プロローグ 前編
入学試験当日、初めて足を踏み入れた。試験で学園に足を踏み入れる者が殆どだが、足を踏み入れる前に、門番に受験生という証明をする為、年齢確認の身分証と、受験票を提出する。
此処で難点なのは、私が早生まれという事だ。
この世界には14の月があり、1から14の周期が1年だ。春の始まりと共に全ての仕事が始まり、冬が終わる頃に仕事が終わる。これを人々は、「年度」と呼ぶ。1学年は4の月に生まれた人から、次の年の3の月に生まれた人で構成されている。
そして、1の月から3の月に生まれた人の事を早生まれと言う。そして、私の誕生日は3月16日だ。受験の規定は“13歳”。これは、この年度に13歳になった者、又なる者に適用される。私は身分証を提出する時、文章の理解能力があるのか疑わしい門番に「君まだ12歳じゃん。来年また来な。」と言われないかが唯一の怪訝点だ。
今回の門番は文章の理解能力がある人間だった。
◆◇◆
受験会場に入り、指定された席に座る。当たり前だが、見覚えのない人ばかりだ。部屋中の人が騒ぎだし、ふと入り口に目を向けた。
入り口には、王太子殿下とその護衛(仮)の子供がいた。少し前、抑えきれない殺気を向けた相手が、目は合わないが、目線の先にいる。
彼の目が動いた気がして、咄嗟に顔を前へ戻した。カチカチと2人分の歩く音が聞こえる。静まり返った部屋の中、2人の靴の音だけが聞こえる。
嗚呼、何か、嫌なものが近づいてくる。馴染のある気配に憎悪と、哀しみが沸き上がる。何故か、哀しみが、感じる筈の無い、あの人の気配を、犇々と感じる。
頭を上げる勇気が湧かない。横にはきっと、憎くて憎くて仕様がない、彼等がいるんだ。護衛(仮)の方から伝わってくる気配は、とても尖っていて、けれど私の殺意とは違った、只の警戒心だ。
「やぁ、久しぶり、シエル公爵令嬢。」微笑む口元とは対照的に目の奥は、私を見定めるている様だった。
「お久しぶりでございます、王太子殿下。」軽くお辞儀をする。
「殿下、そろそろ試験のお時間です。お席へ。」殿下の連れが言った。そうか、もう始まるのか。
彼等が席から去り、数分後に担当教師が入室し、試験が始まった。
◆◇◆
「はい、試験終了です。手からペンを離しなさい。」教師の合図で試験が終わった。
一応問題は全部解いたし、分からなくてテキトーに書いた箇所は無い。
次は実技試験だ。実技では、剣部門と弓部門で分かれて試験が行われた。令嬢の大半が弓に来ると思っていたが、案外剣部門で試験を受ける令嬢も多いようで...というか抑々(そもそも)弓自体に人気が無いのか弓部門を受ける人自体が受験生の3分の1にも満たない程だった。
試験では、35m先の的を学園側から支給された弓を使って撃つという単純なものだった。
人が少ないお陰で試験はトントン拍子で進み、剣部門がまだ3分の2しか試験が済んでいない中、弓部門の受験者は帰っていった。
後日、学園側から少し大きい封筒が届いた。早速開封すると、中には『シエル・フォン・ハーチェス様、此度の試験に於きまして、筆記、実技共に満点という見事な成績を残された事、此方の書面にてご報告させて頂きます。つきましては、入学式の際の代表挨拶をお願いしたく存じます。』という書類が、入学資料と共に同封されていた。まず間違いなく入学だろう。飛び跳ねて喜びたい気持ちを抑え、専属メイドのルナに伝えた。
ルナも一緒に喜んでくれて、これで私の復讐の為の第一歩は踏み出せた。大変喜ばしい事だ。だが、入学生代表挨拶をすることは想定外だった。余り目立ちたくないんだけれど...
代表挨拶の文を考えてるうちに、何時の間にか入学式の7日前になっていた。
今日は、学園に制服を作りに行く。国内有数の魔法学園の制服は、何処も洗礼されたデザインで綺麗だと有名だ。楽しみだ。