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 星輝も下がるほどの遅い時間帯に、夏蓮が瑞光を尋ねて執務室へやってきた。


 入室を許可された夏蓮は、深刻な面持ちをしている。


 「もう夜も遅いしそう畏まらなくていいよ。何か重大なことでも?」

 「実は、瑠奈さんのことで御報告があります」


 星輝のいないタイミングを狙って夏蓮は来たのだろうか。どんな報告なのだろうかと瑞光は身構えた。


 「瑠奈さんは初日の今日、瑠璃宮で恙無くお過ごしになりました」

 「そっか。夏蓮と明明のお陰だね。ありがとう」

 「とんでもないことです。それで………」


 夏蓮は重々しく口を開いた。

 

 「瑠奈さんには運命の番がおられると思います」

 「運命の番……………!?どういうことだ?」


 思いがけない一言が飛び出してきて、瑞光は動揺が隠しきれない。


 「瑠奈さんがこの世界で目覚められた時、ネックレスを手にしていたそうです。そのネックレスには、恐らく逆鱗がついています」

 「何だって………?」

 「瑠奈さんは逆鱗が逆鱗だと気付かれてはいません。ただの綺麗な玉がついたネックレスだと思っておられます。瑠奈さんには他人には見られないようにと伝えておきました」


 自分よりも先に瑠奈へ逆鱗を渡した男がいると知って、瑞光は薄暗い感情に支配されそうになった。


 その男を見つけて、排除しないと。


 いや、まだ夏蓮が前にいた。瑞光は平静に見えるように、気持ちを落ち着かせた。


 「それで、瑠奈に運命の番がいると判断したんだね。分かった。対処は追って沙汰しよう。夏蓮、このことは口外してはいないね?瑠奈もそうだが、夏蓮も口外はしてはいけない」

 「心得ております」

 「瑠奈は逆鱗を送った相手に心当たりがありそうだったか?」

 「特にはなさそうです」

 「そうか………」


 瑠奈に逆鱗を握らせる機会があったのは誰か。

 可能性としてあるのは、瑠奈を最初に発見した白麗だ。だが、白麗は違うだろう。瑠奈に執着している様子は感じられない。


 「逆鱗は何色だった?」

 「紫色でした」


 逆鱗は通常、瞳の色と同色だ。瑞光は紫色の瞳の男を思い出した。


 (そうだ、紫色といえば星輝もだ……)


 星輝が瑠奈の番なのか。星輝は瑠奈のことを気にはしているが、瑠奈との仲を深めるように瑞光に進言している。瑠奈が星輝の番なら、そんなことは出来ないだろう。


 そもそも番が重なることはあり得ない。運命の番ではなく、面白がって瑠奈に逆鱗をもたせたのかもしれない。いや、逆鱗がなくなると竜人は……


 いずれにしても、瑠奈に逆鱗を持たせたのは許しがたい……。


 瑞光は誰かとも分からぬ男に憎しみを感じ始めていた。このまま、夏蓮と話すのは良くない。余計なことを夏蓮の前で口にしてしまいそうだ。


 「分かった。報告は以上かな?」

 「他は特にありません。失礼しました」


 夏蓮は瑞光の機嫌が急激に悪くなったことを察し、静かに立ち去った。








 



 夏蓮が退出して執務室に誰も居なくなると、瑞光は悶々としだした。

 あれほど仕事に集中できていたのに、手は止まったままだ。


 (瑠奈に、逆鱗を渡した男は誰だ………)


 色んな可能性が考えられて、答えが分からない。

 瑞光は空中を見上げた。


 ――あぁ、おかしくなりそうだ………


 瑠奈に逆鱗を渡した男がいる、その事実だけで、自分がどうなるか分からなくなってきた。


 瑞光はふと、自身の右手を見た。


 手首の内側から縦に真っすぐ赤い線が入っている。昨日短刀で力任せに切った跡だ。切れば少し冷静になれた。


 そうだ、もう一度……………!


 短刀を手にした瑞光の耳に、躊躇いがちな声が聞こえた。


「あの………!瑠奈です!入ってもいいですか?」


 執務室の外に居たのは、瑠奈だった。

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