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1日目

*この物語はフィクションです。

一部グロテスク、性的な表現などが含まれます。

苦手な方は読むのをお控えください。

1-1

 さわやかな海風がクルーザーのデッキに流れ込み、

陸地での湿度の高い鬱陶しい暑さから解放されていく。

夏休みが始まってから一週間、

都会での親族との懇親会などの様々な面倒な出来事の束の間、

今日からは学園の保有する避暑地を兼ねた孤島での集中合宿が始まる。

 私の通っている藤ノ宮(ふじのみや)女学院』は、

所謂お嬢様学校として名が通っており、

入学費や給食費などが非常に高額であることから富裕層にとってはステータスの一部として数多の生徒が在籍をしている。

 学院は幼稚園から高校までのエスカレーター式となっており、各進学ごとに追加での受験は可能なものの、

幼稚園から入学している人たちは『生粋』と呼ばれ様々なところで優遇されると共に、真の権力者として羨望のまなざしを集めている。

 そんな学校の為、夏休みに行われる集中合宿も学院が保有する北海道の孤島。

携帯の電波ですら届かないような場所で行うといった大規模なものになっている。

確かに親族もいない静かな場所で勉強ができるのなら願ったりなことであるが陸から片道2時間もかけなければ辿り着かないというのはどうかと思う。

 昨年を含め過去には何度かヘリでの移動も行われていたが今年は生徒の中にはヘリが苦手なものもいるらしく大型クルーザーを用いての移動となったようだ。

まあ、この合宿自体が高等部から各学年の成績上位10名、引率の教師が各学年ごとに1人、

さらに用務員の方と調理師の方の計35人と、ある程度の人数がいる以上は得意不得意は出てきてしまうだろう。

「船内のお客様にご連絡いたします。

当船は現在予定通りの運航をしており、30分後には師芽安島(しめあんとう)に到着いたします。

今しばらく船内にておくつろぎください。」


 携帯を開くと確かに出港から1時間半が経ったらしい、電波は既に圏外の表示が出ている。

不在通知が幾つか溜まっているが無視して電源を切って折りたたむとポケットに入れた。

と同時に小さな唸り声と共に顔面蒼白な少女が近づいてきた。

「うげぇ…、相変わらず船って慣れないわ…」

 視線も合わせずそう呟くと彼女は手すりに身を預けるようにもたれかかった。

 彼女は島田真由(しまだまゆ)、昔からの幼馴染であり幼稚園からの仲で 、

最早腐れ縁かと思うぐらいずっと同じクラスになっている私の親友だ。

だからこそ船が苦手なことを当然知ってる、それを踏まえても 、

「処方薬を飲んでもそれなら相当酷いものね。」

「本当だよ…これならいっそ睡眠薬か何かにしてもらってずっと寝てたかった…。」

「でも、イルカ見れて良かったのでしょ?」

「まぁね、去年はヘリだったから間近には見れなかったしね。

あぁ可愛かった…」

 彼女は遠い目をして海を見つめる、

島田も今回はヘリ反対派でその理由がイルカを見たいからと言うなんとも幼稚な願いの為だ。

元々酔いやすいタイプなのだから大人しく早く着くヘリにすれば良いの

につまらない欲望に囚われた結果痛い目を見ることになっている。

「で(あおい)だって夢中で見てたじゃん。はぁ可愛かったなぁ~、やっぱり野生が一番良い……

うっ!」

 顔面蒼白な彼女は会話も途中だと言うのに再び化粧室へと姿を消した。

そんな親友と入れ替わるように別の人が近寄ってきた。


「数時間前が嘘のようですね彼女。」

「…っそうですね先生。」

 長い髪を揺らしながら近づいてきた女性は月代京子(つきしろきょうこ)

藤ノ宮女学院の卒業生で大学院まで通い、卒業と同時に教師として再び学院に戻ってきた生粋の藤ノ宮人間である。

 うちの学校は幼稚園から大学まで基本的にエスカレーター方式であり、そのなかでも藤ノ宮女子大学の選抜学部というものには限られた人間しか上がることが出来ず、

その選考の一つとして校内での学力成績が上位10位以内というものである。

相当難関なこのルールだが、 藤ノ宮女子大学の選抜学部の卒業生にはとある組織への加入が許され、

それこそが日本の財界の中枢を担うことと同義であると言われている。

 だからこそ生徒たちは必死に勉学に励むのである。

本当に選抜学部への進学を志すものにとってはこのような夏期講習への参加はとても大切なものである。

 そんな厳しい学力戦争を勝ち抜いた怪物こそが今目の前にいる月代という教師である。

優しい微笑みを向けながらこちらを見つめる彼女は大きなカメラを持っていた。何気ない視線に気づくと 、

「あぁ、そうそう。学級紙に載せたいから立花たちばなさんもお写真一枚撮らせてもらっていいかしら?」

「はい、大丈夫です。」

…この人の独特な雰囲気と粘りつくような視線が少し苦手だ。

ただの思い違いかと言われれば否定できないが、それが他の生徒に対しても同じなため何とも気味が悪く思えてしまう。

 だが、赴任一年目でクラスの担任。

なおかつ、このような夏期講習の学年担当に選ばれるのは相当学園側からの信頼があってこそであろう。

そのほかにも、この人の授業は一生徒としても相当分かりやすく、ベテランの教師と比較してもその実力には遜色がない。

だからこそ月代という教師を一概には否定できずにいた。

 そんな私の思いはつゆ知らず、

「…葵だけじゃなくてワタシも撮ってぇ~」

顔の青白い少女が先生の肩に触れる。

その刹那、彼女は足元に組み伏せられていた。

一瞬の出来事で呆然としてしまったが、それは技をかけている女性も同様だった。

「ご!ごめんなさい!」

「いやぁ~しょうがないっすよこれも藤女の嗜みですからぁ」

と、唯一技をかけられている本人だけが一番冷静であった。

 文武両道とはよく言った者で月代は様々な武道の有段者であり、

訓練を受けているプロでもない限り数十人で相手をしなければ彼女は倒せないであろう。

彼女程の実力はないにしろ私たちも必須科目で護身術は一応の教養はある。

それでも今の月代の放った一撃は最早芸術の域に達するものであった。

 何しろ宙を舞い、空を仰ぐ少女は、

「結構なお手前でした…」

の一言を残し失神してしまったのだから。

まぁ、船酔いの辛さから逃れられたのだから少女にとっては幸せなのではないかとも思うが。

「とりあえず船内の椅子に座らせておきましょう。お手伝い頂けますか先生?」

「そ、そうですね。では右肩を私が待ちますから立花さんは左肩をお願いします。」

酔っ払いのように伸びた親友を担いで船内に入った。



1-2


 船内は冷房が効いており、海の涼しさとはまた違う、

真夏とは乖離した世界だった。

適当な席に彼女を座らせると、一人の生徒と視線があった。

 日向由布子(ひなたゆうこ)

学年成績二位の優等生。趣味は読書でありその読書家ぶりは

本来であれば三年生でなければできない図書委員長という大役を二年生ながらに任されるほどである。

 それだけにとどまらず休憩中でも食堂でも本を手放すことなく、常にほんと顔を合わせているにも関わらず、

彼女と用がないのに目が合うことの多さは少し異常なくらいである気がする。

しかし、整えられた長髪は前の方にも長く、目の下まで伸びているためきちんと確認することができないのだが。

 そのため、その視線があっていると思う気持ちはは自意識過剰かとも思うが完全な否定もできずにいた。

それでなくとも学園生活は気が抜けないことが多いというのに…

 私は再びデッキに戻ろうかとも思ったが不憫な親友を思い、大人しく座っていることにした。

すると、一人の生徒が近づいてきた。

普段であれば絶対にしないが"ソイツ"にだけは圧倒的な敵意を向ける。

「いやいやぁ、これはまた大変そうですなぁ。聞こえてましたよ、月代先生の一本背負い。目指すべき藤女の姿とはまさにこのことですなぁ。」

「…そんな事言いにわざわざ来たのかしら?」

「んー。それが一割、別件九割っと言ったところですな。我が代の『藤女の君』様からの独占インタビューをと思いまして。」

「またそれか…、あなたも飽きないわね。」

「それはもう、新聞部の威信にかけても立花葵について取材をしろとのお達しですから。

女の園である藤ノ宮女学院。特にスター性あるクールなイケメン生徒のみが選ばれる『藤女の君』。

そんな藤女の君の中でも全学年通しても一と言われる立花葵!今まで幾たびの取材をも突っぱねるクールさとミステリアスさは、

今全生徒にとって最もホットな話題と言っても差し支えない!

だからこそ是非!君の話を聞きたいところなんですよ!」

 いつも通りではあるが一方的に捲し立てるように彼女は話をすすめる。

そして唐突にどこら出したのか手には薄型のノートPCを持っていた。

「是非!君のファンからの質問にご回答を!」

「毎回の如く私は特に話すことなんてないわ。あなたもしつこい人ね。」

「それが嘶城紗綾(いななきさや)ですから。」

謎の自信も持ち、藤ノ宮生独特なオーラを感じさせない。

彼女はこんな感じのマスコミ気質な感じの人間で、結構迷惑をしてるのでこんな感じで軽くあしらっている。

そんな事をしているうちに間も無く到着とのアナウンスが流れた。

それをガッカリといった感じで肩を落とすと、嘶城は元居た席へと戻り着岸に備えるのだった。



1-3


 孤島の空は灰色に染まりその下を乗ってきた二隻のクルーザーが離岸し島から遠ざかっていく。

その様子を校舎や寮まで続くとても長い坂の中腹から眺めていた。

既に他の生徒は寮に荷物を置くために山頂へと向かったが、私は不憫な親友をベンチで待っていた。

海風の心地よさを船の揺れが無く感じられるこの場所は去年からのお気に入りであり、この静けさを一生感じていたいと思っていた。

しばらくすると手ぶらの親友と二人分の荷物を抱えた"一人の女性"がこちらに向かってくる。

私は気まずくなり下を見た。

押井伽奈(おしいかな)、藤ノ宮女学院の三年生担当の教師であり元立花自動者の経営顧問だった人である。

 …つまり、私の親の会社を契約解除された女性だ。

私を藤ノ宮に推薦してくれた恩人であるが、数年前の世界的な大不況の煽りと 、

その数ヶ月前に海外工場の幾つかの投資責任から契約解除されたため、私を見る目がかなり冷たいものに感じる。

 島田から言われせれば誰に対してもそんな感じだから気にしすぎだと言われたが、

実の姉のように慕っていたのと幼心ながら彼女に非があることを理解し、

その責任の取らされ方には同情の余地もないことを加味してもいたたまれなさは言うまでもないだろう。

「こんなところで道草を食っている余裕があってうらやましいな葵?」

「いえ、体調不良の島田さんが気になってまして...」

「ならば貴様が船から彼女を連れて歩いてあげればよかったのでは?」

「それでは自分の荷物が持っていけないので、一度寮に荷物を預けてからここで待っていたのですが。」

「....そうか、ならばこいつは頼んだ。」

とだけ短く言い渡すと、押井は一切振り返ることなく頂上を目指した。

私も二度目の登頂をすべく”二つのお荷物”をもって寮を目指すことにした。


1-4


 寮の入り口まで近づいたときに一人の生徒と窓を通して目が合った。

すると彼女は部屋の中に消えていき、そして寮の玄関まで迎えに来てくれた。

「ごきげんよう立花先輩!ずいぶん遅かったようですがいかがなさいました?」

「ごきげんよう。私は大丈夫ですが彼女の体調があまりよくなくてね。」

「...島田先輩ですか、出港前はあんなに騒いでいたのにこんなになってしまわれたんですね。」

「ええ、まったく人騒がせな幼馴染よ。」

「...ホントですね。私も手伝います!」

 そういうとパッと荷物を持つと二年生が泊まる部屋がある二階へと姿を消した。

 彼女は星野朱未(ほしのあけみ)、下級生ながらしっかりとした人間で昨年の文化祭の実行委員会で彼女は中等部の副委員長として、

私は高等部の委員として出会ったのが初めてだった。彼女が多くの斬新な意見を出すことで、一風変わった文化祭とはなったが生徒にも教師からも評判の高いものといなった。

 そのことについて彼女が言うには父親がいろんな企業への投資を行こなっており、様々な経営者との関わりがあったことからの経験が活きているとのことらしい。

 それ以来彼女とは学年は違えどずいぶんと深い中になった。

こんな優秀な子が後輩として働いてくれているにも関わらず、同学年幼馴染は唸るだけの生き物になっていた、こいつには星野の爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。

 すっかり置物のようになってしまった友人を彼女の部屋に連れていくと、部屋の前で待っていた星野と共に簡単な荷解きと手伝い、

ベッドに寝かせると軽く雑談を交わし感謝のお礼と幼馴染が隠し持っている飴を勝手に拝借し彼女に手渡した。

「いいんですか?」

と喜び半分、戸惑い半分な可愛らしい笑顔をこちらに向けてきた。

「当然の報酬よ」とだけ伝えるとまたニコッと笑うとポケットへとしまった。

 一連のやり取りのあと午後から始まる授業に備える為お互い自室へと向かうのであった。



1-5


 ようやく自室へと入れたのは昼食の終了時間まで10分を切っていた。

一日目の日程として、着眼した後は自由時間にあてられ昼食をとった後から夕食までの時間に授業が行われる。

そのため早急に荷解きをしないといけない、とりあえず教科書などの筆記用具を机の上に出し授業への準備を整えた。

 次にキャリーバッグから出てきたものはクマのぬいぐるみだあった。

 ...。

恥ずかしながら幼少期にもらったこのぬいぐるみがないとあまり寝つきが良くない。

なのでどのような旅行や研修であったとしても手放したことはない。

 父曰くこのぬいぐるみはテレビ業界の友人がプレゼントしてもらった物らしく、珍しくはないが良いものらしい。

 しかも、このぬいぐるみを椅子に置いておくと授業を欠席をしていてもなぜだか出席扱いになっていることがある。

 そんな不思議でかけがえのなく、そして恥ずかしさの凝縮された逸品である。

 ... 。

やはり後輩もいる手前堂々とこのぬいぐるみを外に出しておくことには恥ずかしさを 覚える、それと同時に同じ空間にいる安心感も捨てがたい。

 少し悩んだ末に出た結果は、マリーちゃん(クマのぬいぐるみ)をずっと狭いバッグの中に押し込んでおくのは申し訳ないということだった。

 一人っ子の私にとってマリーちゃんは妹と言っても差し支えないし、

私の人生にとって彼女と過ごしていない方が短い。

つまり、そんな彼女をそもそも物のようにバッグにいれて持ち歩いていること自体、

本来であれば許されざる行為であり、拉致監禁とやっていることはほぼ同義であり、

よくもまぁそんなひどい行為ができたものだと改めて自分のやったことがとんでもない悪行であり、

家族でもあってもそのような行為に対して.....

 ということで謝罪の気持ちも込めて丁寧に手入れをすることにした。

...やはり高校生になってこんなものに縋るのは良くない、

長い葛藤の末に出た結論であった。

一度はベッドの上に置いたが備え付けのクローゼットの中にしまった。

 そのようなことをしているとすでに昼食が終了し午後の授業開始まで5分もなくなっていた。

船旅の疲労と、船酔い対策として朝食をとっていないこともあり空腹感は頂点を迎えていた。

そんなこともあるので昼食は是が非でも取っておきたい。

 ふと目線を上げるとクマのぬいぐるみと目が合った。

 目が合ったということは向こうも見つめていたに違いない。

きっとマリーちゃんも

「ぼくが かわりに じゅぎょうに でるよ!!

ゆっくり ごはんを たべてね!」

 言っている。

言っているに違いない!

マリーちゃんを鞄にいれて、急いで教室のある建物へと向かった。



1-6


 急いだ甲斐もあり教室には時間内に辿りついた。

しかも幸運なことに月代先生はまだ教卓には立っていなかった。

周りの生徒も教材を見たり、ノートにまとめ作業を行ったりとこちらを気にする人はいなさそうだ。

その隙に一番後ろの席にぬいぐるみを置くと音もなく教室を抜けた。

再び寮に戻ると一階にある食堂を目指した。

 なるべく音をたてないように食堂の扉を開けるとズラッと並んだ机の上にいくつかの弁当らしきものが置いてあった。

丁寧に名前とメモ書きがされている。

立花葵さん用

船酔いから復活しましたらお召し上がりください

奥の厨房の方では調理人の方が夕食に向けて作業を行っておりこちらには全く気が付いていない。

全部で4つほど置かれている弁当の中に島田の名前が書いてあるものもあった。

 今から弁当を頂いたとしても授業には中途半端な時間にしか出席をすることはできないのは明白であるのと、

いろいろな疲労も加味すると急いで食事をする必要性は感じられなかった。

なので、ありがたく自分の分の弁当と島田の分の弁当をもらうと静かに食堂を後にした。

私はその足で病床に伏している幼馴染の部屋へと向かった。

 二階にたどり着くとちょうど島田が部屋から出るところであった。

少しだけ申し訳なさと、弱いところ見せた恥ずかしさでぎこちない笑顔を見せた。

「いやぁ、お恥ずかしいところを先ほどは。

この年でちょっとはっちゃけ過ぎちゃいまして…。」

「ごはん食べれる?」

「まぁ、それなりには、ですかね。」

私は手に持ったものを強調するように少し上に掲げると、それを察して向こうは再び部屋のドアを開けて私を招き入れてくれた。

 私たちは遅めのランチをゆっくりと過ごした。

名門校の生徒でなくても授業をさぼって食事を取るという背徳感が私たちのテンションを高めた。

 その結果として授業に参加したのは午後の最後の教科になっていた。

私は月代先生に事情を説明し、許しを得て午後の最後の授業を受けた。



1-7


 最後の授業が終わると夕食の時間となっていた。

だが私たちは着席した状態で廊下の方をチラチラと見ていた。

というのも二階から三年生が全員降りてくるまでは食堂に行くことは許されない。

 それは東京の校舎でも変わらない。学年が上がるたびに校舎での階数も上がっていき、

全員が下の階に移動したのを察して食堂へと移動していく。

この学校独特のルールであり、何をするにも基本的には三年生が優先され、下の学年がそのあとをついていく。

この夏季合宿においてもそのルールに例外はない。

「…悠里(ゆうり)先輩は体調不良で授業には参加してないんで今のお方で最後ですよ。」

嘶城の誰に向けたでもない一言をきっかけにぞろぞろと私たちは食堂へと移動した。

 寮側の食堂につくとすでに三年生は全員が着席をし食事を取っていた。無駄にでかい食卓は二分され盛り上がっている。

 一方は現生徒会長である片岡夢美(かたおかゆめみ)様を中心としたエスカレーター組であり、

もう一方は副生徒会長の(みなと)フランシスカ(ともえ)様を中心とした受験組であった。

この二つの派閥は学園でも大きな亀裂であり陰湿な争いを繰り広げている。

 幸いなことに私たちの二年生の受験組は嘶城だけであり、あんな性格なこともあってイジメのようなことは行われていないものと、

噂の一つとして、一年時に彼女をターゲットに集団的にイジメが行われていたようだが、

ある日を境に誰一人彼女に対してのイジメは行われなくなったらしい。

 というのも彼女はイジメの主犯格のスキャンダルや家族に関する秘密を握りそれをチラつかせたことや、

ライバル企業同士の生徒の対立関係を煽ったことにより自分に向けられていたヘイトを一掃させたらしい。

簡単にいうと敵には回してはいけない相手ということだ。

 すでに私たちが座る食卓には食事が用意されており、各々が決められた席につき勝手に食べ始めて良さそうであった。

決められた席とは言うが明確な決まりはなく、どちらかというと仲の良い生徒同士が勝手に席に着き食事を行うというのが正しいだろう、

私達は周りの様子を伺いながら着席をしていった。

 私はドア側の隅に着席し、島田が隣に座り、私の対面には嘶城が着席をした。

正直、嘶城のこのような堂々としたストーカー行為も慣れてきたところではあるが、

嘶城の隣に着席しチラチラとこちらを見てはニヤニヤとしている日向由布子のような陰湿のような感じのストーカー行為は慣れない。

まるで体温より低い汗が背中をつたっていくような気持ちの悪いものがある。

 事の発端は中等部に通っていた数年前。学内での人間関係から逃れるために、読書にのみ没頭する彼女に声をかけた。

確かに他人がどのように物事を考え感じているか、またどのような言葉選びをするかについては学びを得たといえる。

それと同時に粘着される鬱陶しさや島田とは違い古くからの関係から得られる粗雑な扱いができず、

シンプルな言葉が使えないという面倒くささから距離を置くようになったが、向こうはその時からゆがんだ時の過ごし方があったようで、

面と向かってのコミュニケーションではなく、自分自身が納得をする形での交流を取るようになってきた。

 まぁ、それも自分に非があるものとして慣れるという選択肢を取るしかないのだが、

自分が我慢をすることで何とかなることであればいいのだが、どうにもならないこともある。

万全な体調でない幼馴染は本日何回目かのお手洗いに立ったと同時に一年生が食堂へと入ってきた。

「あぁ!!先輩ぃ!!」

勢いよく一人の下級生が近寄ってきた。

その生徒は校則外のベレー帽をかぶり、

リボンをだらしなくしめ、かなりミニにしたスカートは最早下着がチラリと見えることなど気にもしていないものでしか履けぬ長さになっている。

そんな派手な下級生は島田がいなくなった席に我が物顔で座るとさも当然と話しかけてきた。

「ねぇ先輩!今晩あたしの部屋でゲームしませんか?

結構いろんなもの持ってきたんでオールナイトで楽しみましょうよ!」

安藤(あんどう)きららさん、何度も言うようにそのような言葉遣いは慎みなさい!」

「えぇ!マジお堅ぁ、ご飯ぐらいもうちょっと気楽にしても良くないっすかぁ?」

「いいえ、食事の時のマナーこそ他人から目を気にして美しく、毅然とした行いが必要となるものよ。」

「かっけぇ、確かにそうかもしれないっすねぇ、やっぱ先輩やっさしいぃ!」

「こら、食事をしている人に抱き着かない。スープがかかったら二人とも火傷をしてしまうわ。」

それに斜め前からの圧がすごく、食事に集中できない。

「また安藤さんは、先輩に迷惑かけて!」

と、星野は私の間に割ってはいると私に一礼すると安藤を連れて行った。

その間も日向は安藤の方を厳しい目つきでにらみ続けていた。

確かに安藤は多少礼儀やマナーの観点から見ればだらしのないところが目立つが、

高等部からの編入生であることや彼女なりに少しづつでも学んでいっていると私は思う。だから邪険にはなかなかできない。

まぁそのことをよく思ってない人の方が多いというのは事実ではあるのだが…。

私は幼馴染の完食を待って自室に戻る頃には、既に同級生達は嘶城を残し食堂を後にしていた。



1-8


 自室の扉を開け電気をつけるとそこには一通の手紙が床に落ちていた。

「…はぁ。」

 正直予想はしていた、東京の学校にいる頃から毎日このような置き手紙はあった。

しかも内容は決まって私への賛美と関わった人間への嫉妬と警告である。

 だが手紙にも封筒にも署名は無く誰が書いたものかは一見不明である。

一方、その文面の言葉遣いはまるで小説のようで知的センスが高く教養がある人間であることが分かる。

そんな人物は彼女を置いて他ならないであろう、というのが私の推測であり彼女と距離を置いた理由である。

 しかし、いつもと明らかに異なっている点があった。

いつもであれば封筒はおしゃれな花柄であり、コロンが付けられまるで恋人に送るようなものであるが、

今回のは無地のシンプルなものであり、何の香りもしない味気のないものとなっていた。

出先であるし今までのように凝ったものには出来なかったのであろうと思い捨てようとしたが、

違和感のある重さがあったため中を確かめることにした。

「痛っ!」

 思わず私は封筒を投げ捨てた。

私は痛みの原因となった親指を見ると小さいながら切り傷がついておりそこから流血していた。

落ちた封筒にはカミソリの刃がついておりそれで切ってしまったようだ。

初めてのことであったので痛みの後からきた驚きがその後の自分を襲った。

脳内では送り主の顔を想像しながらそんなはずはないと思うのと同時に、疑問の気持ちが浮かんでくる。

 軽い止血を終わらせると、手紙の方を読むことにした。

いつもであれば大人も顔負けするほど綺麗な文字が紡がれた文章がそこにはあるが、中にはプリントされたであろう機械的な文字が並んでいた。

『親愛なる君へ


私は貴女のことを真に愛する者です。

貴女の美しさは例えるならば造花だらけの温室に咲く一輪の生花。

飾らぬ美しさを保ち続ける真実の美。

だからこそ、その花の蜜欲しさに害虫どもが集り、美しさを損なわそうとしてくる。

私はそれが可哀想で仕方がありません。


なのでこの機会に一度清掃を行うことにしました。


本日の21時に寮の3階から上がれます階段を登っていただきまして屋上にお越しください。

不都合なき様にお一人で温かい格好をしておいでくださいませ。


温室の管理人より。』

 届いた手紙には簡潔ながら意図が不明な文章が綴られていた。

いつもの文体とは似ても似つかぬものでありすぐにそれが別人から送られてきた物だとすぐに分かった。

時計を見ると21時まであと5分といったところであった。怪我をさせられたことへの謝罪も含めこの嫌がらせの真意を聞くべく指定の場所へと向かった。



1-9


 屋上までの行き方や存在は知っていたもののそこに近づく人はまずいない。

伝統ある学校ならば一つはある怪談というやつだ。何でもこの島を学園が買い取る以前は日本の海軍がロシア侵攻の際に使用した拠点の一つであったそうだ。

この建物もその当時からあるものであり、内装だけを変えて寮として使っているので夜間に男性の怒鳴り声が聞こえたり、激しくノックされたりするそうだ。

 まぁ、これは私が幼稚園にいる頃からの噂であることや、大学への特別枠を貰おうとするものへの牽制的な側面や、

勉強詰のストレスからそのような状態に陥ったとしても不思議はない。

それでも、たった一つだけ絶対と言われているのが屋上へは上がってはいけないという決まりであった。

普段は全くこの手の話をしなかった押井が念を押すほどには曰く付きであるということだ。

 幼心にその理由を聞いた覚えがあるが内容は忘却の彼方へと消えてしまった。

だとしても、怪我をさせられたことを容易く許せるほど寛容にはなれなかった。

私は言われた通りに3階の階段を登り、屋上への扉の前に来た。何年も手入れがされていないのがよくわかる。

電気は通じておらず、少し埃が舞っていた。ドアの前に立った時足元からチャラという金属音がした。

 ドアが開いたことで、先ほどの金属音の正体がドアを閉じておくチェーンであることが分かった。

固く結びつけられていたであろうチェーンは強風によってドアを叩きつけられ先ほどの音を出していたようだ。

ふと前を見るとそこには無数の鉄線と手すりに括り付けられ大の字を書くように縛られているている少女の姿があった。


安藤きららだ。


 暗がりの夜間であるが丁寧に床には固定された懐中電灯があり安藤のことをライトアップしている。

彼女は猿轡をされてあり微かに呻き声を上げているものの海風により室内には一切聞こえてこなかった。

助け出そうと近づいた瞬間背後のドアがバタンと閉じた。ドアを再び開けようとした時に気づいたのは、外側にはドアノブが存在しなかった。

大声を上げ、ドアを叩いても分厚い鉄板と強い海風、そして怪談話のせいで誰も近づいてこないと気づくには数秒も掛からなかった。

 今現在私にできることは安藤に近づき理由を聞き出すことであった。

しかし、近づこうにも張り巡らされた鉄線の影響で安易に事は運ばなかった。

「んっーーー!んっん!」

 安藤は私に目線と目一杯の呻き声にてある一点を見るように指示された。

目線の先にはニッパーを重しにされた紙が置かれていた。

薄明かりの中ではその紙に何が書かれているか読めないため安藤を照らす懐中電灯の前まで持っていき内容を確認した。

『親愛なる君へ


今回の害虫は安藤きららです。

そいつは不要に貴女のそばに行っては、

うるさい羽音は響かせ不快にさせる小蝿。

最悪です。


そんな小蝿の四肢を切断して静かになってもらいます。

不要なものがなくなった小蝿なら少しは美しさが出るでしょう。

それではその瞬間をどうぞご堪能ください。


温室の管理人より。』

...

悪趣味がすぎる。

私との関係が不愉快であるからこのようなことをやったということか?

馬鹿馬鹿しい、さっさと彼女を解放させ犯人を見つけて先生に突き出そう。

今まで受けてきた嫌がらせの中でも群を抜いて劣悪であるものだったので冷静さを欠いてしまったが、

深呼吸をしたのち置いてあったニッパーを使って手じかな鉄線を切った。

「ん”ん”ん”ーーーーーーーーーー!」

あまりに大きい奇声に思わず安藤の方を見上げた。

彼女の肩口は真っ赤に染まっており次第に左半分は赤色で侵食されていた。

「んんん…。」

彼女の微かに漏れ聞こえる音と大量にこぼれる涙は私から冷静さと判断力を奪った。

嫌がらせでも、脅しでもない、本当に彼女の四肢をもぎ取るつもりだ。

夜の冷たい海風と正気と思えない現状から身体から震えが止まらなくなった。

そして今自分がやってしまったことの罪悪感と、同時に自分がやらなきゃいけいことの責任感が重たくのしかかった。


 先ほどとは違う呻き声に顔を上げると彼女の首についている鉄線が赤色に染まっていっている。

一本目の鉄線を切ってしまったから首元に巻かれている線にも連動し腕の時は違う速度で締まっているらしい。

つまりタイムリミットがあって、その間に線を切らなければ安藤きららは死ぬ。

だがどの線がセーフの線でどれが安藤の体に縛られた線か分からない。

 未だに目の前には無数の線があり応急処置を行うためにも近づかなければならない。そのためには線を切らなければ…。

どちらにせよ覚悟を決めて切っていくしかない。

とりあえず近くにある五本あるうちの一番上の線を切断した。

パチン!

悲鳴は聞こえない。

どうやらあっていたようだ。

ホット心が休まったがまだ油断はできない。

どの線を切ろうか。

次にその下にあった一本を選び切断した

「ん”ん”ん”ーーーーーーーーーー!」

再びの悲鳴に思わずニッパーを落とした。

ミニスカートが故に露わになっていた太ももからは鉄線が食い込み鮮血が滲み出ている。

見るに耐えれない。

 その瞬間に先ほどの夕食は液状化され胃袋から逆流してきた。大量の涙と共に喉の奥から焼けるような痛みが襲ってくる。

私にちょっかいを出したでけでなぜこれほどの罰を受けなければいけないのか。

安藤がしたことなどほんの些細なことでここまで痛め付けられればいけない理由がわからない。

 考えたところで現状の安藤は助からない。可能性に賭けて一本ずつ切っていかなければ。

…どの線を切ろうか。

タイムリミットがあることもあり、時間をかけて選ぶこともできない。

意を決して一番下にある線を選択して切断した。

「ん”ん”ん”ーーーーん”ん”ん”ーーーーー…」

私はゆっくり目を閉じた。

もう悲鳴を聞いたとしても少しのダメージしかない。

何も見なければ変わらない。

見えなければ何もないのと変わらない。

 このままどこの部分にも傷をつけることなく首のところの鉄線が締まっていけば最低限の痛みで楽になれるであろう。

だから、私は何もしない。

何もしたくない。

これ以上罪を負いたくない。

これ以上罰を与えたくない。

「ん”ん”ん”っん”ん”ーーー!!!」

 顔を上げると安藤が何か訴えていた、涙のあとは波風で乾いているが、くっきりそのあとは残っているが悲しみに暮れている瞳ではなく、

何かを決意したかのような強い瞳であった。

彼女はわずかに動く首で私のニッパーを見ている。

「…。もうやめましょう。

これ以上切ったとしてももう貴女の体は元には戻らない。

たとえ、命があったも辛い未来しかないのよ。

なら大人しく私は貴女を見殺しにした罪を背負ってこれ以上の苦しみ無く終わりにさせるわ….。」

「ん”ん”ん”!ん”っん”ん”ーーー!!!」

 彼女の要望は変わらないやって欲しいと、それでも戦って欲しいと。

葛藤は短い間しかできないのは分かっている。

その間にも彼女の首からは血が流れ続けているのだから。

彼女の意見を尊重するしかない。

何より戦うことを決意した安藤の声を無視し続けられるほど、私は強くない。

 …どの線を切らないといけないのだろうか。

私は目の前にある線を力なく切るしかなかった。

「ん”ん”…ん”ん”ん”っん”ん”ーーー!!!」

 痛みによる叫びよりも力強い声、まるで歯を食いしばるために漏れた音が漏れ聞こえたかのようであった。

今のを切ったことによりだいぶ彼女に近づけた気がする。ここを切れば彼女に触れられるまでの距離になる。

肩口からは止めどなく血液が漏れ出している。

 しかし、もう悩みはしない、きららがそう決心したのだから私が弱気になっていてはいけない。

だが、今回は少し多くきらなけれいけない。

だがこれを間違わずに切ればせめて片足でけでも無傷で帰せる。その為にもとにかくやるしかない!

彼女との間にある全ての線を切断した。

「ん”ん”ッ!!!....」

 彼女の叫び声は短く太いものであったがそれ以降続く声はなかった。

右のふとともに食い込んだ鉄線は首の物とも繋がっており、まるでギロチンが降ろされるがごとく彼女の首を吹き飛ばした。

「いやぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!!」

 鮮血が私の体に降り注ぐ、安藤きららだった物は血液を吹き出し続ける噴水のようになっていた。

…止血しなきゃ。

首は暗闇の中で見つからない、だからせめて首から出る血液だけでも止めなきゃいけない。

私は制服を脱ぐとそのまま首に押し当てる。止血を行う際は圧迫しすぎるとその部位に血液が行き渡らず壊死してしまうこともあるが、

1リットル以上の血液量が出ると大量出血で死んでしまう、だからとにかく血を止めないといけない。

「何をしてるのこんなところで!」

私は顔だけドアの方に向けると、そこには見回りに来たであろう月代先生が立っていた。

「先生!安藤さんが!安藤さんがッ!!!」

うまく脳が回らない。とにかく一緒に止血してもらわないといけない!

「きゃぁぁぁぁぁ!!」

懐中電灯で照らされた安藤の亡骸を見て、月代先生も腰を抜かし叫んだ。しかし、その間にも安藤の血液は抜けていく。

「先生!お願いです!止血の手伝いをしてください!じゃないと安藤さんが!」

「な、何を言ってるの...も、もう首が...」

 その時ようやく冷静になれた。

当たり前だ、首が取れているのに何が止血だ。

もうとっくに死んでいるのに…。

気がつくと先に正気に戻った月代先生が用務員と押井先生を連れて戻ってきた。

「自室に戻れ。」と押井が言うと私は部屋に戻された。私はまともに歩けない足を使いながら屋上を後にした。



1-10


 震えが止まらない。先ほどまで普通に生きていた人間が死んだ。

ニュースなどで聞く他人ではなく、顔や性格を知っている人間が死んだ。

死んだんだ。

いや、殺したか…。

 私が正しく判断して鉄線を切っていれば安藤きららは死なずに済んだ。それは私が殺したのと同義じゃないか。

あまりの慌ただしさから、島田達が二階の階段下で待っていた。

そして、血まみれの私を見て皆の顔から血の気が引いていくのが分かった。流石の嘶城ですら持っていたカメラを持ったまま膠着していた。

「何があ…」

幼馴染の声を無視し、一人の女性との胸ぐらを掴んだ。

「どういうつもりだ!」

掴まれた日向は呆気に取られて口元がパクパクするばかりで何も喋れていない。

「なぜ安藤を殺した!!!」

「わ、わたしは何も知らないよ…。」

「しらばっくれるな!」

 服を掴んだまま私の部屋に連れて行き、未だに落ちたままの封筒が目の間に来るように彼女を叩きつけた。

そのまま髪を鷲掴みにするとキチンと分かる様に顔を封筒の前に持って行った。

「お前がいつも私に手紙を送り付けてるのは分かっているんだ!お前以外犯人なんて考えられないんだよ!」

 痛みを訴える彼女の声は耳には入っても脳が理解を拒んだ。この行為が自分の犯した罪から逃げるための言い訳でしかないことは分かっている。

でもそれを仕掛けた人物の方がもっと悪いのは明白だし、唯一断罪できる相手は真犯人しかいなかった。

「違うよ!わたしが書いた手紙じゃないよぉ!」

「嘘つくな!こんな陰湿なことするのはお前以外いないだろ!!」

 彼女は長い前髪からボロボロと涙を流しながらもポケットからあるものを取り出した。

「だ、だって、わたしが今日書いた分はまだ出してないんだもん…。」

 私が乱暴に彼女を扱ったせいで、綺麗な花柄の封筒はクシャクシャになってしまっていたが、いつも届くようなものに確かに似ていた。

その封筒を奪い取り中身を確認した。

「…。」

 確かにいつも私の所に届く手紙の筆記体と同じだった。内容も私を褒めるものと、調子に乗った島田を弾劾するような内容だった。

安藤に関する内容は一切なく殺すまでの動機は読み取れなかった。

そこで私は冷静になった。目の前には綺麗に整えられていた髪が見る影もなく乱され、泣きじゃくる同級生の姿がいた。

ゆっくりと立ち上がり後ろを見ると怯えている幼馴染の姿があった。

 事情が分からず困惑するものの異常な雰囲気と日向の無関係さを察した嘶城は泣きじゃくる日向を宥めると私たちの部屋を後にした、それに合わせて数人の同級生達も自室へと戻っていった。

一人立ち尽くす私の背中に島田がそっと抱きついた。

「…相当まいっちゃったんだね。」

 私は声を出して返答できなかった。だが島田には通じた。

「汚れちゃったし、着替えてシャワー浴びに行こうか。」

 彼女は無言の私の手を引いて部屋を後にした。呆然としてしまった私を優しく彼女は接してくれた。

 正直あまり何をしてくれたか覚えていないが、島田は寝巻きの私をベッドに座らせると常夜灯つけ部屋を後にした。



1-11


今夜は眠れはしないだろう。何度も安藤の姿が脳裏に浮かぶ、

涙を流しこちらを見つめてくる姿。

ふざけて抱きついてくる笑顔の記憶。

先生に怒られても我を通し続けた彼女なりの生き方を。

 目を閉じるのが怖い。今ですらこんなにも彼女のこと脳裏から離れないのに視覚情報が遮断されてしまうと行なった罪の重さからくる罪悪感で押し潰されてしまいそうだ。

だが、目を開けて映る床もさきほどまで無関係な同級生を押し倒し無関係な事で断罪した現場が視界に入ってきてしまう。

私は勉強用の机に座った。

手元のライトをつけるとそこには封筒が置かれている。島田がきっと机の上に置いてくれた物だろうと思ったが、違和感を感じた。

「…血がついてない。」

先ほどのには封筒にはカミソリの刃がついていたので私の血が裏面にはついているはずだが、それがなかった。

「別のもの?」

 私は今回ものは注意して開封をするもカミソリのようなものは付いてなく、普通のものであった。

だが油断できなかったのと恐怖心から切り口を下にして、中身を全部出した。

パサッ

と中から出てきたのは茶色がかった何本かの髪の毛と一通の手紙だった。

『親愛なる君へ


先ほどの手紙にて貴女に怪我をさせてしまい申し訳ございません。

しかし、イタズラと思いお越し頂けないかもと思いこのようなことをしてしまいました。

私が準備した害虫の殺処分ショーはいかがでしたか?

どんな羽音の鬱陶しい小蝿でも命尽きるその瞬間は美しいものでしたでしょう。

さて、これで私が望む温室に近づきましたがまだ害虫どもはいます。

完全な温室を作るために貴女にはお手伝いをお願いすると思いますのでよろしくお願いします。


PS.小蝿とはいえ美しい髪をしていたので同封いたします。


温室の管理人より。』

 心が疲れ切ってしまっているので、怒りも感じなかった。

しかしこれで確証を持てた。

この送り主が犯人であると。

再び廊下が騒つく音と、雨粒が窓を叩く音で再び現実へと戻された。廊下からの悲鳴や怒号は流石に無視できた物ではなかった。

 ゆっくりと扉を開けるとびしょ濡れになったブルーシートを持ったこちらもびしょ濡れになった大人達が運んでいた。

そして、怒号の正体は先程まで一緒だった島田と嘶城だった。ドアの隙間から見ていた私と押井の目が合うと運んでいたブルーシートを別の生徒に任せるとこちらに向かってきた。

 バンっ!

と無理やり扉をこじ開けられると手を掴まれた。

「待ってください!立花さんは犯人ではありません!」

「かもしれんが重要参考人であり第一発見者から事情を聞くのは当然のことだろう?」

「でも彼女は疲れてるんです!明日であっても構わないんじゃないですか!」

「問答無用。危険な存在である可能性がある以上は無罪放免としておく訳にはいかんだろう。」

「んぐ…。」

島田は自分の唇を噛みちぎりそうなほど噛んで悔しがるが、現状は変わらなさそうだ、再び強い力で私を連れて行こうとする押井の前に嘶城が立ち塞がった。

「彼女を拘束するということは身柄を拘束するということ、つまり刑事訴訟法第213条の逮捕と同義になります。

今回の場合であれば、彼女はあくまで疑わしいだけであり、凶器となるような物を持っている訳でもなければ、先生方の中にも我々生徒の中にも目撃した人がいないことから、不当逮捕であると思われますが。」

「憲法ねぇ、よく学んでいると思うが、彼女が現場で血まみれの衣類を身につけていたということは十分な証拠たり得ると思うが。」

「その制服が第三者によって着せられたものである可能性も…」

 長い時間が経ったと思う。

最終的に現状を把握した片岡先輩が仲裁に入り、遺体の処理を優先させ事情聴取は明日に行うことで話は決まった。

ひとまず本土と連絡をとり警察に来てもらうことで色々と判断されるようだ。

その時先に無線で連絡を取りに行っていた月代先生は息を切らしながら我々の方へと走ってきた。

「む、無線が、無線が壊されてます!!!!」

私たちは顔を見合わせた。

確認のために宿直室に入ると見るも無惨に無線機が破壊されていた。

「じゃあ、この事態は警察に伝えられないんですか?」

「そうなるな。」

 こんな状況でも押井先生は冷静だった。

「ど、ど、どうしましょう。」

「落ち着いてください。引率マニュアル通り行けば無線からの連絡がなくても七日経てば迎えが来ます。」

 七日間。一週間も経たなければ事態は変わらないと言うことか。

「立花。お前はしばらくの間自室で待機してろ。」

判定が覆ることなく明日の事情聴取までは外出を制限された。と同時に明日の授業は全面取りやめとなり、予め準備されていた課題を自室にて取り組むようにとの指示をされた。

各々が部屋に向かって帰る中、島田が私のそばにやってきた。

「ねぇ、本当の犯人を私たちで探さない?」

「え?」

「だって、あんたがやる訳ないでしょ?それに帰って来てからの行動であんたが巻き込まれた側だって分かったし。だから、親友にこんなことさせた奴を一週間以内に見つけようよ!」

 私は目頭の熱さから目元を抑えた。自分の無実を信じてくれた事もそうだが、安い慰めよりも安藤のためにも真実を知ることによって真犯人への逆襲を手伝ってくれると言うことが何より嬉しかった。

「明日は多分食堂にしか行かせてもらえないと思うから、その時に証拠を見つけてやろうよ!」

「…分かった。けど島田もいらない疑いかけられるかもしれないのにいいの?」

「大丈夫!親友を放っておく方が何倍も辛いから。」

 その時に照れ隠しの笑顔に安らぎを感じた。

こうして長い一日は終わりを告げた。


>>続く


ここまでお読みいただきありがとうございました。

この作品はノベルゲームでもプレイ可能です。

こちらから体験版をプレイすることもできますので良ければプレイをしてみてください!

(booth) https://tnautilus.booth.pm/items/6340744

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