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昔の記憶 前編

 600年以上前、小さな小さな村に今までに見ない程膨大な魔力を持った少女が生まれた。鏡の様に様々ないろを映す純銀の髪は、聖霊師の証。ゼニスブルーとオパールグリーンが馴染みあった様なそんな色の瞳を、村の人々は宝石瞳ほうせきがんだと言った。15歳になる頃には王都の高ランク魔法使いたちに異端児と呼ばれる程魔法を使える様になっていたという。(参照:王国史。一部抜粋)


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 人類が魔法を使い始めた古来より、高レベル魔法の使い過ぎで魔力が暴走する、所謂いわゆるオーバーマジェストを引き起こすことは多々あった。これにより、ある程度精神の制御が出来るようになる15歳から魔法を習い始めた。ここ250年では、常識として14歳以下の魔法の学習は無理だとされている。魔力の暴走を引き起こしかねないだけで、魔力さへあれば出来ない訳ではない。むしろ幼子おさなごの方が想像力が高く、綺麗で威力の高い魔法を使えるはずだ。(参照:大聖女の日記。一部抜粋)


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 私は、物心ついた時から至極消極的で、感情が表に出ない気味の悪い子供だった。屋敷の敷地から出たことのない私は、外の世界よりも知識やマナー、教養を付ける事に興味を向けた。中でも父や兄たちが使っていた魔法に興味を注いだ。急速に文字を覚え、朝から晩まで図書館に籠り、本を全て読み尽くした。それでも見つけられず、全ての本棚の至る所を触り、時には備品をも傾け、一か所だけ魔力を感じ取れる場所を見つけた。魔法の解除方法も知らない私が、何故魔法を解除できたのかは今でも分からない。でも出来た。だから私は誰も教えてくれない魔法を本だけで学んだ。

Lv.1浮遊魔法。最初は2cm程浮くだけでも褒められる超基礎魔法だ。その応用が人体浮遊魔法

Lv.2操作魔法。精神、肉体の存在しない無機物のみを自由自在に操作することが可能になる魔法。応用は存在しない。ただし、魔法の熟練度をあげると初期よりも滑らかに動かすことが可能になる。

Lv.3簡易防御魔法。一般攻撃魔法のほとんどを防げる。応用無し。

本を読んでは実践する。其れを繰り返していた。毎日練習し、2~3日に1つの魔法を習得していった。時には調子が良く、長時間練習したため魔力の大量消費による疲労で熱を出すこともしばしば...

回数が重なると、みんな私の体調を気遣い始めた。

 熱の苦しさで、寂しさで、別に死なないのに家族に感謝を想った。其れと同時に、なぜだか知らない人の顔、場所の名前、景色、体中をほとばしる膨大な魔力、誰か別の人の人生を高速で見ているような気分だ。目が覚める直前、誰かの話声が聞こえた。「諦めが早くて人に好まれるような人間ではないのに、家族だからという理由で私を愛してくれた。其れが只嬉しかった。」ずっと苦し紛れの薄笑いを浮かべていた少女が瞳に涙を浮かべて、満面の笑みを零していた。何故だか其れが、約600年前の大聖女に、国に捨てられた史上最高の英雄に、見えた。図書館の国史の本で見たことある。純銀の髪と黄緑寄りの瞳が印象の大聖女。国に見捨てられ魔王に捕まった後、その生涯をむなしく閉じた王室最大の悲劇と呼ばれる人物だ。彼女の身分は「一般国民」だが、王室が“雇っている”大聖女であり王室によって与えられた身分を全うしている彼女を見捨てたのは、他でもない当時の王太子だ。国民に絶大な人気を誇る大聖女の命を彼は無残にも己の命惜しさに魔王に売った。その結果、彼が国王に就くことは無かったが、王国史にしっかりと記録される様な最低な行動をとった人物だ。今では最低な人物の例えとして用いられるような、嫌な意味でいつまでも国民に忘れられることのない人物だ。


 私が倒れて5日後、魔力完全回復の後無事完治。目覚めた日、何故か国王陛下が屋敷にいらしていた。呼び出されたので急いで準備をして応接間に行った。

 「遅れて申し訳ありません。シエル・フォン・ハーチェス、国王陛下、王太子殿下にご挨拶申し上げます。」どんなに焦っていてもカーテシーは完璧にしなければならない。我がハーチェス家は、ムーンシャルス王国の建国時から存在している2つの公爵家のうちの1つだ。そんな公爵家の令嬢が、体調不良だったとはいえカーテシーの1つも真面まともに出来ないとなると、私がこの家の品位を落とすことになる。其れだけは避けなければならない。

「病人がそんなにかしこまらなくてよい。というか、我こそ読んで悪かったな。」

「い、いえ。私の体調管理が疎かだっただけですので。お気になさらず。」目一杯の言い訳をするも、横からは私の口から出る言葉が嘘であると確信している人たちの冷ややかな視線が私の体に突き刺さっていた。

「それでな、今日お主を呼び出したのは、端的にお主が年の割に大変聡明だと公爵から聞いてな。」お父様の事をぶん殴りたいのを必死に堪え、

「それはそれは、父が飛んだ誤情報を陛下に流してしまい申し訳ありません」何なんだあの莫迦野郎は...優秀な王太子もいて、更に愛娘迄いるというのに自分の娘の自慢とは...

「1つ、質問だ。」

「聖女は知っているな」

「はい。数百年に一度現れる万物ばんぶつの癒し手...ですよね」

「ああ、その聖女が平民の中に現れたのだ。」国王の一言で部屋の空気が一気に揺れた。

「え...っと、こんなところでそのような一大事、仰ってよろしいのですか?」本来聖女が現れたというだけでも大事なのにそれが庶民だなんて、貴族からすれば大惨事に他ならない。魔力持ちの多くは貴族に生まれ、魔力が多い人がよく生まれる一族は伯爵~王室の高位貴族によく生まれた。けれども、平民に魔力は愚か聖女が生まれたとなれば、貴族である自分たちがたった一人の平民に劣っていると勝手に考え聖女を殺しかねない。実際、2代程前の聖女も平民だったが、彼女は魔法を完全に使えるようになる前にどこかの貴族に毒殺されてしまった。主犯の家門は分かっているしその家門は一族もろとも極刑だった。生まれたばかりの御令嬢も殺されたらしい。王室侮辱罪、王族殺し等王族に関する罪と同じ刑が科せられる。其れだけ聖女とは、国に必要不可欠な者なのだ。

「ああ、どうせ近日公開することなのだからな。それで、君は平民が魔法学園に入ってもやっていけると思うか?」

「...一個人の意見としましては、伯爵以上の高位貴族の助けがあれば少なくとも学園に通う生徒はどうにかなるのではないでしょうか。というか抑々、今の貴族の方々も聖女殺しが王族殺しと同等なのはちゃんと御存知ごぞんじなのではないでしょうか」

「そうだな。やはり、公爵の言ったことは正しかったな。」まさか私試された?

「おいおいそんなに睨まないでくれ、シエル。」

「別に睨んでるつもりはありませんわよ、お父様。」

「2人とも痴話喧嘩ちわげんかなら他所でやって頂戴!!国王陛下の御前よ!?」

「そういうお母さまだって一寸ちょっと焦ってるじゃないですか」

「はっはっは...まあまあ、落ち着き給え」

「あ、失礼しました。」

「では、そろそろ失礼しよう。邪魔したな」そう言い残すと颯爽と帰っていった。公務が溜まっているのだろう。

「チッッ...」

王室関連の人間が消えた瞬間、応接間に一つの舌打ちが静かに響いた。

其れは、紛れもなく私のものである。

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