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みじめな始まりと謎の紙

 

 目を覚ますと見たこともない景色が広がっていた。


「成る程ね。ここが異世界ってわけだ」


 人工物の類は一切見当たらない。見渡す限りの草原がそこにはあった。遠くに山岳地帯が見えるがここから歩いて一体何日かかるのか。

 遠くを見渡すよう手を額に持っていった際に全く見覚えのない紙を手に持っていることに気が付いた。

 折りたたまれたその紙にはさっきの女と思しき人物からの文が書かれている。


『滞りなく転移が成功したようで良かったです。この世界に明るくないあなたの為に基本的な情報を記しておこうと思います……』


 そこにはこの世界が魔法という技術に支えられる世界であるという事、魔法とは何でどのように使うものなのかという事などが事細かに解説されていた。だが……


「多くないか?」


 手に持っている紙はサイズにしてB5用紙程度であり、1枚しかない。明らかにこの紙に納まるはずのない情報がそこには書き記されていた。


「神様ってのは凄いな」


 異世界に送る力を持つ神様のことだ他にも理外のことを行えても何ら不思議じゃない。


「しかし、これはかなり凄い代物なんじゃないか?この世界のことやら魔法のことについて初心者の俺にもわかるように解説されてるし。えっと何?魔法とは体内に存在する魔力を使って様々なことを行う技術です。科学とは違う技術体系に属するため貴方のいた世界の考え方では説明のつかないことが多いですが、魔力をエネルギー、魔法を仕事と考えると分かり易いかもしれません。成る程な」


 ボソボソと声に出して文章を読む。魔法というものには興味がある。科学では出来ないことを人の身ひとつで巻き起こすなど前居た世界では考えられなかった事だ。


「俺でも使えるのか?そうだな……」


 軽く考え、掌に力を込め、唱える。


「火よ!」


 何も起きなかった。周囲には誰もいないはずだが、恥ずかしくなって辺りを見回す。勿論誰も見当たらないし、物音ひとつ聞こえない。もしかしたら神様には聞かれてしまっているかもしれないが、初心者のご愛嬌ということにしてもらおう。

 しかし、どうしたものか。煙の一つでも上げることが出来れば、誰かこの世界の住人が見つけてくれたかもしれなかったのだが、この様子では火の魔法を覚えるまでに日が暮れてしまいそうな気配がある。


「となると、やはり自分の足で人里を探すしかないのか」


 かといって辺りにあるのは緑ばかりであり、遠くに目を凝らしてみたとしても人影は見えなかった。

 もう勘で歩き出してしまおうかとも思ったその時だった。


「そうか、これか……」


 手に持った紙のことをすっかり忘れていた。正確には魔法のことが書いてある紙だと思っていた為、地図なんて乗っているわけがないと思い込んでいた。

 だがしかし、そもそも1枚の紙に乗るはずのない情報量を内包した紙だ、地図情報が載っていたって不思議じゃない。

 そう思いなおし、紙をよく見直してみることにした。

 まるでタブレットをスクロールするかのように情報を目で追っていく、魔法に関することがあり、この世界情勢に関することがあり、ようやく地図らしき情報に辿り着いた。

 どうやらこの世界は1つの大陸と、複数の島によって形成されているようで、俺は大陸の西側にいるようだった。

 ここから1番近い町の名前はシュルタット。今いる位置から東、ちょうど山脈の見える方向に進んだ位置にある。

 目印があるのは、わかりやすくて良い。そんな事を思いながら歩き出した。


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 どれほど歩いただろうか、景色が大きく変わったわけではないが、段々と木が増えてきた。日影ができて涼しくなってきたのは良いが、如何せん見通しが少し悪い。森というには木が少ないが、遠くの視界を遮るには十分すぎる量である。

 街道を発見していなければ、道に迷っていたかもしれない。

 今から5分ほど前、見晴らしのいい丘に登った時に偶然見つけることが出来たのだ。丁度東の方に向かって伸びている。この街道を見つけることが出来たことによって、シュルタットまで迷うことが無くなっただけでなく、地図に載っていない様な小さな村なんかを見つけることが出来るかもしないのだ。


 空の様子を見るに日が暮れるまではまだ時間がありそうだ。とはいっても徒歩で行ける場所には限界もある。人里は見つからなかったとしても、せめて今日の夜をやり過ごす手立てを考えなくてはならない。

 最悪街道のそばで野宿をしたっていいのだが、どんな危険が潜んでいるのかわかったものではないのだから、そんな危険は極力避けておきたいというのが本音だ。

 結局、より良い案を思いつくことが出来ないままひたすら前に足を進めているだけになっていた。歩きだした時のような決意や希望は少しずつ薄くなっていき、1歩歩みを進めるごとに取り返しのつかないことになっていっているような気がする。


 不安が限界に達するまでそう多くの時間はかからなかった。疲労も相まって、立ち止まってしまったらもう次の1歩を踏み出すことが出来ない。

 振り返ると途方もなく伸びる街道があり、進行方向にも同じような街道がある。

 長い間歩いた気でいたのに、太陽は未だ高い位置にあった。

 立ち止まったことに何か理由を付けたくてズボンのポケットからあの紙を取り出そうとした時だった。


 パァン


 と、何かがはじけるような音がして俺は気を失った。




誤字脱字などありましたら指摘のほどよろしくお願いします。

また、評価、コメントして頂けると次話を書く大きなモチベーションになりますよろしくお願いします。

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