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初納品と騒ぎ

「あ、フェリックスくん! 生きてたんで……。な、なんですか、その装備は!?」


「作った」


「作った!?」


 ギルドへ返ると、受付嬢さんが驚愕の瞳で見つめてきた!


「ちょっと、ギルドマスター! フェリックスくんがぁあああッ!」


 叫ぶ受付嬢さんの声を聴くと、木製の階段をギシギシと踏み鳴らしながらギルドマスターが駆け下りてきた。


「生きてたか! よか……。な、なんだ、その全身バラバラな素材の装備は?」


「最初からシリーズで揃えるより、強い性能を組み合わせた方がいい。それだけだ」


「……だせぇぞ?」


「見た目にこだわるなんて贅沢は、まだ先だ」


 逆に、これがいいんじゃないか。

 明らかに始めたてと分かる不格好さ。

 ここからシリーズを揃え、より強く洗練された明らかに格好良い装備に身を包む!

 く~! 浪漫だ!


「贅沢は知らんが……。若い奴は、格好から入りがちだってのになぁ。見た目の割に、随分と考え方が老けてやがる野郎だな」


 そりゃ、俺の実年齢は多分あんたと変わらないだろうからな。

 それに、だ。皇族を追われて育ったフェリックス・ローランは常に敬語を使い弱味をみせることを嫌う。

 しかし、不遜とも違う。

 自分のミスはキチンと謝罪するし、他者を敬うのは行動で示すというキャラだった。

 そんなに遜ることもできない。


「それよりも、買い取りをしてもらえないか? 無一文なんだ」


「おう、そうだった! 薬草の採取に何日も行方不明になりやがって! 本当に自分の才能を過信して死んだかと心配したんだぞ!?」


 これはゲームになかった要素だ。

 思えば、誰かに心から心配してもらったのなんて……いつもゲームをしていた三人ぐらいだ。

 あいつらは、あのクソゲー(現実)でアカレジェを楽しんでるかな?

 何だか、胸がじんわりとしてきた。


「それは……。すまない、ギルドマスター」


「無茶をするなと言っただろうが。死んじまったら終わりなんだぞ?」


「ああ。肝に銘じる。一応、これを納品できるぐらい安全マージンは取った」


「あん? こ、これ……。ポーションだと!? 素材じゃねぇのか!?」


「ええ!? な何で!? まさか錬金術も使えるんですか!?」


 ギルドマスターも受付嬢も驚愕に目を見開いてる。

 使えます。

 何故なら、チート級の主要四キャラの一人だから。


「この方が買い取り価格は何倍にもなるだろう?」


「そ、それは、そうなんですが!」


「何で、お前みたいな野郎が今まで無名だったんだ……」


 それは、フェリックス・ローランというキャラクターが『臥龍』という二つ名持ちだからだ。

 帝国から権力争いに敗れ亡命してきた子供というローラン少年は、その才能を隠していた。

 他の主要キャラと出会い、自分はこのままで良いのか。

 そんな葛藤の末、秘めていた力を一気に解放し始めるのだ。

 それはそれで熱いのだが――俺は、押しである王子と聖女を支えるためにできることを今から全力でやると決めているのだ。


「事情は詮索しないでくれると助かる」


「……なるほど、訳ありか。俺は口外しねぇが、人の口に戸は立てられねぇ。噂は巡るぞ」


「分かってる。それも近いうちに対処する予定だ」


「あん? 何を考えてやがる? 言っておくが、口外した奴を消すのは……」


「そんなことはしない」


 俺を誰だと思っているんだ。

 一応は静かながら正義へ熱い思いを秘めるローランだぞ!

 フェリックス・ローランの――いや、アカレジェのストーリー崩壊は防ぎつつ、楽しめば勝手に秘匿される方法があるだけだ。


「それなら良いんだが……。ほら、報酬だ」


「ああ、助かる」


 うっひょぉおおおッ!

 アカレジェの通貨だ!

 金貨や銀貨、銅貨なんてリアルで持つとテンションが上がる!

 しかし、これは直ぐに次への投資だ。

 まだまだ、俺のキャラ育成は始まったばかりだ!


「ガキには大金だから気を付けろと言いたいところだが……余計なお世話か」


「そんなことはない。俺より強い奴は一杯いる」


「だから、なんでガキでそんなに達観してやがんだ」


 中身がオッサンだから……いや、知ってるからだ。

 こんな始まりの街とも言える物語開幕前のレベルや装備では瞬殺されるモンスターや敵が山ほど出て来ることをだ。

 そうならないために、推しを全力サポートするために現状で次やるべき貢ぎは、だ。


「その金、どうするんだ?」


 ギルドマスターの問いは、子供が大金を誤った使い方をしないよう心配するものだろう。

 イカツイ外見に似合わず、良い親父になりそうだ。

 子供がいるかも知らないけど。


「錬金セット、鍛冶セット、採掘セットなどなど……。初級だろうと揃えれば、一瞬で使い切ることになるな」


「……金遣いの荒さを叱りたいところだが、建設的過ぎて冒険者として正解だから何も言えねぇな」


「普通、ランクに合わない良い装備を買うのが低ランク冒険者で……。そうならないよう導くのも私たちの仕事なんですがね」


「市販品より、自分で鍛冶した方が属性を付けられたりスキルランクも上がっていいのにな」


 このアカレジェというゲーム、金を無駄に騙す罠も多い。

 運営、本当にふざけんなとキレた被害者が多いこと多いこと……。

 時間はかかるが、自分でスキルランクを上げて同じ何かを作った方が結果として良いのだ。

 もっとも、極端に上がりにくいジョブで、適正のあるサブキャラが仲間にいない人は、プレイヤー間アイテム取引で交換するしかないんだが。

 俺は、ある意味で裏方として最強キャラだから問題ない。


「フェリックス。お前がどこまで行くのか、楽しみであり少し怖いぜ、俺は」


 ギルドマスターの心配は嬉しいが、こんなの序の口に過ぎない。

 もう少し装備を調えたら、本命の楽しみが俺を待っている。

 数々のプレイヤーが、涙を飲んで絶望と歓喜に震えた場所が――。

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