのみ、作物を育てて食べている人達。

一生懸命育てても、そう多く育ちはしない。

だから新鮮な果物というのは、とても貴重なのだ。


「それは貴重ですね。ふむ・・・せめて15個くらいいただけませんかね?」

「じゃあ12個でどう?みんなにはいつもお世話になっているから」

「ありがとうございます!」


店を出て、ルナシアと共に騎士団本部に帰る。

本部ではすでに、ルナシアの部屋の準備が終わっていた。

ルナシアは大喜びで、部屋に服をしまう。


「へへ、ありがとな!あたしもこれからは、みんなと一緒にラナフィアスを護るよ!」

「よろしくね、ルナシア。頼りにしてるよ」

「うん!」


騎士団本部の灯が静かに消える。

微かな笑い声が夜風に乗り、街へと流れる。

それを、ルビアスが聞き取った。



「ルフィーナとルナシアは寝たみたいだね」

「そっか。静かに帰ろう」

「うん」


セルヴィーロとルビアスは、城からの帰路を進んでいた。

馬車を途中で降りて、そこからは歩いていた。

夜の帝国はこんなにも暗いのに、空は明るく瞬く。

煌めく星空を見上げ、ふと想う。


『来年はーー来てね。約束だよ!』


差し出された小さな手を、護れなかった約束を。

彼女のためなら、たとえ星に拒まれようともーー。



ルフィーナとルナシアは、騎士団本部の紹介を終え、それぞれの部屋に戻る。


「じゃあおやすみ、ルナシア」

「おやすみ!ルフィーナ!」


夜の帳が静かに降り、窓の外では風が木々を揺らしていた。

ルフィーナは微かに笑みを浮かべ、胸の奥で小さく願った。

ーー明日もまた、みんなと一緒にいられますように。


星が小さく瞬いた。

まるでその願いに、応えようとするかのように。

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