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1、私が、自分を嫌いになった理由(わけ) ①「お前の母親は行き遅れ、お前は要らん子、お前は誰にも愛されてなんかいないんだ」

始まりは、私が三歳くらいの頃だったと思います。姉と私は12歳放れていて、まだこの頃は姉が一緒に住んでいましたから、姉は中学生だったと思います。

姉の自慢は・・・自分しか知らないお婆ちゃんの話で、特に夏になると裏庭の縁台に座らされて真ん中に挟まれた状態で、嫌というほど聞かされました。思えば姉は、私が泣きべそかく顔を見て楽しんでいたように感じます。

【こんな話がずっと、小学生になってもまだ繰り返し続いたので、今でも頭の中に言われた言葉がこびりついています。『ああ、これが洗脳という奴なんだなぁ』と、今だからわかりますが】


もの心ついた頃から、父が残したアルバムを見せられては、伯母と従姉(あね)から、ずっとこんなことを言われていました。


伯母「これがお前の父親だぞ。お前の父親は、そりゃぁ男前だったでー、あんだけの色男だで、女がほっとく訳ないわなー。これはアキラ、お前の親父の連れ子だわー お前の腹違いの兄ちゃんだ。 アキラは可愛そうな子でな、母親がオヤジの弟と良い仲になって捨てられたんだと。ほんだで、私が引き取って面倒を診たったんだわ。仕事でらん時は、ヒロミが弟のように可愛がって世話しとったで、本当の姉弟みたいに仲が良かったのに、なぁ」


従姉「うん、アキラはお姉ちゃん、お姉ちゃんって甘えん坊だったもん、ねえ、お母さん?」


私『お、とうさん? お、にい、ちゃん? ・・・ 』

伯母「お前のオヤジが連れて出てったで、もうおらんの! 誰もお前の事なんか、気にしとらんわー お前は置いてかれたの!」

『・・・・・・(ションボリ)』


伯母「お前の母親はなー、30を過ぎても嫁にも行けんような行き遅れだで、しょうがないから私がオヤジと結婚させたったんだわ。お前のオヤジが、学会のカメラマンをしとったで、私が声をかけたったの。『こんな小さな子供を男のあんた一人で育てるのは無理だろう? 私が面倒を診たるで、うちに来やあ。あんたは二回目で、妹は行き遅れだけど初めてだで、文句ないだろう?』って、お前のオヤジと母親の仲を取り持ったったんだわ。

 お前の母親は一人で何にもできん役立たずだで、私が居らんかったらお前は生まれて来んかったんだぞ!」


従姉「そうだよ、あんたはお母さんのお陰で大きくなったんだからね」


伯母「いいか、お前は私のお陰でここに置いて貰っとるんだから、一生をかけて母親の分まで私に恩返するんだぞ。お前の母親は、私に迷惑ばっかりかけたんだで、お前が母親の代わりに私に恩返しする責任があるんだ、わかったか!」


従姉「そうだよ。 あんたは私のお母さんのお陰で置いて貰っとるんだで、ちゃんとお母さんのいう事を聞きなさいよ! 」

私『・・・・・・(ちょっとむくれる』


伯母「わかったか、私が居らん(おらん)かったら、お前は施設行きだったんだで! 私が引き取ってお前を育ててやったんだから感謝しろよ。赤ん坊の頃なんか、私が噛んで食べさせたんだからな」


【うそ、マジ? あんな汚こい歯で噛んだものを・・・あたしに食べさせたの? うぇーきもちわるー・・・ と、思ってしまいます。

伯母の歯は、全体的に虫歯で・・・前歯は全部折れて根本が真っ黒でした。まさに虫歯菌の塊です。「だから私は小さい頃からあんなに虫歯が酷かったんだ」と、大人になって思いました】


私『なんで、おかあさん・・・ どこ? 』


伯母「お前の母親は、お前が三歳の時に入院したで居らんの。お前の母親のお腹に弟が居って、母親は妊娠中毒症で早産して死ぬところだったんだぞ。そん時の輸血の針の使い回しで、お前の母親は肝臓病になって入院しとる」


私『・・・ おとうと?』


伯母「お前の弟は、一週間で死んだ。でもな、うちには金がないから助産院に頼んで死産にして貰ったんだ」

『・・・ しさんって、なーにー? 』

「まあー ほんとに、やかましー子だなー、 黙って話を聞いとりゃぁ良いんだわーー」

『だ・・ってぇー ・・・ お、かあさん・・・は? 』

「お前の母親は、今も病院に居る(おる)の!」

『お、とうさん・・・は?』

「お前のオヤジは、お前が赤ん坊の頃に女を作って出てったの。他の女のとこに行ってからも、私に金の無心ばかりしに来たクズなんだーー! そん時に出来たのがお前の弟。お前は、あの男みたいなクズにはなるんじゃないぞ、いいなー!」

「・・・・・・」


「そういやあ、ヒロミは、お婆さんに可愛がって貰ったもんなー」

「うん、お婆ちゃん大好き! お婆ちゃんのイチジク凄く美味しいよね、お母さん。どこにも売ってないよね。あんなに甘くて美味しいイチジクはないよね。結婚したら家を建ててお婆ちゃんのイチジクを植えるんだから、絶対に大事に残しておいてね、切っちゃだめだよ、お母さん」

「ほんと、お前はお婆ちゃん子だったもんなぁ。婆ちゃんもお前が可愛くしょうがないから『来年はヒロミが小学校に上がるから、婆ちゃんも年金がもらえるようになるし、年金でランドセルを買ってやろうね』って、喜んどったけど、貰える前に死んだから寂しいなーヒロミ・・・」

「うん・・・ お母さん(甘えて肩によりかかりながら、横目で私を見て舌を出す)・・・」


『おばあちゃん?・・・』

「そう、私のお婆ちゃんだよ」

『おねえちゃんの・・・おばあちゃん?』

「私とお前の母親のおっかさんだわ。お前が生まれる前に死んだで、もう居らんの! 」

「ねえねえ、お母さんわたし、お婆ちゃんに良くおんぶして貰ったよねー、お婆ちゃんにおんぶして貰って公園に言ったよねー 」

「そうだよ、ヒロミが寝るまでお婆さんがおんぶして、毎日、公園を歩いたんだよ。お前はお婆さん子だったからなぁ、婆さんもヒロミが可愛くてしょうがなかったからな」

(あたし・・・おじいちゃんも、おばあちゃんも・・・しらない・・・)


「お前の母親は、小学校もまともに行っとらんで、読み書きもできんどうしようもない女だ、私は高等尋常小学校を出とるで、お前の母親とは違うんだぞー。お爺さんが人力車をやっとって、私は人力車で学校に送り迎えをして貰っとったで。いっつも綺麗な着物と袴を着て行くもんだから、友達みんなが羨ましがって毎日うちの前に集まって来とったわー。お前の母親は、私のことを妬んどったんだにぃ。二階の窓から覗いてはふくれっ面しとったで。だで、私にわざと迷惑ばっかしかけるんだわさー。本当にお前の母親はどうしようもない女だ、お前は母親のようになるんじゃないぞ!」

『・・・・・ 』

『おとうさんの、おじいちゃんと・・・おばあちゃんは? ・・・あたしのこと、知ってる?』

「お前の親父の爺さん婆さんは、お前のことなんか要らんって言っとるわー、お前を孫だとも思っとらんし可愛いだなんて思っとらんわー。お前は誰にも必要とされとらんのー、お前の味方は私だけだわー 覚えとけー!」

(そっか、あたしは・・・いらん子なんだ・・・ みんな、あたしなんか、きらいなんだ・・・)

「う・・・ ヒック・・・ ヒック・・・ (目を潤ませて唇を噛む) 」


「まあー、本と!に、やっかましい子だな! 黙れーー お前は口から生まれて来たんか! (バシン、バシン、バシーン!)・・・」

『いたい!  やめて・・・やめてー・・・ (頭を抱えて、うずくまる) 』

「やっかましいわー まっと静かにしとれんのか! まあ一回、叩かれたいんかー(手を振り上げる)・・・」


「お母さん・・・もう、やめたりゃぁ、可哀そうだがねぇ・・・」


『・・・お・・・お、ねえ、ちゃん(声にならない声で涙をこらえながら)』

「いい? すず。なんで叩かれたかわかる? お前がいかんのだよ。お前は私のお母さんのお陰でここに置いて貰っとるんだから、ちゃんとお母さんのいう事を聞かないかんっていったよね? ちゃんという事を聞いて、お母さんの言う通りにするんだよ、わかったね」

『・・・ ヒック・・・ヒック、ヒック・・・ (コクリとうなずく)・・・』


それからどれくらい経ったのか? わかりませんが、気づいたら姉は居なくて伯母と二人だけの生活になっていました。

それからは、忘れた頃に姉がやってきて、仲良し親子を私に見せびらかしたり、自分の好きな事や私の知らない外の世界の話を自慢していました。私とは違い姉はとても自由で、伯母も姉のいう事には反論もせず、姉が来ることを楽しみにしていました。

姉が来る日は朝から伯母が「今日はお姉ちゃんが来るから、お姉ちゃんの好きなものを作るんだ」と言って、とても上機嫌だったことを覚えています。


【余談ですが、人はどうして、弱い立場の人間をあざ笑ったりするんでしょうか・・・ 『小さな子供を傷つけて何が楽しいんだ!』と、私は無性に腹がってしょうがないです。


 もしも姉が今も生きていたら・・・ 『いい加減にしろよーくそが! いい歳の大人がこんな事して恥ずかしくないんかー、まだやる気かー!!』と、怒鳴り飛ばしてやりたいです(笑)

 

少し前のことですが、寂しそうに立ちすくんでいる小さい頃の自分の後姿が夢に出て来て、その後ろに今の自分が立って見ているんです・・・ 

『私が傍にいたら、絶対あんな目に遭わせないのに!』と、毎朝のように、自分が怒っている声で目が覚めたことがありました】


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