ワルグ村とフェリックスの危機?
伯爵が高笑いを浮かべてから、数時間後。
夜闇には――炎と煙が立ち上っていた。
本来、この村が成すべき役割。
モンスターが押し寄せた時の、狼煙代わりのようにだ。
「き、きた!?」
「フェリックス、俺たちに、いつもの装備を――」
「――全員、予定していた通り領都へ迎え!」
村人たちの言葉を遮り、俺は村人に領都へ逃げるよう促す。
ここまで村人を原作崩壊に導いておいてなんだが、共通シナリオをブチ壊されてたまるか!
こいつらには、逃げてもらわないと困るんだ!
「フェリックス、本当に一人で!?」
「俺が食い止めてるうちに早く!」
「わ、分かった!」
ボロボロの家屋が燃え、煤に汚れた村人たちが領都へ向かうのを見て――俺は目の前のモンスターを見据える。
ここから、領都へ村人が辿り着くには相当な時間がかかる。
おそらく、夜更けになるだろう。
当然、エルバー伯爵軍はこない。
ゲームだと、場面転換して一瞬だったが……。
未熟な帝国皇族、『臥龍』たりフェリックス・ローランは、最後の居場所と恩ある村人を逃がしきるべく、血みどろの死闘を繰り広げる。
「ほいっと」
拳を振り抜けば――モンスターの頭が弾けた。
当然、装備はなし。
それでも、共通ルート前から一年以上、全力でアカレジェを満喫していた俺からすれば、こんな開幕前に押し寄せるモンスターとか鎧袖一触。
わざとモンスターの返り血を浴びることで、自分も傷だらけになる演出をするレベルだ。
生臭い匂いも今日に限っては全く苦じゃない!
「この後、王女と聖女に会える会える会えるぅううう! 俺の推したちぃいいい!」
尊き二名が、この後でやってくるのだ!
「漲ってくるぜぇえええっ!」
モンスターの群れに飛び込み、踊るように屠る!
違和感がない範囲で魔法を使い、拳や足が敵を屠り続ける。
早く来て、でも胸が鼓動が心臓がぁあああ!
暴れないといられないぐらい、緊張する――。
▽~エルバー伯爵領都、城門前~△
「は、伯爵様へ、お伝えくだされ! どうか我らの村を……っ!」
「……今、軍を編成している。最低限の守備兵を残し、エルバー伯爵の寄子である多数の領軍が終結しているのだ」
「それは、拝見すれば分かりますが……」
城門の前――ワルグ村に近い門には、軍勢は終結していない。
だが、門から覗く領都や、王都側の主要街道付近の空き地には遠目からでも分かるぐらいの軍勢が集いつつあった。
現時点でも、二千人近くの兵が隊列を整え集結しているだろうか。
それだけの人数が既に集っているのではあれば、ワルグ村への救援には足りるはずなのにと村人は悔しさで顔が歪む。
ああ、やっぱり我々は伯爵には人間とすら思われていない。
税だけは持ていかれるのに、領民だとすら認識されていない。
どこにも、居場所なんてない。
社会の一般から外れ、あるいは生まれが悪い人間の集まりだ。
我々は、やはり捨て駒でしかないのだ、と。
「……せめてもの情けだ。門を通るのは許す」
「…………」
「中で大人しくしろよ」
この中に入った所で、助かるのは一時の命だけだ。
同じような仲間と築いた場所はモンスターに蹂躙され、領都の中でも乞食として死んでいく姿しか見えない。
何より、だ。
「どうか、どうか! 村には我々が逃げるのを助けてくれた……。我らが恩人が一人で戦っているのです! 伯爵様には会えずとも、どうか軍の指揮者の方へ――」
「――私に用か?」
「き、騎士団長!?」