宿題
どうも皆様方。逆さまの蝶です。
私も短くなってしまいました。ご了承ください。
「――さて。問題は誰が影の宿題をやるかと言うことだが……」
夕輝がそう言って部員のメンバーを一瞥した。部員達は全員、夕輝から視線をそらすようにしている。
「誰か率先してやろうと思う奴はいないか?」
夕輝は綺麗なアルトの声を使って部員達に呼びかけるが、誰も手を挙げようとはしない。彼女自身も内心では手を挙げる部員はいないだろうと思っていた。
何しろここの面子の半分は補習送りになった連中である。影を除外すると、時雨と彼女以外補習にならなかったメンバーはいないのだ。
汀、裕太、恵介の三人は自分達のことだけで手一杯に違いない。
自分を犠牲にして時雨の宿題をするのであればできなくはないだろうが、彼らはキリストではないのでそんなことはしないだろう。
となると、この宿題は彼女と時雨で分担してやるしかないと言うことになるが……。
「はい」
半ば諦めていた夕輝の耳に、ソプラノの声が聞こえてきた。
なんと、汀が一人だけ手を挙げていたのだ。
「マジかよ! できんのか汀!?」
今まで黙っていた裕太が目を丸くして言った。
それはそうだろう。一緒に補習から帰還した戦友が、今度は宿題をしなくてはならなくなるかもしれないのだから。
「早まるな汀! お前の頭じゃ無理だ!」
このままでは無駄死にするだけだと裕太は止めるが、汀は首を横に振った。
「聞いて裕太。私、どうしてもこの演劇を成功させたいの。これは私の我侭のようなものなの。だから私はこれ以 上皆に迷惑をかける訳にはいかない」
汀のその言葉を聞くと夕輝は頬を綻ばせた。それと彼女の格好とが相まって、彼女からコケティッシュさが醸し出される。しかし、もったいないことに、部員達はその光景に目を向けることはない。
「よし分かった。俺と時雨と汀で影の宿題をすることにする」
時雨の了解も取らないまま、夕輝が勝手に決めてしまった。
「ちょっと待ってくれ夕輝! 俺は影の宿題を手伝うなんて一言も言っていないぞ!」
さすがに時雨もそれには驚き、慌てて夕輝に訂正するよう呼びかける。
それを聞いた夕輝は、眉間に皴を作って少し不快そうな顔をした。
「あぁ? 時雨、お前部長命令が聞けないのか?」
顔にあまり出ていなかっただけで、相当不快だったらしい。
「……はい。喜んでやらせていただきます」
夕輝の一言に、時雨はあっけなく折れた。
いつもの彼なら「こんな時だけ部長命令かよ!」と言っていたことだろう。
しかし、夕輝の持っているアルトをこう言う場面で使うと、彼女の恐ろしさが倍になるため非常に断りづらくなるのだ。
「それじゃあ影。お前の宿題は俺達がやるから、必ず明日までに台本を完成してきてくれよ」
「はい。任せてください」
夕輝の言葉に影は胸を張って返した。
こうして、演劇祭に向けての彼らの活動が本格的に動き出したのである。
次はBJ様が書かれます。