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白麗が仕事に戻り、明明は瑠奈に朝餉を準備するため瑠璃宮を出ていった。
瑠璃宮には、夏蓮と瑠奈2人きりである。
人のいない間に、夏蓮は瑠奈に聞かないといけないことがあった。
「瑠奈さん、昨日されていたネックレスは……?」
昨夜着替えを手伝ったときに見てしまったネックレス。それには、紫色の逆鱗と思われる玉が使われていた。その出どころを確認しないといけない。
「あ、あのネックレス!?あ、うん、この世界に来て、目が覚めたとき何故か手の中にあって!!」
「手の中に………?」
「うん!そうなの!何か大事なものなのかなってつけてたの!」
どこか挙動不審に瑠奈が答えた。
その発言は真実だろうか。仮に真実だとしたら……
瑠奈が気を失っている間に、瑠奈に逆鱗を託した男がいる。恐らく、瑠奈が運命の番であるのだろう。
瑠奈は狙われている。
これは憂慮すべき事態だ。ただそれを白麗に報告すべきか夏蓮は頭を悩ます。
(白麗は……、瑠奈の運命の番を探そうと言いそうだ)
白麗は運命の番でもない相手に愛を囁くほど恋愛に重きを置いている男だ。瑠奈が穏やかに過ごせるようにと夏蓮は王に命を受けている。
白麗にも明明にも伝えないほうがいいだろうと夏蓮は判断した。
「私も初めて見ましたが、きっと大事なものなのでしょうね。ただ、他人には見られないほうがいいと思います。怪しく感じる者もいるでしょうから」
「そうだよね……!見られないように気をつける」
瑠奈は大人しく夏蓮の指示に従った。
(何れのタイミングで王には報告しないといけないな…)
瑠奈の保護者は王だ。瑠奈の運命の番については、王に判断していただこうと夏蓮は考えた。
※※※※※※
「兄様、休憩を取られては如何ですか。もう夕方になりましたし」
瑞光は朝からずっと休憩も取らず仕事に励んでいて、そんな瑞光を心配したのか星輝が声をかけてくれた。
「このくらい平気だよ。それに昨日の夜から調子がいいんだ」
昨晩面会した落人である瑠奈は、瑞光の運命の番だった。瑠奈のお陰で、瑞光は元気に満ち溢れている。
今日は瑠奈には会っていないが、宮中にいる。
そう思うと、瑞光は仕事を頑張れた。星輝もなんだか好調そうだ。
「そうはいっても、休憩は必要ですよ?そうだ!番様の様子を見に行ってあげればいいのでは?」
「瑠奈に会いに行ったら、瑠奈は困ってしまうよ」
「そんなことありません!兄様と番様がお会いされたとき……とても親しくされていたじゃないですか……」
星輝は話しながら少し顔を曇らせた。
泣き出した瑠奈を同意のないまま急に抱き締めたのが、星輝としては王として不適切な行為だと思ったのを暗に伝えたいのかと瑞光は思った。
「星輝、私は瑠奈の願いを叶えたいんだ。早く瑠奈を元の世界へ戻してあげたい。この仕事を終わらせて、文献にあたらないと」
「えっ…………?兄様…………?番様を元の世界へ戻らせるのは本気なんですか…………!?」
星輝は瑞光の昨晩の発言がその場凌ぎだと思っていたのか。星輝の顔が見る見る青ざめる。
「勿論。番の願いは何としても叶えないといけないからね」
「…………っ!それでは!番様が元の世界へ帰られたとき、兄様は…………!!」
「大丈夫だよ?多分ね」
瑞光も星輝も番を喪った竜人がどうなるかは知っている。―――大概、皆、狂う。
竜人としての力に長けた瑞光がどうなるかなんて、簡単に想像できる。間違いなく、発狂する。
それが分かっていてもなお、瑠奈の願いを叶えたい。
瑞光は微笑みながら星輝に答えた。
「それは……………!」
「それにね、私に何かあっても、お前がいる。だから、問題ないよ」
「そんな!兄様……………!僕は………僕だって………」
星輝は悲痛な表情を浮かべて何かを伝えようとして、口を閉じた。