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お約束が通じない寂しさ

「さて、小僧。資質を示したらからには、冒険者になるのは問題ない。だが、規定により最低ランクのFランクからだ」


「ああ」


「い、いいのか? お貴族様の私兵騎士なら、最低でもDランク冒険者……。中型モンスターと単独で立ち向かえるンだぞ? お前なら、もっと高ランクを要求すると身構えてたんだが……」


「ルールは守る」


 意外そうな顔をするギルドマスターのオッサンだが、俺にとってはFランクからで良いんだ。

 そもそも、高ランクとして名を馳せてしまったら、メインシナリオに差し障るかもしれないだろうが!

 それに、薬草採取から段々と順を追って強くなるのをすっ飛ばして、アカレジェを堪能していると言えるのか?

 いいえ、言えません!

 そんなチーターみたいな奴は、垢バンだ。


「そうか……。俺は、まだお前を見誤っていたようだ。それじゃ、ギルドカードを作るが……。文字は書けるか?」


 これ、日本語じゃねぇか。

 日本のゲーム会社が作ってるから当たり前と言えばそうなんだが、中世~近世ヨーロッパが舞台の世界に日本語ってメッチャ違和感だな。

 そのうち、どう考えてもバイクとか飛行船も登場するし……。

 何でも詰め込んだクソゲーに統一感とか求めても無駄か。


「問題ない。ここに署名すればいいか?」


「フェリックス、か。おもしれぇガキだ。しっかり覚えたぜ」


 オッサンに覚えられても嬉しくない。

 推しキャラのリアム王子やメルク聖女なら小躍りするけどな。

 他にも、俺の好きなサブキャラとか……。


「Fランクは薬草や錬金素材の採取がメインだ。探すだけでも割に合わないが、本当にいいんだな? 普通に俺が斡旋する工事なんかの仕事をすれば、倍――安定して一万ゼニーは一日で稼げるぜ?」


 ゼニーは、日本円と変わらないぐらいの貨幣価値だ。

 日給一万円は、まだ共通ルート開始前の子供と考えればデカい。

 難民村の奴らに、僅かながら飯を分け与えられるだろう。


「構わない。俺は、この辺の情報を知っている」


「……なるほどな。フェニオ丘陵から魔の森は近い。モンスターや採取素材の群生地も知ってるってことか」


「まぁ、うん。そんな感じだ」


 ごめん、嘘吐いた。

 何度も何度も周回したから覚えてるだけだ。


「そういうことなら、これは俺からの選別だ」


「鉈に、ナイフ、採取袋か? いいのか?」


「ああ。俺のお古だ。レンタル料金を払う金も最初はないだろう?」


「登録料すらない」


 何も胸は張れないが、無一文だ。

 ファイトマネーと思って受け取っておこう。

 気が変わったとか言われないうちに、ギルドカードと道具一式を受け取った。


「……長生きしろよ。だいだいの冒険者は成長前のFランクかEランクで死ぬ」


「身の丈に合ってないモンスターと出会っても戦う術がないからか?」


「そうだ。逃げるのも勇気なんだが……。実際に孤独な状態でモンスターに出くわせば、まともに動けねぇ。分け前は減るが、パーティーを汲む気は――」


「――ない」


 即答する俺に、ギルドマスターのオッサンは不安げな表情を浮かべた。

 意外と優しいんだな。


 だが、俺のパーティーを組む相手はアカレジェの登場キャラのみだ。

 それに、ぶっちゃけ鬼攻略をする俺についてこれるとは思えない。

 徹夜してキャラレベリングやら装備品コレクション……。やりたいことが一杯なんだ!


「実力があるとはいえ、ガキが自由に遊べねぇとは……。魔王軍や帝国も不穏だし、大人が不甲斐なくてすまねぇ」


「気にしないでくれ」


 だって、それはクリエイターが悪いから。

 そういう世界に生きてる人々は、ある意味で被害者とも言えるだろうからね。

 常駐クエストである採取系へ向かうため、冒険者ギルドの出口へ向かう。


「フェリックス! モンスターに出会ったら素直に逃げろよ? お前の魔法なら足止めにピッタリ何だかんな!?」


 背中に話しかけてくるギルドマスターに、俺は振り返りもせず格好付けたくなった。

 人生で一度は言ってみたかった言葉だ。


「足止めをするのは構わんが……。別に倒してしまっても構わんのだろう?」


 言えた!

 超絶格好良いキャラの名言を!

 フェリックス・ローランじゃなければ、恥ずかしくて口にもできなかった。

 感無量だ……。


「何言ってやがんだ? 思い上がって死ぬのはテメェだかんな!」


 ネタって、知ってる人同士にしか伝わらないよね……。

 寂しく背中を丸めて、俺はギルドをあとにした――。


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