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立川瑠奈は、風が木々を揺らす音で目が覚めた。少し頭痛がする。夏のはずなのに肌寒さを感じて、瑠奈の体はブルッと震えた。瑠奈は二の腕をさすろうとした時、自分の手に砂があることに気が付いた。頭痛を感じて目を閉じる前は確か大学のキャンパスで受講していたはずだ。
(ここ…どこ…?)
瑠奈は暗闇の中、明るく輝いている月を見上げた。
瑠奈の目に、何か大きな鳥みたいなものが飛ぶのが見えた。鳥は旋回していて、探し物をしているようにみえる。
ガサ……ガサ……
遠くの方から雑草を踏みしめるような物音がした。音はだんだん大きくなってくる。
(やだ…!こっちに近づいてきてる…?)
瑠奈は恐怖で顔が引き攣る。武器となるものはないかと探すも、周りには木の枝しか落ちていない。瑠奈は木の枝を震える手で握りしめ、来たるべき敵を対応すべく構える。
「遅くなってごめんね?寂しかったでしょ?」
瑠奈の目に飛び込んできたのは、人だった。手には松明を握りしめている。松明の灯りに照らされ、若い男の銀髪が煌めく。奈良時代のような着物を着ていて、どこか親しみを感じるも、顔の堀は深く西洋人みたいだ。腰には太刀がある。瑠奈に近づいてきたのが人であったことに瑠奈は胸を撫でおろす。
白麗は瑠奈の方に近づき、長身を屈めて瑠奈の様子を覗き込む。白麗からは爽やかな香りがした。
「あれ?俺としては心細い中、迎えに来た男を思わず抱きしめちゃう展開だと思うんだけど?」
「…っ!そんなことする訳ないじゃないですか!」
「ふふっ、元気そうじゃん。良かった」
白麗は綺麗な顔をほころばせて微笑む。
(イケメンなのに笑顔が可愛いって反則でしょ!)
瑠奈の頰が思わず色づく。イケメンに見惚れていて、大事なことを聞くのを忘れてはいけないと瑠璃は気分を切り替えた。
「あの…ここは何処ですか?」
「ここはね、四大陸の内の1つ、天焔大陸だよ」
「天焔大陸……?聞いたことないです」
「多分、君は違う世界にいてこの世界に落ちてきたんだ。だから、俺は君を探しにこの森へやって来た。大丈夫、この天焔大陸の王は優しくて格好がいいから君もすぐ好きになる」
白麗は至極真面目そうな顔をして、瑠奈には謎の王アピールを始めた。
(王様を好きにならないと、国に受け入れて貰えないってことかな…?不思議な世界だ。)
異世界転生が自分の身に起きるなんてと瑠奈は衝撃を受けた。今まで読んだ異世界転生の中には、最初は奴隷にされたりとハードモードのものある。それに比べたら王様を好きになるだけでいいなんて幾分とマシである。
「私も王様いいなって思ってます。」
瑠奈は適当に話を合わせることにし、白麗に頷く。
「えっ…?君も王の良さが分かるの…?」
王のアピールをする割に、瑠奈の発言に白麗は驚きで目を見開く。
「そんなに驚かなくても…会ったことないんで、分からないですけど、多分会ったらいいって思うと思います」
「落ち人は感覚が通常の人間と違うのか…?」
白麗は麗しい眉を顰めながら1人ブツブツ喋りだした。瑠奈としたら、野生動物が出そうな森から早く連れ出してほしいところである。
「それよりも、私は何処に行って何をしたらいいんですか?」
「うーん、そうなんだよね…」
白麗は何故か口籠る。何か言い出しにくいことのようだ。瑠奈は転生物の物語を思い出す。
「分かりました!私に聖女になってくれってことですね?」
「えっ…聖女…?」
「確かに言いづらいの、分かります。私、聖女を頑張りますから、早く元の世界に戻してください!」
「あっ……、うん……」
「良かった〜。何か運命の番とか言われて全く知らない人から愛を告げられるのとか絶対嫌だったんですよね」
図星を当たられたからだろう、白麗は顔を暗くしている。瑠奈はやるべき事が分かって安心する。
「私、瑠奈っていいます!よろしくお願いします。」
「うん…俺は白麗というんだ…よろしくね…。森の中に小屋があるからそこに案内するよ…」