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星輝は抱きしめたことについて、瑠奈に何度も何度も謝ってきた。星輝の深い後悔が伝わってくるようで、瑠奈は悲しくなった。
「瑠奈さん、僕のこと許してくれるんですか……?」
「疲れてたんだよね?私は気にしてないから、もう謝らくていいよ」
瑠奈は許してくれたのに、『気にしてない』の一言が星輝の胸を刺した。一気に辛い思いで一杯になる。瑠奈にとって、自分は大したことのない存在なのだろうか。落ち込みそうになるが、星輝は瑠奈に聞きたいことがあった。
「あの、瑠奈さんは、本当に元の世界に帰ろうと思っているんですか……?」
「うん、帰りたいって思ってる」
「どうしてですか………?この世界は嫌いですか?」
「ここが嫌なわけじゃないけど……。やっぱり、元の世界に戻りたい」
瑠奈は星輝の目を見て、きっぱり言った。
幸いなことに、この世界で出会った人達はみんないい人だったけれど、飽くまで瑠奈にとって、ここは異世界だ。
元の世界と、異世界どっちが大切だなんて、考えなくても分かる。
「そう、なんですね……」
瑠奈の言葉を聞いて、星輝は悲しそうに呟く。
「王のことはどうするんですか?」
「えっ…………?」
「瑠奈さん、昨日、王と夜を過ごされたのでは?」
星輝の言い方に瑠奈は驚いた。星輝は瑠奈と瑞光の仲を誤解しているのではないか。
「星輝さん、何か変な風に思ってない?別に何もしてないよ!ちょっとお話ししただけ!」
「本当のことを言ってもいいんですよ……?」
「嘘ついてないよ!王様に確認してもらってもいいから!」
「そうですか…………」
一瞬、星輝は嬉しそうな顔をした。でも直ぐに残念そうな表情をする。
「瑠奈さん、王はどうですか?お好みではない?」
「えっ……?王様はそんな対象じゃないよ!!」
「なんで、なんでですか…………?」
星輝は食い気味に聞いてくる。星輝は瑠奈と瑞光をくっつけたいのだろうか。瑠奈はここの世界の人とは仲を深めるつもりはないのに。
「王様のことは確かにいい人だと思うし、元の世界の人だったら好きになったかもしれない。でも、ここの人達は、運命の番がいるんでしょ?そんな人、好きになれないよ………」
「………っ!そうですか………。それだったら……」
「星輝さんは、どうしてそこまで王様のことを気にするの?」
いきなり切なげに抱き締めてくるくせに、瑞光を瑠奈に勧めようとする星輝。星輝にこれ以上、瑞光を勧められるのが嫌で、瑠奈は話題を変えた。
「すみません、お伝えしてませんでしたか?王は僕の兄です」
「お兄さんだったんだ………!!」
瑞光と星輝は、言われてみれば似てるかな?と思う程度で、瑠奈は星輝に教えてもらうまで、2人が兄弟であることに気がつかなった。
「僕と兄は母親が違いますからね。気がつく人の方が少ないです」
「お母さんが違うの……?」
「まぁ、いろいろあったので」
星輝は何処か自嘲気味に答えた。瑠奈はそれ以上2人について聞くことができなくなった。
「瑠奈さん、王があなたになんと伝えたかは分かりませんが、僕は、あなたにこの世界に残ってほしい」
「どうして……………?」
元の世界へ帰りたいと告げたとき、瑞光は反対しなかった。どうして星輝は反対するのだろう。
「どうしてもです。瑠奈さん、あなたがいないと壊れてしまう」
星輝の強い視線が瑠奈を捉える。強すぎて、目線をそらすことが出来ない。
瑠奈が元の世界へ帰ることで何が壊れてしまうんだろう。気になるけれど、聞けない。だって、聞いたとしても、瑠奈は元の世界へ戻らないとは言えないから。
固まってしまった瑠奈から視線を外した星輝は王の所に向かうところだったので、と伝えて去っていった。