遂に共通ルートイベント開始!
ここからは、いつ共通ルートに入るか分からない。
俺は、いつもの装備を回収し――転生した時の状況と似た状況を作り出した。
村人は、食べるものも希望もなく、路上で寝転んでいる(肌艶は最高)。
神や服装もボロボロだ(自動回復裁縫加工は裏地に施し済み)。
「この光景、まさに――イベントアニメーションの構図だ」
ああ、たまらない!
季節、天候、配置、まさに開始シーンだ!
だとすれば――。
「――ぐわっはっはっは! 喜べワルグ村の難民共よ。貴様らゴミが役に立つときがきたぞ!」
檻に入れられ、翼と鱗を持つ人型生物――魔族だぁあああっ!
やった!
生で見られた!
魔族は、モンスターと共存共栄する種族。
魔領の中から、人類側の領域にくることは滅多にない。
地下格納庫へ閉まった魔動二輪車に乗っても、魔領にはいけないのだ。
この男――エルバー伯爵が捕らえてきたからには、どこからかはいけるのだろう。
だが、原稿の配信バージョンではマップが公開されてない。
そして魔族は――特殊な設定がある。
「やれい!」
「「はっ!」」
檻がワルグ村に降ろされると、伯爵が偉そうに手を振り下ろす。
出て来たのは――久し振りのコビー・ウルドと、もう一人だ!
あいつら、モブとして登場してたのか!
もっと大切に観察しておけば良かった。
ここからのシナリオは――胸くそだ。
「ぎゃぁあああッ! 止めろッ! 下等生物どもが!」
「黙れ、人類の敵!」
「ふっはっはっは! 檻の中から吠えるなクズめ!」
檻の中で抵抗できない魔族へ、槍で甚振るように傷をつける。
わざと、出血が多くなるようにだ。
飛び散った血は、ワルグ村の大地へと染みこんでいく。
それを満足気に見守ったエルバー伯爵は、頷くと二人を止めた。
「よくやった。これより、貴様らは幌馬車で王都の裏門へ迎え。この魔族を運搬し、王都内にある我が騎士、シュタインベルクの親族が運営する商会倉庫へ置いてくるのだ」
「は? お、王都内へ置いてくる、ですか?」
「うむ。闇商人が見世物にしたいようでな。高額の取引が予定されている。貴様らも任務を果たし戻ってきたら、褒美をやろう」
「おお!? ありがたき幸せにございます! さすがは閣下!」
「龍種などレアモンスターの武具、社交会道具、調教済みモンスターや錬金物。古代文明ダンジョンの産出物。好きな褒美を考えるが良い! さぁ、ゆけ!」
世界観を伝えるかのように、主要な――かつ高給な褒美をチラつかせる伯爵。
それを聞いた二人は、目を輝かせた。
未だ血に塗れる魔族が揺れるのも構わず、幌馬車へ積み込もうとする。
「おのれ、おのれぇえええ! 貴様らには、我らが血の報復が訪れる! 楽しみにしているがいい! 地獄で貴様らを待っているぞ!」
憎悪に満ちた形相の魔族が叫ぼうと、伯爵は余裕の笑みを崩さない。
まぁ、それはそうだろう。
「ふん、早く行け。全速力でだ」
「「はっ!」」
幌馬車の中からは、なおも怨嗟の声が響いているが、馬車は血に濡れながら走りだす。
ガラガラと音を立て、主要街道ではなく最短距離を進むべく道なき道を。
辺りには、魔族の流した鉄臭い血の香りがプンプンと漂っている。
鼻を摘まみながら、伯爵はワルグ村の民へ視線を移した。
「ゴミも使いようか。魔族の血は、同族や部下たるモンスターを呼び寄せる香りを放つ」
そこまで言われると、ワルグ村の民――俺も含め、動揺に瞳を揺らし顔を向け合う。
「貴様らのような、脛に傷のある犯罪者や逃亡者、難民を今まで我が領内で生活させてやったことを感謝しろ。――もうすぐ、ここはモンスターが波のように襲ってくるだろうな」
ザワザワと、ワルグ村の民が騒ぎ始める。
そして、老人が土下座する勢いで伯爵の足下へ寄った。
「エルバー伯爵様。どうか、どうか我らも御守りください! 私たちは、ここ以外には行くところもなく……」
それを聞いた伯爵は、ニヤリと笑った。
「住民からの救援依頼。しかと承った。これは大軍を編成配備せざるを得んなぁ。オイ、周辺で話が分かる領主にも使いを出せ」
そこまでなら、領主としての責務だっただろう。
「モンスターの大軍の征伐だ。安全に達成するには、それはそれは大規模な軍が必要だろう。場合によっては、戦の準備ができていない王都を間違って占領してしまうほどになぁ」
血を流す魔族を載せ、王都へ向けもの凄い速度で駆けていく馬車を見やり、伯爵はたまらないといった悪辣な笑みを浮かべた。
そう。
これは――ティルタニア王国へのクーデターイベントだ。