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「貴女が瑞光さんと星輝さんの運命の番なんて嘘でしょう………?わたくしには分かるわ!貴女が嘘をついてることが!!」
マリーナの細腕からは想像できないくらいの強い力が瑠奈の首元を締め上げる。
「2人だけではなく、白麗にも色目を使ってたわね…………?なんて恐ろしい女!!!」
マリーナの美しい顔が血走っている。
瑠奈の意識が、朦朧としていく。
「これでわたくしが瑞光様の運命の番になれるうふふふふふふふふふ!!!!」
瑠奈の見開かれた瞳が閉じられていくのを見て、マリーナは勝利を確信した。
「マリーナ王女、何をしているっ…………!!」
喜びに打ちひしがれていたマリーナの手が強く引っ張られた。せっかく締めていたのに、マリーナの手から瑠奈の首元から離れていく。
―――でも、それよりも、その声は。
「瑞光様……………っ!??起きたんですの!!」
10年ぶりの、瑞光だった。10年経って、マリーナは28歳になってしまったし、容姿も衰えてしまった。
瑞光は変わらず麗しい。少し冷徹そうに見える瞳も、なにもかも変わっていない。
マリーナは瑠奈の寝台から身を乗り出して、瑞光にぎゅうっと抱きついた。
「瑞光様………!!わたくしが来たから起きてくださったのね!!やっぱりわたくしが瑞光様の運命の番だったんだわ…………!!」
マリーナの両目から涙が溢れだす。自分を信じて、父王や兄弟の言うことに従わなくて良かった。
「わたくしが犯罪者にならないようにと、止めてくださったんでしょう………?なんてお優しい………!!」
「はっ……………!黙れ…………!!!」
瑞光はしがみついてくるマリーナを無理やり寝台から振り落とした。マリーナは口を薄く開けたまま、表情が固まっている。
「お前など、私の運命の番ではない!!ここから、出ていけ!!!」
瑞光はぐったりとしている瑠奈を抱き上げた。薄く息をしているのが分かるが、このまま瑠奈が儚くなってしまったら。瑞光の心臓が嫌な音を立てる。
「星輝!!星輝はどこだ!!!」
「…………こほっ、だい……大丈夫です……」
瑠奈が薄っすら瞳を開けて、弱々しい笑みを浮かべた。
「マリーナ王女……がなぜ……ここに……?」
掠れた声で喋る瑠奈を、瑞光は震える手で抱きしめた。その存在を確認するように、何度も背中を擦る。
「王!!良かった、目が覚めたんですね」
部屋の中に入室した白麗は至極嬉しそうに声を出した。――白麗の後には星輝がいて、白麗の首元に短剣を突き付けているが。
「瑠奈ちゃんが危険な目に遭えば起きるかなって思ったんですよ」
「白麗……………?お前、何だって………?」
「王、申し上げたとおりです。俺が王の運命の番を害す手引きをしたんです」
白麗の発言に、星輝の短剣が首の皮膚に触れた。
あともう少しでこの首が切れてしまいそうだ。
分かっていながらも、白麗は話を続ける。
「あと、そうだ。この世界に戻ってきた瑠奈ちゃんは記憶がなくなっていたみたいで。今は……戻ってるのかな?瑠奈ちゃんに俺の言うことを聞かせるために、俺の運命の番と言いました」
「はっ…………………!?」
瑞光と星輝の声が重なる。
「信じ込ませるために、抱擁も接吻もしました。安心してください、最後までは手を出してないですから」
「何でそんなことを……………!!」
瑞光が白麗を信じられない者を見るような目で見てくる。何も分かってなくて、白麗は笑えてきた。
「分かりませんか?瑠奈ちゃんが嫌いだったからですよ。傷ついてもいいやって思って……うっ………!」
白麗の言葉は最後まで紡がれなかった。
短剣を投げ落とし、星輝が白麗の腹部を力任せに殴った。
「…………………痛っ…………!!」
衝撃で白麗の体が折れ曲がる。よろよろと上げた白麗の口元には、血が滲んでいる。顔を歪ませて、瑞光と瑠奈に向かって叫んだ。
「星輝、王も!!中途半端だ!!番を害した者は殺すべきだ!!!」
「…………………確かに、白麗の言う通りだ」
星輝は、床に落ちた短剣を拾い上げて白麗の首元を一気に引き裂いた。瑠奈と瑞光の目の前が紅く染まった。




