周回突入前の気分ダウンってあるよね
共通ルートの終了後、本格的に自由行動が開始出来るのはティムリア王都からだ。
いわば、始まりの街と言える。
しかし、チュートリアル的要素があるこのエルバー領都近隣にも、重大な場所があるのだ。
そう、ファンタジーの定番――古代文明ダンジョンである。
「めっちゃ遠かった……。リアルとなると、歩くの辛ぁ……。早く、移動アイテム作りたい」
今日から周回するのは実際に歩くと、徒歩一日の距離にある古代文明ダンジョンへアタックだ。
実は、この世界では古代に現人類と旧人類の争いがあり、現人類が生存競争に何とか勝って繁栄を築いたとかいう設定がある。
明確に敵対する魔族もいる中で、人類同士何をやってるのという謎はゲーム内でも未だ開示されてないが……。
ロマン溢れるその場所にはロストテクノロジーが山ほど眠っており、国同士で奪い合いをしているという設定だ。
当然、ダンジョンには特別に強いモンスターが山ほどいる。
その分、レア素材もガッポリ手に入るし、運が良ければレア装備や装飾品も手に入るんだ。
まだまだ、俺のアカレジェやり込みはこっからだぜ!
「だけどなぁ……。これが、また。俺に合う法具が出るのは何日、いや何ヶ月かかるのか……」
メインは、最奥のボスを倒した時に出る宝箱――そこから出る法具だ。
これまた、バフ効果やセット効果のある法具が山ほど種類があり、組み合わせ次第でキャラが別物になる。
万能キャラのフェリックス・ローランなのに、火力お化けになったり、神ヒーラーになったり……。
普通は、選べる一人のメインキャラを自分の好きなタイプにするため周回する。
そして、順次追加されたサブキャラを編成し法具の力で最強パーティーに組み合わせるのがセロリーだった。
時間と金は溶けるけどな……。
「俺が目指すは、どんな時でも王子や聖女を支えられる万能職! 適正通りいくぜ!」
そこは揺るがない。
この先、『世界は呪われてるの?』ってぐらい、山ほどの困難が待ち受けているんだ。
装備品、装飾品、法具、アイテム。
全て揃えて全力で推し上げていくぜぇえええ!
幸いにも、数年は物語開始まで猶予がありそうなんだ!
物欲センサーには、物量でぶつかるしかねぇ!
目の前には、何故か誰にも発見されず残っている岩棚に埋もれた扉。
誰も、この扉を開けないのは――ゲーム設定だから仕方ない。
何か、選ばれた四人の誰かじゃないと開けられないんだろう。
「ほい、扉に触れながら魔力を込めて……」
水の通っていなかった水路に水が流れるが如く、青い光が流れていく。
これは、フェリックス・ローランの魔力が通った証拠だろう。
そうして、岩に隠れていた扉の中央に光が灯る。
これで開けるはずだ。
「ははは……。あぁ、トラウマカムバック」
ゲームをやりこんでいると、各キャラに合う法具は貯まっていく。
だが、最初は――何度意識を失ったか分からない気の遠くなる作業だ。
身体が震えてきた……。
もう一回、アレを一から……。
データが消えたゲームを再度やり込むことに決めた時の絶望に似てるかも?
「誰よりも、この世界を楽しむと決めたんだ! やるぞ、俺ぇえええ!」
意を決して、扉の中へと足を踏み入れる。
暗い中へ入ると――早速、第一層におけるパズルのギミックとモンスターの群れが出迎えてくれた。
今の装備だと……戦闘もシンドイ。
トカゲ型のモンスターが滑るように近付いてきて――
「――ぬぅんりゃあああ!」
氷系統魔法で動きが鈍った所を、攻撃!
「ふざけんな! 小さくて双剣が当てられねぇ!」
リアルだと、こんなんあるのか!?
いや、当然か!
そうなると、一回双剣ではなく武闘系の能力やら技、魔法で倒すしかない!
「はぁ……。はぁ……。魔力消費、半端ねぇ」
燃え尽きたみたいなダルさが身体を襲う……。
魔力を失う感覚って、こんなんなのか。
「おげぇ……。ゲームだとダンジョンモンスターは金だけ落として消えたのに、普通に死体残ってる」
リアルだから当然か。こんなん踏み越えていけと?
いや、逆に考えろ!
「素材もダンジョン産の金属も回収できて、最後には法具も回収できる。神かよ」
薬草とかは金で解決すれば、そっちのステータスも上げられるじゃん。
これ、周回って効率プレイを考えたら装備も充実させられるし最高じゃん。
目的の素材があるかは置いといて、加工して売れば金策にもなる!
「金を産む夢の国じゃぁあああ!」
トカゲの遺体から剥ぎ取りをする俺の目は、客観的には見られない血走ったものになっていただろう。
いいんだ、ここでロールプレイする必要はない!
俺の推しは別にいるんだから、推しキャラさえ狂わなければいい!