3
瑠奈は白麗を『運命の番と認識してる』と伝えて良かったと思った。
異世界に戻ってきてから、1か月が経過したけど、ほぼ平穏な生活を過ごせている。
―――瑞光と星輝のいる部屋から出られないということを除いて。
お風呂もトイレもついているから、生活には不便がないのだけれど、いい加減、息が詰まってくる。
瑠奈は仕事として課されている瑞光の様子を観察しながら、溜息をついた。
(この世界に戻ってきた初日に比べたら、血色が良くなってきた気がするんだけどな。いつになったら目を覚ましてくれるんだろう)
瑞光の横髪を撫でてみた。10年間眠ったままで、食事もとっていないらしいけれど、艶々として触り心地がいい。
(星輝さんも起きてくれたらいいんだけど)
星輝のほっぺたをツンツン触ってみる。冷たいのに柔らかかった。もちろん、反応はない。
「げ………限界だ!!!」
「どうしたの?」
書類仕事に格闘していた白麗が机の上に倒れ込んだ。瑠奈をうるうるとした瞳で見てくる。
「俺、書類仕事苦手なのに………。瑠奈、俺を癒して?」
「はいはい。白麗はよく頑張ってる」
瑠奈は白麗のそばに寄って彼の髪を撫でてあげた。
白麗は穏やかな笑顔を浮かべている。
(瑞光さんと星輝さんの体調管理に加えて、書類仕事の量も多い。白麗さん、大変だろうな)
瑠奈が白麗の仕事を助けてあげれれば良いのだろうけれど、瑠奈はこの世界の言葉は喋れるものの、文字は分からかった。
「何も手伝えなくて、ごめんなさい……」
「いいんだよ、瑠奈が側にいてくれるだけで俺は幸せだから」
白麗は綺麗な顔を綻ばせて微笑んだ。
あまりにも嬉しそうで、その本心が分からない。
おままごとみたいな『運命の番』ごっこ。
瑠奈が白麗の運命の番でないことは白麗も分かってるのに、何故付き合ってくれるんだろう。
瑠奈はその答えが分からなかった。
「このまま過ごしていたいんだけど………、瑠奈、夕方に来客がある」
「………来客?」
「この国の王代行が、瑠奈に会いたいって言ってる。王代行は……つまり、前国王だけど」
白麗の発言に瑠奈の表情が固まってしまって、白麗は慌てて言葉を繋げた。
「瑠奈が戻ってきてから、面会を求めてきていたんだけど、止めてた。瑞光王が目覚める前に、王の番に会うのは良くないって言って。瑠奈も記憶喪失だし……。でも、もうこっちに戻ってきて1か月でしょ?瑠奈と話してみたいらしい」
「………そっか、そうだよね」
白麗の言うことも分かるけれど、この国の人にとったら、瑠奈は王を倒れさせた元凶だ。恨まれているだろう。正直、会いたくない。
瑠奈は表情が暗くなった。
「瑠奈、不安に思わないで………?俺も側にいるから。でも、俺以外の人に、俺が瑠奈の運命の番って言わないで。状況が悪くなるかもだから」
「………うん、分かった」
顔をこわばらす瑠奈を、白麗は包み込むように抱きしめた。
「そんなに堅苦しくしなくていい。前国王、瑞苑である。瑞光の番、よく戻られた」
深いお辞儀から顔を上げて、瑠奈は瑠璃宮の応接室に来た男性を見た。瑞光によく似ている。
「瑞光様の番の、瑠奈と申します……御挨拶が遅くなり、申し訳ありません」
「いや、構わない。そこの白麗からも君の体調が良くないと聞いていたから」
「………お気遣い、痛み入ります」
威厳のある風貌ながら、優しい声色で瑠奈はほっとした。このまま面会がうまくいくかもしれないと瑠奈が思った時、瑞苑の後から女性が出てきた。
「瑠奈さん?わたくし、マリーナといいますの。瑠奈さんにお会いしたくて、無理を言って着いてきてしまいました。瑠奈さんは記憶がないから、お分かりでないかもしれませんけど、わたしたち仲良しでしたのよ?」
あれから少し大人びた容姿になったマリーナは、瑠奈に向かって含み笑いをした。




