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昔の記憶 後編

 盛大に舌打ちをしたから怒られるかと思っていたが、両親は何も言わずに応接間を出て行った。

 もっと怒った方がいいのでは?なんて言うと怒られるから言わないけど、多分貴族としての反応としては間違ったものだろう。あれがあの2人の本性と言える姿なら、多分私が何をしても気にしないだろう。私の記憶上、あれは然程さほど私に興味がない。流石に片腕失って帰ってくれば其れは心配するかもしれないが、私の行動ひとつひとつに反応する程の関心は無い...と思う。

 多分書庫に籠っているのは勉強をする為だと思っているに違いない。そうなると、学年四席(しせき)程度は取れると思っているのだろう。

 まぁ...両親が私にどんな期待を抱いていたとしても、記憶を取り戻す前とすることは特に変わりは無い。変わったことと言えば、魔法を早期習得する必要性が出来たことだ。

 昔の記憶が流れ込んできたのと同時に、当時の身を焼きそうな程の復讐ふくしゅう心もよみがえってきた。国王陛下と王太子殿下を見て、自分の中から憎悪ぞうおが出ていないか、殺意が滲み出ていないか心配になってしまう程だ。精神コントロールなんてしたことないし、全てが顔や態度に容易に出てしまうだろう。国王陛下に至っては、恐らく殺意を向けられることに慣れているだろうから、もしかすると気付いているかも......捕まらなければどうでもいいけど。



 私が、ひたすらに魔法を練習している理由、それは...魔法の習得には、兎に角時間がかかるから。初級魔法ならレベルを1、2段階飛ばそうと超初心者でなければ大した問題は無い。けれど、中級からは、暴走してしまう可能性が()()()高くなる。だから、レベルを飛ばして習得することが出来ない。

 そしてもう一つ。これは私の個人的な事情だが、私はまだ12歳でデビュタントを迎えていないから、特に交友関係がなくすることが無い。要するにとんでもなく暇なのだ。書庫にある本は片っ端から読み漁っており、今は2周目、もしかすると3周目になる。自分の記憶力には自信があるし、読んだ本を暗唱することだってできる。もうあとやってない事なんて魔法位なのだ。時間と労力の大量消費する事なんて暇つぶしには打って付けだ。

...という訳だ。って誰への説明だろうか...?



 国王陛下の突然の訪問から約2ヶ月後、王妃殿下の御出身家門であり私の母の出身家門でもあるサナティオ侯爵家より、夫人のサロンへの招待状を頂いた。正確には母に届いたものだが、母は侯爵夫人を勝手に嫌っており、稀に参加する舞踏会くらいでしか顔を合わせていない。当の夫人は私から見ればの話だが、ふんわりとした優しい雰囲気を持つとてもお優しい叔母様だ。私は結構夫人の事を気に入っている。話が逸れたが、招待状には「是非ご一緒に」と私の分の招待状も同封されており、母は其の招待状を逆手に、私だけをサロンに行かせようとしていた。私は元来母のついでの様な物の筈なのに...

 談話室で母と行くか行かないかの攻防こうぼうを延々(えんえん)と続け、父が仲介に入りようやく収まった。其の収まり先は、「母と私二人での参加。」となった。私の勝利だ。


 当日は、母も私も目立つことを避ける為、シンプルなデザインのドレスを着て、派手めの装飾品を付けずにサロンへ参加した。

 叔母様は相変わらず若くお綺麗で、ほぼ同い年である私の母とは大違いだ。まだ齢30を超えたばかりの2人は、周りから見れば35は超えてるであろうおばさんと20前半の新妻に見える。どんな事をすれば此処迄差が生まれるのか不思議だ。本当に不思議でしょうがない。だが、どんな理由があろうとも私は母の様な老け顔にはなりたくないので、叔母様に美肌のコツ等々をしっかりサーチしている。どんな努力も怠るべからず。多分いつかは効果でる...かも


 サロン中、母はずっとお茶を飲み、ただ会話を聞いているだけで殆ど話すことは無かった。その代わりに私は、叔母様や、他の夫人方と沢山おしゃべりをし、結構楽しいサロンだったかもしれない。帰り際、母が不機嫌ながらに叔母様にこまやかな刺繍ししゅうほどこされたレースのハンカチをプレゼントした時は、やはり大切な弟の愛する人は大切な人なのだろうと思った。私の母は案外恥ずかしがりやなだけなのかもしれない。



__________________



 叔母様のサロンから更に3ヶ月。領地は早くも雪景色に包まれ始めていた。そして、王立魔法学園の入学試験日が差し迫っていた。来月、2月には入学試験を行い、貴族、平民ともに2つの試験を抜けた80人程の人間が生徒として学園の門を潜ることとなる。国王が我が家を訪問したという事は、少なからず2大公爵家に聖女の見守り、護衛を任せる筈だ。幸い公爵は2家とも娘が今回の試験を受けるから、どちらも受かるのが望ましい。私の事はひとまず置いておいて、アウイナイト公爵令嬢とは私は2、3度顔を合わせた程度だからしっかりと面識があるわけではないから、手紙を送ってもいきなり過ぎるし...どうすれば良いのだろうか。余り王室の命令には従いたくないが、従う振りくらいはしとかないと反逆を疑われでもしたら堪ったもんじゃない。適当に協力しておくのが無難だろう。

 アウイナイトの令嬢とどうコンタクトを取るかを考えるよりも、自分の試験勉強の方が優先順位が上だという事を思い出し、スッキリしないままもう一度机に向かう。入学試験は13歳しか受けられないから、魔法は試験内容に含まれていない。だから、私はひたすらに座学の本をもう一度、片っ端から読み漁るくらいしかできる勉強は無いのだ。偶に問題らしい問題を解き、現在の政の説明も滞りなく出来るように何度も書く。其々の時代の情勢に合わせて、最も良い政の内容を考える。恐らく私の中ではこれが一番難しかったかもしれない。

 実技では、剣か弓を選択できるので、私は弓を選択した。なるべく高得点を取れる様に日中の散歩の代わりに弓で的を射る練習をしている。少しずつ距離を離し、的に当たればまた離れる。を繰り返している。運動はあまり好きではないが、弓は中々楽しい事が分かった。前世では出来なかったことに挑戦するのも案外悪くないな。

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