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 立川瑠奈は、風が木々を揺らす音で目が覚めた。


 少し頭痛がする。夏のはずなのに肌寒さを感じて、瑠奈の体はブルッと震えた。瑠奈は二の腕をさすろうとした時、自分の手に砂があることに気が付いた。頭痛を感じて目を閉じる前は、確か大学のキャンパスで受講していたはずだ。


 (ここは……どこ……?)


 瑠奈は夜空に輝く月を見上げた。


 上空で何か大きな鳥のようなものが飛んでいる。それは旋回していて、必死に探し物をしているように見えた。






 静かな夜だったのに、瑠奈の耳は異音を感知した。

 


  …………………ガサ………………ガサ……



 雑草を踏みしめるような物音がする。



 ………ガサ………ガサ………ガサ……ガサ………



 物音はだんだん大きくなってきた。


 (やだ……!こっちに近づいてきてる……?)


 瑠奈は恐怖で顔が引き攣った。野生動物がいるのかもしれない。周りは鬱蒼とした木々が繁っていて、どちらに逃げたらいいのか分からない。


 ここで、立ち向かうしかない。


 武器となるものはないかと周りを確認するも、木の枝しか見つけれなかった。


 木の枝を手にした。恐怖で、手が震えてくる。ここは瑠奈しかいなくて、他に助けてくれそうな人はいない。武道の心得なぞない自分が闘えるか分からないけれど、瑠奈は、勇気を振り絞って立ち上がった。









 「遅くなってごめんね?寂しかったでしょ?」





 現れたのは野生動物などでなく、1人の男性だった。


 手には松明を握りしめている。松明の灯りに照らされ、若い男の銀髪が煌めく。奈良時代のような着物を着ていて、どこか親しみを感じるも、顔の彫りは深く西洋人みたいだ。腰には太刀がある。


 (良かった……………!!!!)


 身の危険が去って、瑠奈は胸を撫でおろした。


 固まる瑠奈に白麗は近づき、長身を屈めて瑠奈の様子を覗き込む。白麗からは爽やかな香りがした。


 「とうしたの?俺としては心細い中、迎えに来た男を思わず抱きしめちゃう展開だと思うんだけど?」

 「……っ!そんなことする訳ないじゃないですか!」

 「ふふっ、元気そうじゃん。良かった」


 白麗は綺麗な顔をほころばせて微笑む。


 画面の向こうでしか見たとことないレベルのイケメンの笑顔は破壊力抜群だ。


 (駄目……………!!反則でしょ………!!)


 瑠奈の頰が薄く色づいたのに気が付いた白麗は、更に笑顔を深くする。自分の魅力に自信があるこのイケメンはきっとチャラいに違いない。


 (惑わされちゃ駄目………!!)


 瑠奈は首を振って、気持ちを切り替える。


 「ここは………、何処ですか?」

 「四大陸の内の1つ、天焔大陸だよ」


 白麗は耳にしたことのない大陸名を口にする。もしかして、自分は異世界へ転生したというのか。瑠奈は絶句した。


 「天焔大陸……?私、そんな大陸聞いたことありません!」

 「君は違う世界に居たんだよね……?大丈夫だよ、この世界は君にとって怖くないところだから」


 動揺する瑠奈に、白麗は優しく語りかける。


 「君のことを探しに来たのも、王が君のことを心配していたからなんだ。すごく優しくて格好がいいんだよ?大丈夫、君もすぐ恋に落ちる」


 白麗は真面目な顔をして、唐突に王について語り始めた。瑠奈にとったら、意味不明だ。


 「具体的に伝えたほうがいいかな?身長はね、俺よりも高いよ!ルックスは、女性がいたら10人中10人が好きになると思う!それで……」


 白麗の瑠奈への王アピールが留まることを知らない。


 (王様を好きにならないと、国に受け入れて貰えないってことかな……?不思議な世界観だ)


 今まで読んだ異世界転生の中には、最初は奴隷にされたりとハードモードのものある。それに比べたら王様を好きになるだけでいいなんて幾分とマシである。


 これからの当分の生活を考えたら、この異世界の常識に従ったほうがいい。瑠奈は長いものには巻かれることにした。


 「私も王様いいなって思ってます。」


 瑠奈は適当に話を合わせることにした。会ったこともないけれど、そこまで熱く語るなら多分良い人なんだろう。


 「えっ……?会ったこともないのに………!?君も王の良さが分かるの……!!!?」


 謎の王のアピールを長々とする割に瑠奈の発言が意外だったのか、白麗は目を見開いた。


 「そんなに驚かなくても……。多分ですけど。会ったらいいって思うと思います」

 「落人の感覚は、通常と違うのか………??」


 白麗は麗しい眉を顰めながら1人ブツブツ喋りだした。瑠奈としたら、野生動物が出そうな危ない森から早く連れ出してほしいところである。


 「それよりも、私は何処に行って何をしたらいいんですか?」


 異世界に転生したからには、瑠奈には何か求められたことがあるに違いない。瑠奈は使命を達成して、早く元の世界に戻りたい。


 「うーん、そうなんだよね…………」


 白麗は何故か口籠る。何か言い出しにくいことのようだ。瑠奈は転生物の物語を思い出す。


 「分かりました!私に聖女になってくれってことですね?」


 男性だったら勇者、女性だったら聖女だった。それぞれ転生先で大活躍し、世界を平和へと導く。瑠奈はそれに違いないと自信満々だ。


 「えっ?聖女…………??」

 「確かに言いづらいの、分かります。急に伝えたら相手が動揺しちゃうかもって思っちゃいますよね。大丈夫です!私、聖女を頑張りますから!!」

 「あっ……、うん……」


 白麗は否定しなかったし、瑠奈が聖女であることで決まりだろう。


 頼みにくいことを瑠奈から言ったのに、何故か白麗の表情は暗い。もしかしたら、聖女は大変な役目なのかもしれない。それでも、瑠奈はやるべきことが分かって安心した。


 「良かった〜。何か運命の番とか言われて全く知らない人から愛を告げられるのとか断固拒否だったんですよね」


 瑠奈は急な溺愛や逆ハーレム物があまり好きではない。できれば、異世界を平和にしてそれで元の世界へ帰りたい。


 これからすべき事に向かって、瑠奈は気持ちを新たにした。それに引き換え、白麗は何故かますます表情が硬くしている。


 瑠奈は自己紹介もしていないことに思い至った。


 「私、瑠奈っていいます!!よろしくお願いします。」

 「俺は白麗というんだ……よろしくね……。森の中に小屋があるんだ。今から案内するよ……」

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