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瑠奈はお行儀が悪いと思いながらも、寝台の上に寝転がり、枕の上に顔を埋める。
(星輝さん、マリーナ王女と抱き合ってた……)
瑠奈も抱きしめてきたし、星輝は真面目そうに見えて多情なタイプなのかもしれない。なんだかショックだ。
それに比べて、瑞光は……。瑠奈に真っ直ぐに愛を伝えてくれたし、瑠奈のことを思ってくれていた。
(瑞光さんの方がいいのかな……。いや、違う、私は、元の世界に還るんだから、ここの世界の人とは恋愛なんてできない)
一人になるといろいろ考えてしまった瑠奈は部屋の窓に近づく。ちょうど満月の夜で、大きめな鳥のようなものが夜空を飛んでいるのが良く見えた。キラキラと輝くそれは、瑠奈の心を癒した。
(初めてこの世界に来た時に見た鳥に似てる)
夜空に羽ばたく鳥。この景色はこの国独特のものかもしれない。瑠奈はこの光景を覚えておこうと思って、じっと眺めた。
マリーナの帰国に、瑞光と星輝が見送りに出た。
星輝はまた暗い顔をして、目元にはクマがある。瑠奈に勘違いされて辛いのだろう。瑠奈に早く好意を伝えたらいいのに。瑠奈もきっと星輝のことが好きだから、上手くいくはずだ。マリーナは星輝が行動しない理由がよく分からなかった。
瑞光は今日もカッコいい。朝日に照らされてなんだか神々しい。今回の訪問では瑞光の気持ちを得ることが出来なかったが、次回こそは必ず。少しずつ撒いた種が実になればいい。マリーナは強かに思う。
「瑞光様、少しは嫉妬してくださいました?」
「何のことか分かりかねます」
瑞光はアルカテック・スマイルでつれない。瑞光の隣にいる星輝も無表情だ。この兄弟は、外交という言葉を知っているのだろうか。
「もう……!つれないこと!!」
「マリーナ王女、それではまた」
瑞光がマリーナに向かって手を差し伸べてきた。そんなことをしてきたのは初めてで、マリーナ王女は少し動揺しながらも、瑞光の手に自身の手を添える。
王女であるマリーナよりも瑞光の手は滑らかで、熱を持っていた。瑞光の大きな手がマリーナの手を包む。恋する相手の握手に、マリーナの胸が否が応でも高鳴ってしまう。
そんなマリーナを瑞光の瞳が冷静にじっと見つめてくる。瑞光の黄金色の瞳が何か告げてくるようだ。
(見つめられるだけでは気持ちは伝わりませんわよ……!)
マリーナはどんどん赤面してしまう。瑞光の手から、マリーナ全体に熱が移ってしまったようだ。
「マリーナ王女」
瑞光がよく通る低い声でマリーナの名前を口にした。
「我々はあなたに期待している。この国の行方は貴女にかかっている」
マリーナは瑞光の強い口調に声が出ない。瑞光は王としてマリーナに伝えているのだ。
「わ……分かりましたわ……」
何度も瑞光に会っているのに、こんなことを言われたのは初めてだ。瑞光に何かあったのだろうか。でも問いただすのは差し控えられて、マリーナはただ頷いた。
※※※※※
マリーナが帰国して王に謁見した時、王から伝えられたのは衝撃の一言だった。
「マリーナ、瑞光王が倒れられた」