プロローグ 後編
メイドを1人連れ、学園へ行く。
予備室と書かれた可動式の机や椅子が除けられた部屋に、数人の新入生と思しき人達が居た。
数人の仕立て屋が部屋に入ってくると、彼女らは、持ってきた仕切りで部屋を4つに区切り、1度に3人の採寸が出来るようにした。
順番に呼ばれ、身長、肩幅、胸寸、諸々測り、記録した紙を渡され試着室へ案内された。
其処では、制服や運動着2種、靴や必要な人は手袋の丈を確かめ、スペア含め1種数枚ずつを購入した。ネグリジュや下着は、既存の物を持って来て、半年に1度の仕立て屋が来る時に買うなら買えとのことだ。
国の運営する王立学園という事もあり、制服の生地は全て1級品だった。艶やかなシルクで作られた、刺繍が細やかな白いシャツ。サーブルという色の生地に、ヴィウーというピンクの細いラインが2本入っている。学年によって色が違うらしく、次の2年生はゴードという薄緑のラインが、3年生はオリゾンという淡く薄い青のラインが、4年生はグリ ペペルという淡いシルバーラインが、5年生はシャルトルーズという淡いゴールドラインが入っている。
毎年ラインの色が変わる為、毎年スカートとジャケットだけでも買い替える。良い生地を使っているから、値段もそれなり、毎年買い替えはキツい家もあるだろう。
シャツの上から着用するベストは、大きなV字を腰の辺りで留める形になっている。無地でサーブル色のベストだ。
燕尾服の様に、将又ドレスの様に丈の長いジャケット。女生徒のジャケットは、シャツとベストの上から羽織る物で、緩いフリルが方の半分で切られた袖から顔を出していた。ウエストを締めるリボンベルトの端が、ヒラヒラと優雅に舞う。
運動着は、乗馬用とフェンシング用の2種類を買う。試着をし、サイズを合わせる。通気性も良過ぎず、でも蒸れない、いい生地だ。
靴も、通常時用と運動用の3種を買う。通常時用は6cmのヒールで、やや太めだが、姿勢を意識するとコツコツと音がする。乗馬用の靴は、マロン色の革のブーツ。高級品の本革で、編み込み型とゴムで伸びる、留め具の無い型があった。之は個人の趣味なので、編み込み型にした。
フェンシング用はご存知の通り、他の型は無い。
購入自体自由な手袋は、制服と同じサーブル。生地は、レースか薄革の2種。私はレースだ。一応セミロング丈も買っておいた。
職人の手で編まれたレースは、形の歪む事が無く、全くの素人である私や、趣味で編んでいる母や伯母様、メイドたちよりももっと綺麗だった。
購入品を手に、馬車に乗り、其の儘宝石店へ向かった。
最近、お気に入りだった大きな一粒パールのピアスが壊れてしまい、パールが欠けて直せなくなってしまった。だから、代わりの物を買いに来たのだ。
半刻程悩んだ結果私が選んだのは、アレキサンドライトのピアスだ。宝石店曰く、意味は「高貴」「安らぎ」「情熱」「秘めた思い」らしい。
紫と深緑に輝く光に目を奪われた。日常使い用だから、サイズは余り大きくなく、細工はシンプル且つ繊細なモノを依頼した。この店は、貴族の運営ではないから、余り知られていないが、細工が綺麗でとても気に入っている。
泪の様な、花の様な細工を、たったの1週間で仕上げてしまった。
丁度入寮の2日前に手紙が届き、直ぐ様取りに行った。
依頼通り、傷も無い。とても良い仕事をするとは思わないだろうか。王室御用達でも良いと思う程だ。
提示価格より少し上乗せした金額を渡し、帰ってきた。
いよいよ明後日は入寮日だ。そろそろメイドに準備を始めさせよう。