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難民の集い、ワルグ村に手をつける

 ワルグ村へ戻ると、人生を諦めたような、疲れたような顔をしている人々が農作業やボロ家の修繕をしていた。

 農作業とは言っても、痩せた土地や栄養のない土だから、まともに食べられるものじゃない。

 そもそも、井戸だって殆ど枯れてる。

 用水路なんて在るはずもないから、かつての名残りでやってるだけなんだろう。

 作物を作れるなんて思ってないのか、顔に生気はない。

 何というか、虚ろな眼でゾンビが動いているようだ……。


「会社の繁忙期、家に帰った瞬間の俺みたいだな……」


 他人事とは思えない……。

 人ってのは、先々の暮らしが良くなると思わなければ、無気力になっていくんだ。

 もしくは、推し活という希望。

 とにかく、何らか明日を迎えるのが楽しみにならないといけない。

 そこで、だ。


「皆、俺が少しずつ希望を見せるからな」


「ん? フェリックス、どうした?」


 力ない声で尋ねて来るのは、俺と同じで路上生活をしてるオッチャン。

 ボロボロの服に雨水でボサボサな頭は、見ていて辛い。

 ゲームでは気にならなかったのに、やっぱり放っておけない。


「この村に、極秘の地下都市を作る」


「……何言ってるんだ?」


「オッチャン、俺を信じて手伝ってくれないか?」


 ぶっちゃけ、一人でやるにはクラフトはキツイ。

 ゲームみたいに運搬が便利な訳じゃないんだ。

 オッチャンは、しばし俺の瞳をジッと見つめ――フッと微笑んだ。


「いいぞ。どうせ、森に入って木の実を採るしかやることなかったんだ。いつかモンスターに食われて終わる日がくるのを待ってるだけだった。俺の人生、好きにしろ」


「本当か? 森でまずは木材を大量に採ってきてほしいんだ」


「ああ、分かった。飯を採るついでに、拾ってくるよ」


「助かる。道具はこれを使ってくれ」


 俺が街で買ってきた木こりセットを渡すと、「俺もやる」、「人生の暇つぶしだ」と、積極的ではないが次々と手伝ってくれる人が現れた。

 これでいいんだ。

 最初から、人が積極的に夢を持ってガンガン動くはずがない。

 少しずつ成果という成功体験を得て、人のやる気は醸成されていく。

 アカレジェで言うレベリングや装備制作とモンスターハントみたいなもんだ。


「皆、森に行くときはこれを貸す。持って行け」


「こ、こんな武具……。フェリックス、なんでお前が?」


 それは、俺が周回していて作れてしまう量産装備品だ。

 鍛冶レベルアップの為に作ったが、ないよりはモンスターの餌になる確率も減るだろう。


「たまげたなぁ……。まるで立派な冒険者になった気分だ」


「あげないぞ? ただ、俺が言った時期以外ならいつでも貸す」


 具体的には、主要キャラと会う時期以外な。

 共通ルートブレイクは許さん。


「フェリックス……。おめぇは大物になるんだろうな」


「ああ、間違いなく」


 自信を持って頷くよ。

 だって、出自は帝国の皇族だし、学園編では第二王子の親友として主要チート四キャラに名を連ねるんだから。


「はっはっは。……ありがとう」


「ありがとう?」


「未来ある子供がいる。……それだけでも、明日も生きるために何かしようかって気になるんだ」


「……そう、か」


 やべぇ。

 鬱なんですけど。

 アカレジェ、こんな重い鬱ゲーじゃないんだ。

 早速、皆に森へ素材採取に行ってもらった。

 これ以上聞いてると、『人生はクソゲー』と言いながらアカレジェに出会えなかった俺の姿を見ているようでいたたまれない。


 そして俺は、この何の敷居もない村の外れで――地下に通じる穴をガツガツと掘り進めた。

 身体強化魔法の力とは偉大だ。

 僅か半日もした頃には、マンホールより少し拾い範囲を十五メートルぐらい掘れたんだから。

 朝に頼み、そして夕暮れ時。

 皆は顎が外れる程に驚いていた。


「今日はありがとう。これ、お礼の飯と水」


 街で予め買っておいた水と携帯食料を差し出すと、皆はすかさず手に取り涙を流し始めた。

 この村では、金なんて食べられないからな。


「ありがとう、ありがとう……。また俺たちが、こんな普通の人間のように働いて報酬をもらえる日がくるなんてなぁ……」


「人間だ、俺たちは……。ちゃんと人間だったんだ」


 人権侵害も行き過ぎると、ここまで行くのか。

 なんだか、この難民村を放置してる――というか、モンスター防衛の捨て駒にしてる領主をぶん殴りたくなってきたぞ。


「他の皆にも、伝えてくれ。――仕事は、いくらでもある。俺が地下に秘密の住処を作る為に、人手を求めてる。報酬は必ず渡すってな」


 金貨袋の中から、片手に持てるだけの金貨を見せると、人が腰を抜かした。

 そんな、どこの印籠を見せられた時代劇の役者さんたちだよと思うかもしれないが……。

 黄金なんて、殆ど目にした事がない人々にとっては、こんなもんだろう。


 現代に生きて来た時の俺だって、実際に金塊ピラミッドとかを見たら腰を抜かしたはずだ。

 そう考えると、通帳とかの数字って感動薄かったな……。

 ま、まぁ、そんなことはどうでもいい。


「雇用条件は、村人以外に口外しない人限定だ。誰か一人でも破ったら、全員解雇」


 こう言うことで、監視スキームも産まれる。

 絶対に!

 アカレジェのルートを邪魔しない!

 その範囲で目に見える人は救いたいからな。

 コクコクと頷くと、皆は逃げるように走り去っていった。


「……さて、木材も頑張ってくれたけど、これじゃハシゴもできない。まだまだ、こっからだ!」


 数人が木の実を採るついでだったんだ。

 一日なら、こんなもんだろう。

 明日は、今日の見せ金で少しは増えるかな?

 そんな期待をしながら、俺は再び穴を掘り続けた。


 そして、朝陽が上ったのを確認して地上へ這い上がると――期待を裏切られた。


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