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客室へ送ることになったものの、星輝はマリーナの歩調に合わさず、足早に歩く。
「星輝様、お待ちになって……」
マリーナが星輝に声をかけるも、星輝の歩く速さは変わらない。星輝が怒ってることにようやくマリーナは気が付く。
「歩くのが早すぎますわ。何かわたくし、至らないことしました?」
マリーナの声が人気のない廊下に響く。
立ち止まったマリーナに合わせて、星輝も足を止めた。
「マリーナ王女……!どうして、僕からネックレスをあげたと嘘を……!!」
「何が駄目なんですの?」
マリーナは憤る星輝を見て、首を傾げる。
「だって……!僕が君に気があるって誤解されるかもしれないじゃないか……!」
「誤解されても、よろしいのでは?わたくしは、瑞光様に誤解されて嫉妬でもして下さったら、嬉しい。星輝様も、瑠奈さんが誤解して、わたくしを嫉妬したら嬉しいのではなくって?」
「違う、僕は誤解なんてされたくない………!!」
星輝は瑞光に誤解されようとされなくてもどうでもいい。
ただ、瑠奈には無理だ。瑠奈にマリーナ王女のことが好きだなんて思わていたらどうしよう。瑠奈のことが好きなのに。いろんな女性にネックレスをあげる男だと思われた。最悪だ。
星輝は下を向いて俯いてしまった。
マリーナは星輝を落ち着かせるために、星輝の身体に触れたその時、マリーナは後から瑠奈が来るのが分かった。
星輝は気がついていない。マリーナは、星輝のために動いてあげようと思った。
マリーナは背伸びをして、星輝に抱きつく。
「わたくし、あなたのお気持ち分かっています。星輝様が直接言えなくても、わたくしには伝わっていますわ。だから安心なさって?」
「マッ………マリーナ王女……???」
ぎゅっと抱き締めてくるマリーナが、なぜ抱きついてきたのか、星輝は本当に分からなかった。
ただ、このまま抱きしめられていると、誰かに見られたときまずい。星輝はマリーナの肩に手をかけた。
「星輝様………、わたくしがいますわ。だから、あなたは必要なくってよ?瑠奈さん」
マリーナの言葉で、星輝ははっと後ろを振り返った。
瑠奈が、瑠奈がいた。
大きな瞳を見開いて、星輝達のことを見ていた。
「瑠奈さん……!どうしてここに……!!」
「星輝さん、マリーナ王女と、仲がいいんだね」
瑠奈は星輝に向かって微笑む。だけど、目は笑っていなくて、瑠奈はどこか星輝に怒っているように見えた。
ただ、瑠奈は星輝とマリーナ王女が抱き合っていたと誤解していることは分かって、星輝はそれを正そうとマリーナ王女を無理やり引き離した。
「違う……!マリーナ王女とは何にもない……!!」
「プレゼントを渡して、こんな暗い所で抱き合っておきながら、マリーナ王女とは何にもないっていうなら、それはそれでどうかと思う」
「……………っ!」
瑠奈は星輝に反論を許さず、星輝に軽蔑した視線を向けて、2人を置いて去っていった。
それから、星輝はどんな顔をしてマリーナを客室まで送っていったか覚えていない。
ふらふらとした足取りで戻った自室の鍵を閉めた。
これで、誰も入ってこない。
星輝は、床にしゃがみこんだ。
瑠奈の軽蔑した視線が目に焼き付いて離れない。
瑠奈に完全に嫌われてしまった。
星輝の目から涙が零れ出た。
(これでいい、これで良かったんだ………)
瑠奈は瑞光の番だし、星輝と仲を深める必要などない。むしろ嫌われた方がいい。
そうは思うものの、辛くてしょうがなかった。
(僕は、瑠奈に嫌われて、それでいいんだ……)