フェリックス・ローラン?
「……え?」
何か、よく分からないけど……。
アカレジェでのデバフやバフ魔法の演出そっくりの光が身体に灯ってる。
コビー・ウルドにはデバフ。俺には――バフ?
まさか、演出?
こんなガチで痛い演出に巻き込まれるとか、聞いてない。
「絶対に、出演料は多めにもらうからなぁあああッ!」
「ガキが多少の魔法を使えたところで調子に――……ぇ?」
コビーウルドが驚愕に目を剥く。
それも当然だろう。
俺の木の棒が強化されているのか、硬い。
そして、自分でもビックリな速度で斬り込めた。
その動きは、自分の選択キャラではないが、ギルドで挑んだイベントで何度も目にした――フェリックス・ローランのように。
「お、俺の剣が!?」
木の棒と衝突した剣は、どこかへ弾き飛ばされていった。
村人役の人か?
周囲の人は慌てて避けてる。
危なっ! 当たらないといいが……。ごめんなさい。
「コビー!? クソガキが!」
もう一人の男も剣を抜こうとしたが――もう十分だろう。
イベントにしても、いらないでしょう。
「なっ!? 疾い!?」
剣を抜きかけた手を掴み、鞘ごと剣を奪う。
驚愕に目を見開いた男は、ジリと後ずさり大粒の汗を流した。
「な、何て魔法の才だ……」
迫真の演技だね。
まぁ、俺をここまでボコボコにするぐらいなんだ。
本気のイベントなんだろうね。
許可なく巻き込まれた側としては、たまったもんじゃないけどな。
「覚悟はできてるんだろうな? 俺は、やられたらやり返す」
「ちょ、調子に乗るなよ!? 浮浪児が!」
「誰のお陰で普段、生きていられると思ってやがる!」
まだ続くの?
もう、ガチで終わりにしてほしいんだけど……。
身体痛い。
「ふぇ、フェリックス! 俺たちも戦うぞ!」
「え?」
「そ、そうだ! この剣があれば、俺だって! いつも、偉そうなテメェらに復讐したかったんだ!」
「……あ、そういうシナリオ?」
周りで見ていた汚すぎる格好の村人役の人たちが、吹き飛んだ剣やボロい農具、角材などを手に次々と集まってくる。
「まだガキのフェリックスが頑張ったんだ。俺たちだって負けねぇぞ!」
「誰がガキだ」
「護ってやれなくて、すまねぇ! だが、俺たちは覚悟を決めたぞ!」
「何のだよ」
というか、フェリックスって……。
俺、もしかしてフェリックス・ローラン役なの?
だとしたら、ここはワルグ村って設定?
「お、おい。武器がない状態で、これは……」
「分かってる! 逃げるぞ、コビー!」
ああ、やっと終わるのか。
長くて、手の込んだイベントだった……。
というか、何のイベントだよ。
騎士風のコスプレ野郎二人が、全速力で逃げ去っていくと、村人たちがワッと群がってきた。
いや、臭っ!
え、本気で役作りしすぎじゃない!?
「フェリックス! お前は村の希望だ!」
「領都のヤツら、言い様だ!」
「だ、だが……復讐に来たら、どうする?」
「それは……。て、徹底抗戦だ! まだガキのフェリックスが理不尽に立ち向かったんだぞ!」
「そうだ! 俺たちには、もう行く場所もねぇ。自分たちの居場所は、自分で守るんだ!」
熱狂。
演技とは思えないぐらい、切羽詰まった表情をした人々の姿を見て、まさかと思う。
改めて自分の手を見れば――小さすぎる。
「あの……。鏡とか、ないですよね?」
「鏡? そんな高級品、この村にあるわけねぇだろ。ああいうのは、お貴族様たちがパーティーで贈り合いするような道具だろうが」
「あ、そうですか。……多分、それって社交界アイテムだよな。じゃあ……俺って、もしかしてガチでフェリックス・ローランですか?」
「ローラン? お前はフェリックスだろ。お貴族様や騎士でもないのに家名なんかねぇだろ」
あ、これガチなやつだ。
フェリックス・ローランは、帝国の皇位継承争いから逃亡した。
皇族の血縁と分かるローランの名は、真の仲間たちにしか話さない孤児設定だった。
いや……。ラノベとかで読んだことは沢山あるよ。
だけどさ、まさか自分の身に起きるとは……。
ゲーム世界への――転生。
それに、だ。
「何で、転生先が推しキャラじゃねぇんだよぉおおおッ!」
「フェリックス!? どうした、頭でもやられたのか!?」
「あいつら、次にきたらボコボコに頭殴ってやる!」
違うわ!
どうせ転生するなら、俺の推し!
聖女のメルクは性別が違うから置いといても、第二王子のリアムがお約束だろう!
とは言え――俺は大好きなゲーム、Academy of LegendS。
アカレジェの世界へ転生できた。
色んな意味でクソゲーと言われるが、現実世界より素晴らしき世界に――。