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 「兄様、星輝です。今よろしいですか?」


 星輝は瑞光の執務室の扉をノックした。

 瑞光の返事は、ない。


 瑠奈を宮中に連れてくることにしたことを速やかに瑞光に報告しないといけない。瑞光の許可なしに入室することに心苦しさを感じながら、星輝は扉を開けた。






 優しい夕日が室内を紅く照らす。


 瑞光は窓から外を見つめて佇んでいた。髪型と襟が若干乱れているものの、遠くから見える瑞光は落ち着きを取り戻しているかのように見えた。


 普段通りのような瑞光の様子に星輝は安堵した。

 

 「応答がなかったのに、入室しました。申し訳ありません」


 不作法を謝罪した後、星輝は報告のために瑞光の側へ寄ろうとした。

 

 星輝は瑞光の異変に漸く気が付く。



 ――――瑞光の手首には血が流れた跡があり、瑞光の袂が赤黒く染まっていた。



 「兄様…………!!!血が…………!!!」

 「星輝……?そんなに慌ててどうしたんだい?」


 星輝の動揺をよそに、瑞光は何事もないかのように話す。


 「その、手首は………!???」

 「あぁ、これかぁ」


 瑞光は血のついた手首を星輝に向かって見せる。出血自体は止まっているようだった。


 「番抑制剤ってあんまり効かないね?血を脱いたら衝動が我慢できるかと思って、ほら、つい」

 「兄様……………!!!!何をしているんですか………!!!!」


 瑞光はいたずらに気付かれた子どものようなあまりにも軽い口調で話す。


 いくら竜人とは言え、血を流し続けると死に至るだろう。王たる瑞光がそんなことをするのは許されない。


 瑞光の行動は常軌を逸していた。


 「星輝、昨夜落人の森へ行ったな?夜空を飛ぶ星輝を見てたら、私も行きたくなったんだ。おかしいでしょ?こうでもしないと、我慢が、効かないんだ」


 瑞光は星輝に笑いかけた。

 血の気のない顔で暗い笑みを浮かべている。


 (兄様が、壊れてきている………!!!)


 星輝は瑞光の様子に愕然とした。自分が大丈夫だから、瑞光も大丈夫だろうとどこか事態を甘く見ていた。

 

 このまま、瑞光が番に会わないまま時が過ぎて行ったらどうなっていたか。


 瑞光の番への思いが、星輝の想像を超えていた。


 (兄様と僕の番が同一人物だったとしても……!僕は兄様と番の仲を邪魔したりしない……!!)


 自分の本能の赴くまま行った行為が瑞光に悪影響を与えていたことを知った星輝は、深く反省した。


 「落人のことが心配でつい落人の森へ行ってしまいました。兄様に迷惑をかけていただなんて……!申し訳ありません!」

 「気にしないで。我慢できない私が悪いんだから」


 昨夜の星輝の浅はかな行動を瑞光は優しく許した。でも、浅はかな行動は昨夜だけでない。今日の昼も白麗に委ねられたとはいえ、瑞光の知らぬところで星輝は落人に会いに行っている。


 星輝は嫉妬に狂った瑞光に、最悪殺される覚悟で昼のことを口にした。


 「兄様、兄様にお伝えできていませんでしたが、昼に落人の様子を白麗の代わりに見に行ったんです」

 「ふうん…………?」


 瑞光の眉が上がって、少々不機嫌そうになった。星輝は緊張しながら、話を続ける。

 

 「落人は粗末な小屋の中におられました。落人を宮中へ案内しませんか……?」

 「ここに…………?なんで……?」

 「落人は異世界からの使者でもあります。使者を保護するのは我が国として当然の責務です」

 「分かっている……。でも、宮中に呼んだら私が落人に害をなしてしまうかもしれない」


 瑞光は不安げに呟く。自分の体調に影響が出ていても、番のことを優先しようとする。星輝は、瑞光の番への思いが尊く思えた。


 「もしもの時は、私が兄様をお止めします!粗末な小屋で落人を保護するのは難しいでしょう。安全な宮中にお招きするべきです」

 「星輝の言う通りだね。落人を宮中に入れよう」


 落人の現在の環境を指摘したら、あっさり瑞光は星輝の提案を受け入れた。星輝はほっとした。ただ、瑞光に他にも報告しないといけないことがある。


 「承知いたしました。兄様、お伝えしないといけないことをお伝えします。落人は『運命の番』はお嫌いだそうです」

 「運命の番は、嫌いか………」


 瑞光の表情が曇った。明らかにシュンとしている。


 「白麗からのまた聞きなので、落人の発言の趣旨はよく分かりません。後々確認してもいいでしょう。あと、落人は御自身が聖女だからこの世界に呼ばれたと勘違いして居られます」

 「聖女とは、何かな……?」

 「私もよく分かりませんが、この世界におられるだけで平和になると説明しておきました。早速ですが、夕方にでも白麗を落人を迎えに行かせます。落人にはその後兄様に面会していただきます」

 「私がか…………?」

 「兄様は王なのですから、面会しないといけないでしょう。服も着替えた方がいいですよ。女官を呼びましょう」

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