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冒険未満の下準備

 やってきたのは、エルバー伯爵領から歩いて数時間の森。

 ここは、俺にとって最高に望ましい狩り場なんだ。


「おっ! いきなりゲット!」


 まずは、体力回復や魔力回復効果のある薬草などの群生地。

 滋養強壮に効く素材が多数在る代わりに、だ。


「出たな、昆虫型モンスター!」


 やたら物理防御力が高い虫型モンスター。

 虫の卑怯なところは、空を飛ぶところだ。

 しかし、今の俺は万能型のフェリックス・ローラン。


「重力魔法で地に叩き落とせば、こっちのもんだ! ひゃっほう! 素材の山だぜ!」


 地で鈍い動きをしている昆虫型モンスターを次々と双剣で仕留めていく。

 うげ……。

 ゲームと違ってリアルでキツイ。

 素材の剥ぎ取りも一筋縄じゃいかない。

 残った残骸が消えて行くなんてこともなく死骸が散乱する。

 こんなん、埋めておかないと疫病の温床になるの間違いなしじゃねぇか。


「我慢我慢……。このまま、素材回収ルートを進みながらワルグ村へ向かおう」


 子供の身体と大差ない麻袋パンパンに採取素材や剥ぎ取り素材を根こそぎ集めていく。

 そうして、丁度良い塩梅で夜になる頃にはワルグ村に辿り着き、古びた汚い鍋を借りる。

 代金は途中で採取しておいた果物。

 飢えた人々にとっては、そのままでも食べられるものが第一だ。

 だが、俺は飢えに勝てる。

 負けません、装備を調えるまでは!


「フェリックス? 何を茹でてるんだ?」


「これは調合だ」


「調合? 料理みたいなもんか?」


 知識を得る機会がなかった村民からすると、調合なんて縁もないんだろう。

 しばらくは珍しげに見つめていた難民たちも、夜が更けると寝静まっていく。

 そうして朝陽が登る頃には、完成していた。


「低級ポーション大量ゲット! これで体力管理と魔力管理は一先ず安心だ!」


 小型の樽に詰め込めるだけ詰め込んで、俺は再び森の中へ向かう。

 ちょっとだけルートを迂回して――今度は小型のモンスターが散見される場所へ。


 小さい二足歩行の竜が三匹……。

 まともに戦うのは、まだ避けたい。

 何せ、この世界にやり直しは効かないんだ。

 死んだら終わりと考える以上、最初は石橋を叩いて渡る。

 意地でも推しが活躍するのを見るんだ!

 死なないで、推しキャラが最高に輝くルートを順調に歩む手助けをしてみせる。


「当たれぇえええッ!」


 低級麻痺ポーションをモンスターに全力で投げつける。

 低級だから完璧ではないが、明らかにスタン状態になっている。

 あとは作業だ!


「フィジカルブースト! 双剣通常技! 固有スキル!」


 威力はゲームでプレイしていたような爽快感こそまだない。

 何回も何回も斬り付けて、やっと倒せるぐらいだ。

 しかし、最初は弱いからこそ上っていくのが楽しいんだ!


「牙に爪に皮、武具の素材剥ぎ取りじゃぁあああッ! はい、お肉も上手に焼けました!」


 腹ごらしをしながら攻略サイトに描いてった必要量の素材を集めまくる。


 そうして領都へ戻ると、低級ながら鍛冶場を借りるだけの対価は集まった。

 鍛冶もこなすフェリックス・ローラン。

 もちろん、俺自身は初体験だ。


 隣で見ていた職人に怒鳴られながらも「こうですか!?」と作成していくうちに、「筋がいいじゃねぇか」なんて肩をバンバン叩かれた。


 そうして自分用の装備を手に入れ、身に着けると――。


「――楽しいぃいいいッ!」


 奇声を上げる俺へ、職人たちの怪訝な瞳が向けられている。

 きっと連日の徹夜により、俺の目は血走っていたことだろう。


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