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 翌朝、瑠奈は庭園のガゼボに来るよう伝えられた。


 瑞光とまるで西洋人形みたいに可愛い女の子が並んで瑠奈を待っていた。


 「瑠奈、彼女は隣国のマリーナ王女だよ」

 「瑠奈さん、初めまして。よろしくお願いしますわ」


 瑠奈に優雅な礼をした後、マリーナは瑠奈に向って笑いかけた。ただ、その翡翠色の目は笑ってはいない。


 「…………………………よろしくお願いします」


 マリーナが瑠奈をよく思っていないことがひしひしと感じられて、瑠奈は嫌な気持ちになった。








 「マリーナ王女が偶々この国に来られたから、異世界のことについて、聞こうと思って。彼女は竜人ではなく、人族だ。折角ならと思って、瑠奈も呼んじゃったんだ。瑠奈、急にごめんね」

 「わたくしは驚いてしまいましたわ!だって、星輝様とお話しする予定でしたのに。急に言われますと、困ります!」

 

 瑞光は瑠奈に話しかけたのに、それを無視してマリーナが瑞光に返事をした。


 「星輝よりも私がマリーナ王女とお話しした方がいいかと思ってね」

 「わたくしと話したかったんですよね?瑞光様が」


 マリーナは隣に座る瑞光の二の腕に振れて、瑞光に笑いかけた。マリーナは瑞光にうんと言って欲しいのに、瑞光はただ曖昧に微笑んだ。


 「マリーナ王女の国に、異世界から来た人はいる?」

 「異世界から……?昔は居たようですわ。ただ、今はわたくしの国にはいませんわ」

 「そうなんだね………」


 瑞光の表情が曇る。マリーナは、瑞光が運命の番がいるという竜人という種族であっても、瑞光のことが昔から好きだった。瑞光にも同じ気持ちを返してほしい。そのためには、少しでも瑞光の力にならないと。


 「どうして、異世界のことを気にされてるんですの?」

 「異世界から来た者が、異世界へまた戻ることができるのか気になったんだ」


 マリーナと瑞光だけでいいのに、この場にいる瑠奈という女性。王たる瑞光が何故か気を配っている。どうして瑠奈がこの場にいるのか分からなかったけれど、マリーナは1つの可能性に思い至った。


 「瑠奈さん、もしかして異世界から来られたんですの………?」

 「そうなんです……。ここはいい世界だと思うけれど、やっぱり元の世界に戻りたいんです」


 瑠奈は申し訳なさそうに言った。瑞光は、瑠奈を気遣うように優しく瑠奈を見守っている。瑞光のそんな表情、見たことがない。悔しい。でも、瑠奈は異世界人。どうせ元の世界に帰るのだから、マリーナのライバルではない。


 「お気持ち分かりますわ。異世界に来た者は、元の世界に戻りたいと思うのが当然です。瑠奈さん。安心なさって?わたくしは、異世界へと戻った者を知っていますわ」

 「本当ですか……………!?」

 「書物に書いてあったんですけれど。元の世界へ戻りたい者は、竜人が大切にしている物を飲み込んだらいいそうですわ」

 「大切にしている物…………?」


 竜人のことをあまりよく知らない瑠奈は、当たり前だが何を指しているのか全く分からない。ただ、さすがに瑞光は心当たりがあるようで、マリーナの発言にはっとした顔をしている。 


 「そうですの。でも、1個では駄目なんですって。2個必要らしいですわ」

 「2個も…………!?あぁ、そうか、そういうことか………」


 瑞光はマリーナに大切な物と言われたときよりも、何故か個数に驚いていた。


 「試してみる価値はありそうだね。マリーナ王女、ありがとう」

 「瑞光様のお役に立てて嬉しい!わたくし、庭園を見たいんですの。案内してくださらない?」


 瑠奈との話はもう終わったとばかりに、マリーナは瑞光と2人っきりになろうとする。


 「そうだね………。喜んで」

 

 瑞光は瑠奈のことを気にしつつも、一国の王女であるマリーナの要望は簡単には断れないのか、マリーナ王女と席を立った。


 マリーナは溢れんばかりの笑顔だ。それに対し、瑞光の表現は硬い。


 「瑠奈さんごめんなさいね?わたくし、この国に三日間しかいれないから時間がなくって。瑠奈さんが元の世界に戻れるよう、祈っときますわ。御機嫌よう」


 瑞光が瑠奈よりもマリーナを優先してくれて、マリーナは嬉しくて堪らない。瑠奈に勝ち誇った笑みを浮かべ、瑞光の逞しい腕に手を添えた。



  









 瑠璃宮へ戻っていた瑠奈は、前方に星輝の姿を見つけた。


 星輝は瑠奈の方へ向かってきている。庭園へ向かおうとしているのだろうか。


 一昨日ぶりに会う星輝は、青白い顔で歩いている。足元もふらついていて、具合が悪そうだ。


 大丈夫かなと瑠奈は思ったが、一昨日の星輝の瑠奈に対する態度を思い出し、話しかけるのを戸惑ってしまう。


 小屋で会った時は良くしてくれたのに、宮中で再会したときは目も合わせてくれなかった。瑠奈はそれがとても、悲しかった。

 






 

 「瑠奈………………瑠奈が………いる……………」


 虚ろな星輝の瞳が瑠奈の姿を捉えて、瑠奈を真っ直ぐに見た。星輝の声は、酷く掠れていた。


 瑠奈が反応するよりも早く、星輝が瑠奈に徐ろに近づいた。


 「……………………?」


 「瑠奈っ………………………っ!」


 星輝は、急に、瑠奈を抱きしめた。


 星輝は、限界だった。 

 瑞光と番が同一人物だったし、瑠奈は瑞光に抱きしめられていたし、昨夜も瑠奈から瑞光に会いに行ってたし。


 瑠奈は瑞光の番だから、星輝が瑠奈を求めることは許されない。瑞光と瑠奈が仲を深めることは、喜ばしいことなのに。苦しくて苦しくて堪らなかった。


 番抑制剤も、朝から3回服薬した。

 でも、辛すぎる。


 もう今が現実なのか夢の中にいるのか、星輝は分からなくなっていた。


 星輝は瑠奈を自分の中に閉じ込めてしまいたかった。


 

 覆いかぶさるように抱きしめられた瑠奈は、2人の体には隙間なんかなくなってしまって、星輝と瑠奈が1つになってしまいそうだった。


 (だめ………恥ずかしいよ………)


 急なことに戸惑いながらも、星輝にこうされるのは全然嫌じゃない。星輝からは、瑞光のときにも感じた甘い香りがして、くらくらしそうだった。



 「瑠奈っ…………!僕の、僕だけの………!!」



 星輝は瑠奈の耳もとで、切なげな声で瑠奈の名前を呼ぶ。僕だけのの後に続く言葉はとても小さくて、瑠奈は聞き取れなかった。

 

 細身に見えた星輝は意外と逞しくて、瑠奈は星輝の胸元に顔を埋めた。この時間が永遠に続けばいいのに。でも、星輝は瑠奈のことをどう思っているのか、瑠奈は分からなかった。


 「ねぇ、僕の………………って何?」

 「ん?それは…………」

 「なに、何なの、教えてよ」


 星輝に話しかけたら、甘えた声が出てしまった。

 でも瑠奈よりも星輝の声が甘くて、色っぽくて、体がぞくぞくする。


 「僕の、つ………………って!!えっ…………?」


 瑠奈は急に星輝から解き放たれた。

 

 今までの艶っぽい雰囲気は何処にいったのか、星輝の顔は真っ青になっている。

 

 「僕は……何を………!!瑠奈さん、ごめんなさいっ…!!」

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