王立魔法学園 中編
自死を連想させる文が有ります。ご注意下さい。
私の他に呼ばれたのは、ミナ・レイトン子爵令嬢、ゲイル・サルシェード伯爵令息だ。サルシェード伯爵家は、代々王室に忠誠を誓ってきた由緒ある家だ。が、もう一方のレイトン家、アレは私が知る限り、今王国に存在しないはずの一族だ。
名前を聞いて少し予想はしていたが、やはり私の知るレイトン家の特徴と合致する部分が多い。
レイトン家は大昔、私がまだ大聖女だった頃に魔王に取り入り、王国を堕とそうと目論んだ。其の為、とっくの昔に一族郎党極刑に処されたとばかり思っていた。だから、こんな公に生き残っている事に驚きだった。
魔王により、其の魔力を大幅に増やし、魔力を抑え込んでいる状態の私と同じくらいの魔力が溢れていた。魔王による家臣への褒美は、魔王,又は対象の家臣の一族全員が死なない限り半永久的に発揮し続ける。
この国では、魔王は不老不死だと言い伝えられているが、彼は不老ではあるが不死ではない。其の為、殺す事も...可能な筈なんだ。だが、今迄誰も魔王を倒す所か傷1つ付けられた事が無いのが現状だ。
私も、彼に捕らえられた時、何度か殺そうと襲い掛かったことがある。まだ、私の力の殆どを奪われる前の話だが。
当然、全て失敗に終わり、私の監視はより一層厳しくなってしまったのがオチだ。どれくらいあの城に囚われていたのかは忘れてしまったが、特に情が芽生えるような事は無かった。
私が彼の殺害に挑戦した回数は全部で9回。そして、全て失敗に終わった。9回目の失敗を迎えた時、彼は何時見ても彼の横に居た秘書みたいな人物に「×××、例の魔導書を持って来い」と言った。
鮮血の様な真紅の革表紙に、深淵の如く全てを飲み込む純黒の紙。私の知らない、古の時代よりもずっと前の言葉で綴られた文字は、嘗て私が、「絶対に使われてはいけない魔導書」として教わった物だった。
私の行使する力は、魔力と聖力の2つ。片方でも半分残っていれば、躰に異常は現れない。だが、彼は「どちらも」私の中から殆どを奪っていった。
魔術師や神官は、力を使い過ぎると魔力切れ,聖力切れを起こす。其れは、喘息とよく似た症状で、自身の魔力,聖力の半分が無い状態の事を指す。其れに比べ、私に使われた魔導書は対象の力の9割を吸い取り、マナ(全ての力の源)に戻し、還元する、太古の時代に拷問又処刑用として使われた物だ。
通常の魔力切れとは比にならない程の痛みと苦しみを伴う大量の魔力の瞬間的な消失は、4割程の確率で死亡者が出る。マナの体内での循環が途絶え、呼吸が出来なくなるのは勿論の事、失った力の回復に体中の力が注がれ、熱病と同じ様な症状が現れる。
私の場合、持ち合わせる魔力,聖力が膨大だった為、回復までに2カ月以上を要した。その間、ベッドから一歩どころか寝返りすら打てない状態になる。当然起き上がれず、食事も摂れない。
さっさと殺せば良いものを、彼は毎度の如く世話を焼き、回復する度に魔導書を使った。
囚われた時から付けられている魔力封じの腕輪に聖力封じの首輪は、私を只の人間以上に弱らせた。基礎体力、筋力の無い私では、通常の状態では彼に太刀打ち出来ず死んでしまうだけだ。
壊そうにも外そうにも見つかり、逃げようにも鎖のせいで窓迄辿り着けない。守衛からカギを奪っても何故か窓の先には魔王が居る。
こんな事が延々と続き、何時の日か、反抗することに疲れた。何も出来ない齢15の少女は、其処で初めて、自死を思い立った。首輪に繋がる鎖を首に巻き、ベッドの袖で寝そべる。括り付けられた鎖は、私の首を絞めた。
こんな事をして初めて、私は普通の人間になった気がした。
____レイトン家の事を思い出しただけで芋づる方式で嫌な事を思い出してしまった。
冷や汗を流しながら、少し、懐かしく、哀しい気持ちになった。