村人覚醒
え、人の群れ?
ヤンキーマンガで囲まれた光景?
そう思うぐらい、村人が集まってきていた。
「ゾンビパニック、バイオハザード……」
思わず呟きたくなるほど、人の群れが怖い……。
これ、もしかして昨日募集かけた結果?
「フェリックス。声をかけたら、村人がほぼ全員集まったんだが……」
「ぜ、全員?」
「流石に無理か? そう、だよな」
普通に考えたら、人を雇用するには大量の資金がかかる。
資産家や領主でも無い限り、どう考えても無理だろう。
「お、俺たちも……もう一回、普通に働いて普通に報酬をもらう人生をやり直したいんだ!」
「全うに生きられるなら、全うに生きたいんだ!」
「フェリックスが何をやってるのか分からないが、仕事がほしいんだ!」
就職難民の集いかよ。
いや、気持ちは分かる。
普通に生きて普通の生活をするというのは、案外難しい。
ましてや、推し活のような生きる支えになるエンタメもないこの世界では、そうだ。
それなら――見捨てていけない
「俺は、この地下に誰にもバレない秘密の都市を作ろうと思ってる」
何を言ってるんだ、こいつ。
皆が、そういう顔をしている。
まぁ、それはそうだろう。
作るなら、地上に作ればいいだけの話だ。
しかし、それでは貧しい村が犠牲になるのを救いにくるという――第二王子リアムと聖女メルクの見せ場がなくなる!
「詳しくは話せないが、俺は地下に大量の保管庫を作る予定だ。その他にも、皆が暮らせる住居や地下水脈を利用した何かを発展させたい」
とりあえず、脳内にイメージは湧かなくてもいいが、労働目的の説明は必要だ。
地上の住居の内装だけを変えるのは、ちょっとクラフトレベルが高すぎるからな……。
いつか、レベルが上がってできればだな。
「とりあえず、俺が言ったものを採ってきてほしい。道具はこちらで用意するし、報酬の心配は要らない」
「ほ、本当か!?」
「ああ。嘘はつかない」
何しろ、鬼の周回が約束されているからな。
絶対に周回中に余りすぎた素材を作って売れば食料などは余裕で手に入るだろう。
勿論、飢饉とかが起きたらヤバいが……。
その時は、森とかで俺自身がレベルを上げた採取技能などを活かせば良い話だ。
「ありがとう! 感謝する!」
「ああ、人生をやり直せるぞ……!」
感動に打ち震える人々を見てると、鬼の周回を頑張らねばとなるな!
装備をガンガンコレクションしていって強くなったら、もっと稼げるだろうし遠征もできるからな!
共通ルートの開始までに、現時点で最強の推し活セットを整えるのだ!
貢ぐために、胸が高鳴るぜ!
村人が俺に者を貢ぎ、俺が推しに貢ぐ!
見事な食物連鎖だ!
「じゃあ早速、鉱石と木材を頼む。場所は――」
記憶にある採取ポイントを元に村人へ指示をしていく。
そうして、数ヶ月が過ぎた頃には――地下都市と言うには規模が小さくアレだが、地下村のようなものが出来上がった。
「フェリックス! 次は何処を開拓すればいい!?」
「あ、ああ。次は、あっちに公衆浴場でも作るか」
「公衆浴場? 良く分からんが、また設計図をくれ」
「分かった。あとでな」
目を輝かせながら、背筋を伸ばしながら小走りで去るオッチャンの姿が、数ヶ月前のゾンビと同一人物には思えない……。
やっぱり、人は生き甲斐で輝き方が変わるんだなぁ。
言うなれば、アカレジェと出会う前の俺か、出会った後の俺かみたいな話しだな。
「それにしても……。俺のコレクションハウス計画が、思った以上に凄いことになったなぁ……」
しみじみとしてしまう……。
お陰様で、装備もスキルも大分上がった。
しかし地獄の法具厳選は、まだまだ終わる兆しがない。
「楽しみながら、ガンガン進めて行くか!」
この人たちの姿を見てると、地味な周回もやる気が湧いてくる!
結局、俺の法具厳選が終わったのは――一年後だった。
意気揚々と、ランクの高い依頼を受けるためにエルバー領都のギルドへ向かうと――。
「――フェリックス。お前、ナメてんのか?」
ギルドマスターが、痛そうに頭を押さえて話しかけて来た。