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 瑠奈は王と謁見するために、執務室の前で入室の許可を待っていた。


 夕方小屋に迎えに来てくれたのは白麗で、星輝でなくてちょっとガッカリした。迎えに行くって言っていたのに、来れなかったのは体調が回復してないのかもしれない。


 星輝の体調を案じつつも、瑠奈の手は緊張で震えてきた。


 一国の王に対する謁見なんて、普通の大学生として生活してきた瑠奈はしたことがない。


 (あ〜〜緊張する!!)


 私的な謁見だから肩苦しくはないですよと瑠奈の支度をしてくれた侍女は言ってくれたけど、王に対するマナーなんて全く知らない。

 変なことを言って不興を買ったらどうしよう。瑠奈は考えれば考えるほど緊張が高まった。










 「落人殿入られよ」


 ついに、入室を許可する低い男性の声がした。

 女官が扉を恭しく引き、瑠奈は1人入室した。





 

 瑠奈はふかふかの絨毯の上を恐る恐る歩く。薄暗い灯りが壁面の大型の本棚を照らした。

 

 部屋はだだっ広くて、物々しかった。





 歩き続けると、大きな執務机のようなものが置いてあった。


 1人の男性が直立している。直立した男性の左右に、2人の男性が膝を立てて拱手していた。


 男性達の様子に威圧された瑠奈は、足が止まってしまう。


 瑠奈が固まっていることに気がついたのか、直立していた男性が近づいてきた。男性の艶々とした長い黒髪が揺れる。漆黒の着物には金糸で模様がなされ、いかにも高級そうだ。


 優れた容姿の持ち主でもあって、その歩き方の美しさも相まって風格を感じさせられる。瑠奈は思わず見惚れてしまった。





 「落人殿、お待たせいたした」


 優しそうな笑顔を浮かべて男性が瑠奈に声をかけた。


 「この国の王、瑞光である。貴女の御名前を教えてほしい」

 「私は、瑠奈と言います……」 


 瑞光に返答する瑠奈の声は緊張で震えていた。そんな瑠奈を瑞光は優しく見つめた。


 「瑠奈殿、昨日は粗末な小屋で過ごさせてしまい、申し訳ない。これからは貴女のお世話はこの瑞光が責任を持って差配するから、安心されよ」

 「ありがとう……ございます……」

 「ところで、瑠奈殿は困ったことはないか?急にこの世界へ来て、不安なことだらけではないか?」

 「あっ、あの………」


 瑞光の黄金色の瞳に見つめられていたら、急に瑠奈の両眼から涙が溢れてきた。

 泣くつもりなどなく、ただ質問に答えようと思っただけなのに。瑠奈の意思とは関係なく、涙が後から後から流れる。


 どうしてだろう。王である瑞光が思ったよりも優しそうな人物だったからか。謁見している緊張からなのか。


 ただ、急に泣き出して王は困惑しているのに違いない。瑠奈は涙を堪えながら、返答しようとして、口を開いたその時。


 ―――泣き出した瑠奈を悲痛な顔で見ていた瑞光が、瑠奈を急に抱きしめた。



 (えっ………………!?なんで………………!?)


 突然のことに動揺したのは瑠奈だけでないようで、後の男性達の息を呑む声が聞こえた。


 瑞光の逞しい身体が瑠奈を包み込む。急に抱きしめられたら拒絶したくなるはずなのに。しかも、瑞光とは初対面なのに。瑞光が抱擁してくれて、理由は分からないけれど瑠奈は単純に嬉しかった。


 瑠奈は瑞光の身体に顔を埋める。すべてを瑞光に委ねたくなってきた。

 

 「瑠奈……ごめんね………。私のせいで不安な思いを………」


 瑠奈を心配した瑞光が優しく話しかけてきた。

 名前の呼び方とか、口調が変わっていたけれど、何故かそれが瑞光に瑠奈が受け止められたサインのような感じがして、瑠奈はますます涙が出てきた。


 涙が止まらない瑠奈の背中を瑞光はそっとさする。この人なら本音を漏らしてもいいのかも。そう思った瑠奈は涙で濡れた瞳で瑞光のことを見上げた。


 「私……元の世界に戻りたい……」

 「そうだよね………。分かった。瑠奈の望みなら必ず叶えてあげる」


 断わられるかもと不安に思いながら伝えた瑠奈の希望が、あっさり瑞光に受け入れられた。瑠奈は拍子抜けした。


 ただ、また後の男性か達から息を呑む声がする。本来的にはいけないことなのだろう。


 「聖女なのに、戻っていいんですか……?」

 「瑠奈が元の世界に戻りたいのなら、戻っていいんだよ。大丈夫、瑠奈がこの世界に来てくれたおかげで、この世界は救われたから。ただ、戻る方法はすぐには分からないから、調べる時間を頂戴」

 「ありがとうございます………!!!」


 瑠奈は瑞光に笑顔でお礼を伝える。気づけば涙も止まっていた。


 瑞光をずっと笑顔で見つめていたら、瑞光も本当に嬉しそうに笑い返してくれた。こんなに優しい人がこの国の王で良かった。


 だんだん落ち着いてきた瑠奈だけれど、何故か自分からは瑞光から離れたくなかった。


 瑞光から香る甘い香水の匂いのせいだろうか。瑠奈に安心感をもたらしてくれる。


 「あっ、急に抱きしめてごめん」


 瑠奈が落ち着いてきたことに気がついた瑞光が、瑠奈を抱擁から解き放った。


 (まだ抱き締めてくれてて良かったのに)


 瑞光は謝ったけれど、瑠奈にとっては全然嫌なことではなかったから、首を左右に振った。


 「これからのことだけど、瑠奈はこの宮で過ごしてくれる?女官も準備するから。他に要望があったら、何でも言ってね。瑠奈も疲れているだろうし、私はもう戻るね」


 瑠奈を愛おしい目で見つめていた瑞光は、瑠奈の頭頂部を優しく撫でて、去っていった。


 それに続くように拱手していた男性2人が立ち上がった。男性達は、白麗と星輝だった。


 白麗は至極嬉しそうに瑠奈にウィンクをして出ていく。ルンルンでスキップでもしそうな雰囲気である。


 星輝は白麗とは違って、床ばかり見て瑠奈の方を見ようともしない。星輝が全身で不機嫌であることを瑠奈に伝えてきているように思えて、瑠奈は動揺した。

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