人生なんてクソゲー
「人生なんてクソゲーだよな」
『分かる~。強制重課金、働いても罰金でさぁ。もっとBL本にも貢ぎたいのよ!』
『ガチャは物欲センサーが働くよねぇ……。GL好きなウチとしては、社交界アイテムとスキンが……』
少数ギルドで、普段から仲良くなった四人の作業通話は、いつもアカレジェと人生が如何にクソかという愚痴の場になっている。
女性陣二人も、BL本に貢ぎたいとか、アカレジェのGL要素を更に高めていきたいとか……。
まぁ欲望に素直なのは、いつも通り。
『僕はアカレジェの火力にぶち込みたいな。武器ガチャ爆死とか辛すぎ。狩りと剥ぎ取りだけだと、時間が溶ける! 睡眠時間が……ッ!』
うん、こいつは俺と同じ男なんだが、取り敢えず趣味は違う。
俺は、王道的なNLを貫く二人が協力プレイしていくのを見たい。
一先ず、選択キャラである王子が万能に成長するようプレイと課金をしてるからな。
多分、長年こいつらと上手く行ってる理由の一つには、推しが被ってないことがある。
それぞれが別の推しキャラや性癖を持ってるから、互いに『良さを教えてやる!』なんて集い始めた訳なんだけど……。
いつの間にか、議論や布教合戦も落ち着いて、腐れ縁になっている。
共通してるのは、アカレジェが大好きで――金欠なことぐらい。
推し活って、そういうものだから。
働いても働いても、まともな収入じゃ――。
「――なぁ同人誌で一発逆転狙わね?」
まともじゃない収入なら、足りるんじゃね!?
『いやいや、私たちマンガやらイラスト知識ないでしょ? 書けるの?』
『ウチは趣味で勉強してたけど……』
『う~ん。僕も興味はある、けどね』
俺の提案に、三人は微妙な反応だ。
確かに、甘い世界ではないだろう。むしろ、修羅の道かもしれない。
だが、だ!
「俺たちの推しキャラへの愛は、そんなもんか!?」
俺の言葉に、皆がハッと生きを飲む空気が伝わって来た。
「誰にも負けない愛を込めて、自分の推しキャラが最高のルートを歩んでる同人誌! これは金稼ぎだけでなく、推し活資金回収。更には――布教活動だ!」
我ながら、何を言ってるんだろうと思う。
相当に変なテンションなのは、新入社員より給料が低くなったうえにハラスメントに怯える日々でブチ切れていたからだろう。
きっと、そうだ。
『そうね……。フェリックス・ローラン×リアム・ティルタニアの世界……。いよいよ、私の脳内から世に広げる時かも』
『万能双剣使いローランの、爽快なバトル無双! これは流行にも乗ってるし、イケるか!? 燃えてきたぜ!』
『ウチは聖女メルク・ホーエンベルクが猪突猛進なアリス・シュタインベルクを押さえ込んじゃう百合展開が描きたい、皆に美しさを広めたいかも! ああ、でもBLの良さも最近分かってきたし、両方いきたい』
順調に仲間に染められているらしい。
ヤバい。
自分の性癖と推しが侵蝕され始めてる。
いや、相互理解か?
とにかく、だ。
「好きなら、とことん貫こうぜ! 推しへの愛を! 目指せ、同人誌即売会で大布教! そして推し活資金ゲット!」
こうして、俺たちは死に物狂いで推しへの愛をマンガやイラストに込めていった――。
半年以上、俺たちは究極の愛で推しを描く力を高めていった。
そうして迎えた、アカレジェの同人誌即売会だったのだが――。
「――……何冊売れた?」
「……僕は、皆と交換したの以外はゼロ」
「奇遇ね、私もよ……」
「ウチも……」
現実は甘くなかった。
画力なんてものは、付け焼き刃では付かないのだ。
「人生の難易度設定、バグってるよ……。やっぱり、この世界はクソゲーだ。要素を詰め込みすぎた挙げ句、キャラ選択後は一人の視点しか選択できないアカレジェとは違ったガチのクソゲーだ」
出店ブースの前を、ひたすら人が通過していくのを眺める一日が終わり……。
コロコロとスーツケースを転がして撤収していく俺たちは、背を丸めて駅までの道を歩いていた。
地面の舗装と夕焼けが目に染みるからかな……。涙が出て来た。
早く帰って癒やされたい。
売れ残った百冊近い同人誌が入った重いスーツケースと莫大な赤字が背にのし掛かる。
そうやって階段を降りてる時だった。
「ママ! 電車いっちゃう! 早く早く――ぁ」
「ぇ?」
子供らしき声と後ろからの衝撃に体勢が崩れたかと思うと――愛が詰まったスーツケースが階段を転がり落ちていく姿が見えた。
「「「「うぉおおお!? 愛の結晶が!?」」」」
慌てふためく馴染み四人の声が響いたのを最期に、俺の意識はフッと暗闇に包まれた。