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マリーナは滞在の2日目の昼、借りている客室で珍しい訪問者を受け入れた。
王弟、星輝だ。
何度か話したことがあるものの、個人的に訪問を受けたのは初めてである。
「マリーナ王女、人族の女性がもらったら嬉しい物って何ですか………?」
ソファーに座っている星輝がおずおずとマリーナに聞いてきたのは、意外な事だった。てっきり、瑞光に近づきすぎるな等の苦言を呈されるかと思ったのに、プレゼントの話とは。
「どうなさったの、急に」
「あの、人族の女性に何か贈りたくて」
「そうですのね。その女性と星輝様のご関係は……?」
「単なる、知人です」
星輝は知人をやけに強調して答えた。
単なる知人のために、王女たるマリーナの所まで来ることなんて星輝はしないだろう。知人は嘘だとマリーナは思った。
この国にどのくらい人族がいるのかマリーナは知らないが、このタイミングで言ってくるなんて、きっとプレゼントを贈る相手は昨日会った瑠奈だ。
星輝は、瑠奈に懸想している。マリーナはそう確認した。
瑞光がどこか気にしていた瑠奈。瑠奈と星輝が両想いになれば、マリーナもライバルが減る。
星輝に協力しないという考えはマリーナにはなかった。
「それでしたら、一緒に買いに行きませんこと?」
「僕と、マリーナ王女でですか……?」
星輝はマリーナの突然の提案に驚いている。
でも、マリーナは星輝と出かけることで、瑞光に嫉妬心を抱かせたかった。
瑞光との仲が前進するかもしれない。そう思うと、マリーナは上機嫌になった。
「実際に見たほうがアドバイスしやすいんですの」
「それもそうですね………」
周りに控えているマリーナの侍女たちもにこやかな笑顔を浮かべている。
「思い立ったら吉日ですわ!さぁ、今から行きましょう!」
マリーナは、意気揚々と部屋を出た。
※※※※※
爽やかな朝で清々しい気分になっていいはずなのに、瑠奈はふとした瞬間にため息をついてしまう。
それもこれも、星輝のせいだ。
瑠奈は元の世界に戻りたいのに、星輝はそれを嫌がっている。昨日の星輝の強い視線が忘れられない。
本当に、元の世界へ戻っていいのかな。瑠奈は不安に思うけれど、この世界で一生を過ごす覚悟なんてできていない。
朝から元気のない瑠奈を夏蓮と明明が大丈夫か聞いてきてくれるけど、2人にも元の世界へ戻ることを反対されたらと思って悩んでることは伝えることができない。
「瑠奈ちゃんどうしたの?なんか元気ないって夏蓮から聞いたけど」
偶々用事があって瑠璃宮を訪れていた白麗が、夏蓮に連れられて瑠奈の元へやってきた。
「元気はあります!ただ、なんか気が塞いじゃって」
「白麗さん、瑠奈さんを外に連れて行ってくれませんか?マリーナ王女が滞在されていて、宮中もバタバタしていますし、珠には息抜きも必要です」
溜息ばかりつく瑠奈を痛ましい目で見ていた夏蓮が、白麗にお願いをする。
瑠奈でなければ、直ぐにオッケーと言っただろう。ただ、瑠奈は王の番だ。王から直接は伝えられていないが、謁見時の様子からして間違いない。
外に誘い出したと王に知られたら、何をされるか分からない。白麗はまだ死にたくなかった。
「王の許可なしにだなんて危険だ!!!」
「どうして許可がいるんですか?王からは特にそんな指示は出ていませんが」
「だって………!それは、その……」
瑠奈ちゃんは王の番だからだと説明したかったけれど、王が公言しないことを白麗が勝手に言える訳がない。
「そんなことで王は怒ったりしないよ!大丈夫だから、白麗さん。行こうよ!」
明明は白麗に笑顔を向けた。いや、そうじゃない、絶対俺怒られる最悪俺に待ってるのは死だと白麗はブツブツ言ったけれど、女性達に聞き入れられず、結局4人で宮中の外に行くことになってしまった。