読み合わせ
どうも皆様。逆さまの蝶です。
最初に台詞の一部を勝手に作ってしまったことをお詫びいたします。
後、台本の台詞のところだけを『』にしておきました。ご了承ください。
『ここは――どこかしら? 私昨日、自分の部屋のベッドで寝たはずなのに……』
手探りで電気のスイッチを探す素振りをする汀。彼女は既に役作りを始めているようである。
『ねえ! 誰かそこにいるの!? いるなら返事をして!』
夕輝は、普段のアルトとは違い、独特の雰囲気を持った可愛らしい女の子の声を使って台本を読む。
夕輝の普段は見れない一面を見て、皆が呆気に取られたような表情をした。
「ん? どうした? 何かおかしかったか?」
台本を見直して、首を傾げながら普段のアルトで皆に尋ねる夕輝。
『皆さん冷静に! その場を動かないでください! 下手に動くと危険です!』
その言葉を聞いて我に返った裕太が言葉を続けた。
ドS眼鏡男の耳慣れない敬語を聞いて、時雨はほぅっと感嘆の吐息を漏らす。
「裕太も今みたいに敬語を使っていれば、優等生に見えるのにな」
「そんなことは良いから、お前早く次の台詞言えよ!」
裕太は顔を茹蛸のように真っ赤にしながら、時雨に催促をした。彼自身も相当恥ずかしいと思っているようだ。
『つっても、真っ暗なんだし動いてみないと何も始まらないじゃん』
と言って時雨はゆっくりと辺りを見回す。周りには彼らが普段目にしているものしか置いていないと言うのに、彼の動作を見ると、本当に密閉された空間にいるのでは? と錯覚させられる。
『ですから! 動き回ると我々とはぐれてしまう可能性だって――!』
『硬いことを言うなって。俺達は何かしらの理由でここにいる……言うなれば運命共同体なんだからよ』
と言って時雨はイタズラっぽく二ィと笑う。どこか影のある彼の姿は、犯人としての貫禄を十分に見せ付けていた。
『……っと、何かスイッチみたいなのを発見したぞ! 見ろ! だから動いた方が良いって言ったんだ』
『待って! こんな訳の分からないところでスイッチを押すの!? 私達死んじゃったりしないわよね!?』
多少パニックになりながら話す夕輝。先ほどと同様にいつものアルトは封印されている。
『映画の見過ぎだって。ほれ……』
台本通りにスイッチを入れる動作をする時雨。
汀、裕太、夕輝が自分の右手で顔を覆った後にうっすらと目を細める。
『電気をつけたのにそんなに明るくならねえな。電気が切れ掛かってるみたいだ』
『やっぱりここ……私の部屋じゃないんだ……』
汀は少しだけ疲れきったように言った。自分の家じゃないと頭が納得していても、自分の感情が納得していなかったと言う状況をうまく表現できている。
『ここどこなの! 今すぐ私をおうちに帰して!』
夕輝がパニックになりながら、今にも泣き出しそうな声で言う。
『落ち着いてください。取りあえず皆さん冷静になりましょう。昨日のことを思い出せば、何か分かるかもしれません』
『昨日のことって――。確か……私はいつも通りコンビ二でバイトを終えた後に……うちに帰る途中で記憶がなくなってるんだけど――』
夕輝は自分の髪をとかすしぐさをしながら、記憶を辿るように話す。その姿は非常に艶っぽく、彼女を見慣れていない男子がいれば、間違いなく見惚れてしまうほどの美しさを放っていた。
『なるほど。つまりその間に誰かに襲われた可能性が高いということですね。実は私も仕事を終えて家に帰る途中で記憶がなくなっていましてね。貴方達もそんな感じでしょうか?』
裕太は台本から目を離し、汀と時雨に顔を向けた。
『ええ。まぁ』
顔を下に向けて、歯切れが悪い答え方をする汀。
『確かにそんな感じだった気がするな』
時雨は視線を右上に向けて、腕を組みながら答える。
『どうやら私達を襲ったのは同一犯のようですね。犯行の手口も似ていますし――』
『そんな……! 私に何の恨みがあってこんなことするのよ!?』
『前世の恨みとかだったりしてな! こ、この恨み……晴らさでおくべきか……とか。はははは!』
『ふざけないで! 何でこんな状況でそんな能天気でいられるのよ! 信じられない!』
そんな彼らを尻目に、汀は一人で部屋の中を歩き周り始めた。
『おかしいわ。本当に犯人がいるとしたら、襲った私達だけをここに残して姿を現さないなんて絶対におかしい。一体どうなってるの……?』
そうぶつぶつ呟きながら、歩き回る素振りを見せると、ふと足を止めた。
ある一点を凝視したかと思うと、見る見る彼女の顔が驚愕の表情へと変化していく。
『きゃああああああああああ!』
汀の澄んだソプラノによる悲鳴。
言い争いをしていた裕太、時雨、夕輝が一斉に汀の方へと顔を向ける。
「うるさい!」
彼らが顔を向けると同時に、誰かが勢いよく演劇部の部室のドアを開けた。
何事かと演劇部のメンバー全員が、今度は開いたドアの方へと体を向けた。
演劇部の部室に勢いよく入ってきたのは、科学部の部長。演劇部の部室の隣には、科学部の部室があったのだ。
「君達うるさすぎ! もっと声のボリュームを下げて欲しい! でないと気が散って試験管もろくに扱えない! 少しは周りのことも考えてくれ!」
彼は一方的に演劇部の部員達をしかりつけると、部室のドアを閉めて静かに立ち去って行った。
「あ~あ。良いところだったのに興が醒めちまったな」
科学部の部長が立ち去った後に残念そうにぼやく時雨。
「でも私達、結構うまくできてたよね?」
汀は先ほどとは打って変わって、小さな声で皆に確認をする。
「そうそう。中でも夕輝が……」
あははははと腹を抱えて笑い出す裕太に、先ほどと同じように夕輝の飛び蹴りが直撃する。
「まぁ。あのバカは放っておいて、このまま続きをやろうか。ただし、科学部の連中の邪魔にならない程度の声を出しつつな」
床に倒れている裕太を完全に無視して、夕輝は汀と時雨に指示を出した。
「分かった。それじゃあ、さっきの続きから行こう!」
汀と夕輝と時雨は再び台本の方へと顔を向けた。
ご読了ありがとうございました。
次は、BJ様が書かれます。