テスト
オッサンの「分かった」という神妙な声で、ギルド裏にある鍛錬場に出て来た俺たち。
野次馬にも囲まれてしまい――胸が高鳴っていた。
こんなん、まさにゲームの世界にありそうな展開じゃないか!
「おい、ガキ。今日は油断しねぇ。事故で死ぬ……いや、手足を切り落とされて藻掻く姿が楽しみだぜ」
「コビー・ウルド。二人で挟み撃ちだ」
開始の合図がある前から、魔力を練っているらしい掌が見える。
ふっふっふ。
こんな時、俺の推しキャラであるリアム第二王子なら、盾を生かして魔力防御を展開するだろう。
あるいは、聖女メルクなら魔法へのシールド魔法か?
俺は、ギルドでのレイドボスのパーティーで腐れ縁メンバーが使っていたフェリックス・ローランの立ち回りを見ていた。
その上で、ここは絶好の機会だ。
思う存分フェリックス・ローランの力を発揮して、力を認めさせる!
このいけ好かないヤツらを泣かせてやるぜ!
フェリックス・ローランと言えば、ジョブはデバフアタッカーメインだが、回復魔法以外は何でもこなすスペシャリストだ。
冒険者ギルドのクエストなら、討伐系から素材採取依頼、野盗退治、アサシン能力が必要とさされるものやトレジャーハントまでこなせる。
動画投稿サイトの実況動画で見た情報だけどな。
昨日の感覚から、ジョブレベルは全て最弱ながら、基本技は解放されている状態とみて良いだろう。
早く俺にアカレジェの技を生体験させてくれ!
「さぁ、いつでもこい」
むしろ早くしてよ!
ウズウズしちゃうの!
「涼しい顔しやがって……なめんなよ!? 貧乏人の分際で!」
涼しい顔をできてるかい?
ふっ。それは演技だ!
実際、顔がにやけそうでたまらんのだよ。
はよ、こい!
「よし、いくぞ!」
「ああ!」
剣を手にツッコんでくるコビー・ウルドとやらには、アンチマジックシールドが張られている。
後ろのもう一人が発動したんだろうが、どう考えても発動時間的にフライングだ。
だが、問題ない!
「シールドブレイク」
「「なっ!?」」
俺のレベルは低いが、なんと言ってもぶっ壊れ性能のアカレジェ主要四キャラだぞ?
低レベルと見るからに分かる騎士擬きの魔法なんて、アンチ魔法で一発だ。
まだまだ、こっからだ!
「気配遮断、筋力ブースト」
よし、これも発動したっぽい!
うひょぉおおおッ!
初めて本格的なチャリで風を切って走ったようなコウゴウと耳を切り裂く風の音!
アカレジェ最高ぉおおおッ!
「後ろだ」
「なっ!? 消えた!?」
魔法を放ってきた方の男は、驚愕に振り返り――。
「――スリープ」
俺の魔法で、ガクンと崩れ落ちた。
流石にレベルが低いからか、完全に眠りに落ちてはいないみたいだけど……。
まぁ十分だな。
後で起きたら、魔法の練習台になってもらうとして、だ。
「てめぇ!? どんなイカサマをしやがった!?」
「才能というイカサマだ」
「ふざけんな!」
いや、マジです。
現実の俺なら、階段から落ちて死ぬレベルのもやしだから。
フェリックス・ローランという壊れキャラだから、ここまで無双できるんだ。
もっとも、こっからは努力で超ぶっ壊れになる予定だが。
その為にも冒険者登録は必須。
次は武技を試すか!
「いくぞ」
「くっそがぁあああ!」
フィジカルブーストで双剣を構えた俺が駆けると、コビー・ウルドとやらは守りを固めた。
今さらながら、物理耐性に特化した魔法も発動しているようだ。
何度もアカレジェでは目にしたが――生で、近くで見せて!?
「血走った目をしやがって! 何て殺気だ!?」
違うよ?
これは――愛だ!
「存分に試させてもらうぞ。双剣通常攻撃」
脳内にあるまま、まずは通常攻撃を試す。
他にも連携技や特殊スキルを織り込むものだが、まずはコレ!
「ぐ、はや……っ! ぐあぁあああッ!」
通常技を三回ぐらい叩きこんだだろうか。
持っていた剣を弾き飛ばされ、ザックリと胸を袈裟斬りに斬られたコビー・ウルドが倒れた。
「……え?」
「それまで! 誰か回復ポーションを早く!」
審判役をしていたギルドマスターが叫び声をあげながら指示をしている。
ちょ、待ってよ……。
普通、チュートリアルでも全部の技を使わせてくれるじゃん!?
「小僧、お前の価値だ。どうやら、俺の目が曇ってたみてぇだな。冒険者登録を認めよう」
「あ、ああ」
何だろうな。
一番の目的は達成したのにさ……。
せめてアカレジェ基礎のチュートリアル網羅させてくれるぐらい踏ん張ってよ!?
不完全燃焼だァアアアアアアッ!