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「すみません……、私、瑞光様と星輝様の目を覚ますことができていなくて………」
「気にされずとも良い。番が戻ってきたのだ、暫くしたら目覚めるだろう」
瑠奈の向い合せに座った瑞苑は柔らかく微笑んだ。
その眼差しは優しくて、瑠奈はいたたまれない気持ちになる。
「瑞苑様、瑠奈さんが運命の番であるってことは間違いないんですの?」
瑞苑の隣に座るマリーナが首をこてんと横に傾けて、愛らしい声で聞いた。
「わたくし、瑠奈さんが運命の番であるということを、誰からも聞いていませんの。瑞光様からも、記憶がなくなる前の瑠奈さんからも。瑠奈さんが運命の番なら、すぐに目を覚ますのではなくって?」
「確かに明言はしてないと聞いているが、瑞光と星輝は彼女に逆鱗を渡したというじゃないか。それは即ち、彼女が2人の運命の番である証拠だと思うが」
「普通、運命の番が、同一人物であることはないんですわよね?お2人が異世界から来た瑠奈さんを可哀想に思って、逆鱗をお渡ししたという可能性はないんですの?」
推測に誰も反論できないのを見て、マリーナはにっこりと笑った。
「わたくし、倒れる前の瑞光様に、『よろしく頼む』と言われましたの。それなのに、まだお会いできてないのが心苦しくて……。わたくしも、瑞光様のお世話を瑠奈さんとしたいわ。瑠奈さんも、話し相手が欲しいのではなくて?ね?」
マリーナからの視線を避けるように、瑠奈は俯いた。できるなら、断りたい。10年経っても、瑞光に執着しているようにみえるマリーナが怖い。
「……………恐れながら。マリーナ王女殿下」
瑠奈の後に控えていた白麗が、口籠る瑠奈を見かねて口を開いた。
「白麗、貴方はただの臣下。わたくしに口答えする権利はないわ」
マリーナは身を乗り出して、瑠奈の両肩に手を置いた。目線を上げた瑠奈に、ふんわりと笑いかけた。
「瑠奈さん、御心配なさらないで?瑠奈さんが記憶を失われる前、身分の差はあったけれど、何でも話し合える関係でしたの」
マリーナの話をただ聞くばかりだった瑞苑が、顔を綻ばせて拍手をした。
「マリーナ王女!そこまで我が息子のことを気遣っておられるとは嬉しい限りだ!瑠奈さんが運命の番でなければ、そなたが息子の伴侶になってもいいかもしれんな!」
「そんな………!わたくしは、そんなつもりは………!!」
謙遜しつつも、マリーナは喜びを隠せず頬をゆるませた。
瑞苑は、マリーナと瑠奈を見て頷いた。
「瑠奈さん、明日からはマリーナ王女にも瑞光の様子を見てもらうことにしよう。そなたも、よい友人がおって良かったな」
瑠奈は沈んだ気持ちで、布団の中から顔を出した。
(これから、どうしよう………)
瑞苑のせいで、マリーナ王女と過ごすことになってしまった。もう遅いからといって、明日からになったけれど、上手くいく気がしない。
『白麗を運命の番と認識している瑠奈』の振りをどうすべきか。早くから寝台に入ったのに、寝付けなかった。
―――カチャ……
静かにドアが開く音がした。
ドアを開けた人物がひっそりと部屋の中に入り、瑠奈が寝ている寝台の前で足を止めた。
(誰だろう……………?)
瑠奈だけでなく、瑞光と星輝が眠るこの部屋は厳重な警備が敷かれている。誰かが入ることなんて、あり得ない。白麗かなと推論した瑠奈は、そのまま寝たふりをすることにした。
「………………ゔっ………!!!」
瑠奈は、喉元を容赦なく締め付けられた。
息が出来なくて、苦しい。
目を見開くと、そこには。
「瑠奈さん………!!貴女がいなければ、わたくしが瑞光さんの運命の番になれるのよ…………!!!」




