9、ご縁がもたらした切ない事実【母との貴重な思い出】は、摩り替えられた記憶だった?
2019年7月のことでした。
ふと記憶が戻り、保育園時代のことを思い出した私は、思い切って電話をしました。
昔のメモ帳を引っ張り出して、息子の当時の担任の先生を辿り、とし子先生に連絡が取れたのです。
先生がいうには
「お母さんは、伯母さんに着いて保育園に来ていたわよ。いつも、あなたの頭を撫でて愛おしそうにしていたから、
【お母さんは本当にこの子を愛しているんだなぁ】と、思って見ていたのをよく覚えているわ」
「でもね、体が弱そうというか、大人しい感じの人で、いつも黙ってうつむいて伯母さんの隣に居たわ・・・」
私にはそんな記憶は全くありません。
いつも暗くなってから、伯母の後ろを必死に歩いて家に帰った記憶しかないんです。
けど、【一瞬でも、そんな母が居たんだなぁ】と、思うと涙が止まりませんでした。
そして先生は、こんな話もしてくれました。
「あなたの名前は、本当にきれいで美しい。
こんな素敵な名前を、お母さんはどうやって付けたんだろう。
きっと、お母さんが愛情いっぱいで付けた名前なんだろうなと、思っていたのよ」と。
【実際は、誰が私の名前を付けたのか? どういう経緯なのか? も、わかりません。ただ、先生にこの話をされた時、嫌な事が走馬灯のように頭の中を駆け巡り、私は嫌な気持ちになりました】
私の過去を初めて聞いた先生は
「よくここまで頑張って来られたね。 私よりも、凄いじゃない!
本当に頑張ってきたのね、
過去は苦しかったかもしれないけど、良く生きていてくれたね、嬉しいよ、ありがとう」と言ってくれました。
【こんな私でも、生きている事を喜んでくれる人がいたんだ】と、初めて思いました。
「過去を過去にして、まだ これからできる事があるよ、自分の事だけを考えて幸せに生きていなきゃ駄目よ、
自分が幸せでないと人を幸せになんてできないからね。
お母さんがいたから、あなたがいる。愛されていたのだから喜ばないとね」と、先生に言われました。
なんとなく、「今しかない」そんな気がして、ずっと引っ掛かっていたもうひとつの事を聞いてみることにしました。
「わたし、お母さんと一緒に遠足に行ったと聞かされていたんです、でも、その記憶がなくて・・・
母の部屋の棚の上に、買って貰ったというオモチャだけがずっと開けずに置いてあって、
母が亡くなった後に見つけて不思議に思っていて、でも、誰にも聞けなくて・・・ 母は、何も語らずに死んでしまったから・・・」
先生はすぐさま、こう言いました。
「よく覚えているよ、だって、あんなことは滅多にないことだから、印象に残っていてね・・・
あの日、お母さんは来ると言っていたけど、来なかったから、私があなたの手を引いてずっと最後まで付き添ったのよ。
遠足が終わって、電車を降りて駅でお母さんが来るのをずっと二人で待っていたんだけど、お母さんは来なくてね。
夕方の五時を過ぎても来なくてね・・・
暗くなった頃に、お母さんが、何があったのか? わからないけど、息を『ハーハー』と切らせて、ふらふらになって迎えに来てね・・・
だから、忘れられなくて今でもはっきりと覚えているのよ」
「やっぱり、そうだったんですね! わたし・・・ お母さんと遠足には行ってなかったんだ。
動物園に行った記憶はあるんですが、お母さんと一緒に歩いた記憶がどうしてもなくて・・・
やっぱり、嘘だったんだ!
おかしいなーと思っていたんです。
あのオモチャも動物園で買ったものじゃなかったんだ。
きっと、近所の駄菓子屋で姉さんか誰かが買って、母の部屋に置いたに違いない。
300円と書いたラベルもきれいなまま貼られていて、中学生になってもまだ、新品同様だったから変だなと、思っていたんですよ・・・ なんかスッキリしました」
あまりにも想像していた通りの答えが返って来て、納得してしまった自分がいました。
今まで、一度も、母を恨んだりしたことはありませんが、どうしてか? 記憶が戻ってくるようになってからは、切なくて仕方がありません。
「どうしてもっと、私のことを見てくれなかったの!」みたいな、押し込めていた小さい頃の自分の感情が、ふと顔を出すのです。
【とし子先生とは、不思議に縁があって、長男の保育園を探している時にもばったりと再会していました。
先生は全然、変わってなくて、横顔を見た瞬間にわかりました。
「とし子先生じゃない? 直ぐにわかったよ! 先生が居るなら、私、ここの保育園に決める 他もあたろうと思ってたんだけど、辞めます(笑)」
「あああ、私も直ぐにわかったよ! あなたこそ、ぜんぜん変わってないわよ(笑)」と、あの時の懐かしい気持ちを思い出します。
この時、電話で聞いた話では、
「あの時は偶然、園長先生に用があって行っただけなのよ。
まさか、あなたが子供を連れて来るなんてねぇ、驚いたけど嬉しかったよ。
私は、あれからずっと市の幼稚園に居たのよ。
あの保育園には、半年も居なかったからね・・・
園長先生は、あの頃の先生だよ」
【ああ、覚えてます! 園長先生もすぐにわかりました】と、瞬間的にも記憶が出てきました。
とても不思議ですが、かなり縁があったんだなぁと思います】




