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幾鏡

「あら、良ちゃん。今日もありがとね。」ベッドの上で、上半身を起こしてこちらを見る老齢の女性。佐川涼子。僕の祖母の名前だ。僕は親しみを込めて“ばあちゃん”と呼んでいる。昔は焦げ茶色の特徴的だった髪は、今は銀一色となって、肩に掛かっている。目も色素は薄くなり、何処かくすんで見えた。

 ここは病院で、特に高齢者の方が多く入院している棟だ。しかし、一人一部屋割り当てられている。この為に、多少騒がしくしても大丈夫だった。ばあちゃんは、先日階段から転げ落ちて頭を打ったらしく、暫くはここで療養するらしい。見舞いに行くと、彼女はよく昔話をしてくれる。それが、僕“佐川良治”の唯一の楽しみでもあった。

 「さ、立ちっぱなしもなんだから座って。」

「ありがとう。今日はどんな話をしてくれるの。」

そう言うと、ばあちゃんはクスリと笑った。

「まあ、そう焦りなさんな。そうだ、今日は飛び切り面白い話をしよう。」そう言うと、開け放たれた窓の外を見る。

蝉時雨が、窓から聞こえてくる。「そうねえ。ずいぶん昔の話でもしましょうか。ちょうど今ぐらいの時期の事。私の事務所に、ある一つの依頼が来たわ。」

 依頼が来たのが、深夜2時ごろ。私はその時、事務所で過去の依頼をファイリングしていたの。当時は一人で回していたけど、仕事量はそう多くなかったからね。

 依頼内容は、最近教室で女の声がする。それの調査をしてほしい。

 普通だったら幻聴で片付けられるでしょ。でも、クラスメイトの殆どが聞いていたらしいの。私はすぐ現場に向かったわ。恐らく厄介な存在に絡まれたのだろうと。だけどね、現場について見えた光景は想像を絶するものだった。

 間違いなく、国3つを容易に滅ぼせる悪霊だと。当時は、非科学的な存在は居ないとされてきた。だけどね、私にはわかったのよ。

 アイツにだけは手を出してはいけないと。一旦逃げようと思ったけど、逃げられないと悟ったわ。もう既に、奴は私と目を合わせていたからね。

 その時に、彼が目の前に現れたの。最初見たときは、普通に拍子抜けしたわ。彼はごく普通の学生だったのだから。

 だけど、彼が一言言ったの。“任せろ、一撃で決める。”女の悪霊の方は、歪な笑みを浮かべた。だけどね、彼は一切ひるまずに歩いた。そのまま近くまで歩くと、右ストレートを悪霊に叩き込んだ。

あれは傑作だった。悪霊がそのまま数百メートル吹き飛んだから。

目にもとまらぬ速さで。普通、悪霊は怨念の質と量で霊的質量が決まる。彼は、それを物ともせずに吹き飛ばした。

 それが、田中弘治との出会い。彼は当時高校3年生で、悪霊の声がする3年1組の隣、2組のクラスメイトだったわ。彼曰く、幼少期に風邪を拗らせて生死を4日ほど彷徨ったらしい。その時以来、何か別の力が使えるようになったとか。

 「ばあちゃん。その事務所って。」「そう、私が初代所長。佐川探偵事務所の。」ばあちゃんはそういうと、窓の外に視線を向ける。

「あの人も、あの力は非常に危険だと幼心に分かったらしくてね。

本気で使ったのは、あれが初めてだったらしいわ。」その時点で、十分規格外なのだけれど。ばあちゃんは付け足すと、再び話し始める。

 あの後、私は彼にこう話を持ち掛けたの。私の事務所で働かないかって。最初は怪訝そうな顔をされた。だけど、月100万という額を提示したらあっさり契約してくれた。当時は就職氷河期とまで言われていたから、彼にとっては好条件に映ったと思う。

 けどその数日後、彼から電話が掛って来た。内容は、あの話は無しにしてほしいと言うもの。高卒では余り良い職に就けなかったから、大学に入ってからでもいいかと聞かれた。

 私は、バイトなら問題はないと返したわ。そして翌月以降、週4日という高頻度で彼は働きに来た。その頃から、術師としては天才だった。非科学的な依頼であれば、即解決してしまう。

 彼はまさしく最強だった。彼をヘッドハンティングしようとした組織は、幾つもあった。だけど、彼はここに残り続けた。彼が大学卒業後、正社員に繰り上げた。

 それから数年後、京子姉さんと再会した。

 「お姉さんは、一体どんな人だったの。」「そうねえ、やっぱり、自由人かしら。だけどね、まさか教員をしているとは思わなかった。」

 京子姉さんと再会したのは、丁度4月の初めの事だった。あの日はとにかく風が強かった。砂埃が目に入って、思わず眼を瞑ってしまう程に。当時の服装は男物の紺色のスーツを着て、薄手の紺色のロングコートを羽織っていた筈。襟を立てて、風が入らないようにしていたわ。

 それで、いざ学校に入ろうとインターホンを押したその時。

「あ。」「え。」

丁度その時、正門を掃除していたのが京子姉さんだったわけ。

 あの日、佐渡島の浜辺で別れた時と違って、髪は肩に掛るほど伸ばしていた。何より、服装がしゃんとした物になっていたから。

 双子だから瓜二つと言われていた、けど性格は正反対だったからね。京子姉さんはずぼらな性格。反対に私は、異様にこだわりが強かった。

 だから、再会したときは驚いた。化粧もスーツもしっかりと決めて、背をすっと伸ばしていたのだから。

 3言話した後、直に依頼者の元に向った。依頼主はそこの校長。

そこで、初めて依頼内容を知ったの。

 内容は、新任教師である佐川涼子の経歴を調べてほしい。私は驚いた、だけど直ぐに姉の履歴書を見せてもらった。

 言っておくと、姉の履歴書は非常に大真面目に書かれていた。

 「その履歴書のどこが問題だったの。」ばあちゃんは、遠い目をしながら答えた。「ありのままの真実が書かれていたのよ。」

 生年月日の年が、3桁だった。

確かにそうだけど、もっとこう人間の一般常識的に考えて嘘でもいいから書こう。その上で、経歴。大日本帝国海軍第一航空戦隊参謀。

海上自衛隊幕僚本部付き。

 その他複数の要職。私は天井を仰ぎ見た。確かに、風の噂で聞いたが真実だと思わなかった。

 だが、普通の人間が見たら目球が飛び出るくらい驚くだろうと思わなかったのか。普通に考えてほしい、明らか新卒な人間の年齢が1400歳前後と言う。しかも海軍の要職にまでついている。

私はこのからくりが分かったが、それよりも姉に一刻も早く問いただしたい気分だった。

 校長はこう聞いてきた。「あの、これって本当なのですか。」

 私は、力なくこう言ったと思う。「この履歴書の内容は忘れてください、姉には十分注意しておきますので。」校長は何かを察したらしく、首を重々しく縦に振った。それから、姉に色々説教した。生年月日と年齢は人間から見て不自然の無いように。それ以外にも、経歴はなるべく隠すように。

 だけど、姉はこう切り返した。“履歴書に嘘は付けません。”

 私は察した。こいつはだめだ。どうこう言ったところで、不可能だと。

 「前に佐渡島出身の狸の妖怪って言ったの。あれ本当だったの。」

「そうだよ。島を出たのが、丁度900年。今みたいな夏の終わりだったよ。それ以来、各地の妖怪の里を回った。紫香楽で、同胞たちと酒を酌み交わしたのを今でも鮮明に覚えている。あいつらは、今も元気だろうか。」

 姉の性格は海軍に入隊してからと聞くと、私と言えど閉口した。

あの海軍だったからな、体罰上等だったから。

 まあ数日後には、その当時の雰囲気など無くなっていたけど。

それ以来、京子姉は私を酒に誘った。恐らく、本土での暮らしに飽きてきたと思う。日常の刺激が欲しかったからかもしれないけど。

 姉と再会して数年。姉が結婚した。相手は卒業生の男の子。

けど式は挙げずに、書類にサインしただけだった。けどまあ、2人の仲は相当よかった。そのまま幸せに暮らしましたとさ、とはならなかった。

 その相手が、昔から“見える”人だった。ある夜、ひどく憔悴した京子姉が家を訪ねてきた。

 その日は大雨で、ずぶ濡れで玄関に上がって来た。話を聞くと、どうやら正体がばれたらしい。なんでも、結婚した彼が酒に酔った勢いで姉に術を通してみたらしい。

 そこで、正体がばれて蒸発。朝起きた時には、テーブルに手紙一つが置かれていたと言う。

 「その京子さんと結婚した相手は、どんな人だったの。」

「うーん。ごく普通の、男の子だった。名前は、言えない。」

ばあちゃんは、言った。

「まあ、その人はある事が切掛けで再開するけど。」

 姉は結婚生活が破局して以来、男性不信になった。まあ、当然ともいえるかもしれない。あれだけ心を許した相手に逃げられたのだ。

 とは言っても、姉のトラウマをそのままにしておくのは少し心配だった。いろいろ手を尽くしたが、トラウマは治らず悪化した。

 それから10年がたったある日。西暦でいえば、2019年だったかな。

 私はある一人の少年と出会った。相当危ない状況だったから、あと一歩遅れていたら本当にまずい事に成っていたわ。

その少年の名前は有馬忠義。日本の危機を救った一人だ。

「有馬忠義って、高校の授業でも習ったけど。」「見た目は人だった。だがあれは妖怪だよ、間違いなく。」ばあちゃんは、虫の音が聞こえ始めた窓に目を向ける。空は茜色に染まり、雲が僅かに浮んでいた。

 そして、高校に入ってからか。私は彼を佐川探偵事務所に雇い入れた。その頃に、ある付喪神と出会った。

 人として生きるために、偽名を使っていた。それが、龍田七海。彼女は有馬君を追って、わざわざ本土に引っ越した。

 言い方は悪いが、彼女の存在を利用して有馬君を監視した。2年に上がってからは、龍田の住んでいた家に下宿させた。

 その際に色々アクシデントが発生したけど、監視という目的は達成できた。

「そのアクシデントとは。」「結婚した。」「え、まさか龍田さんと。」「そう、そのまさかだ。まあ、監視がし易くなって結果オーライだったが。」

 外にはすっかり夜の帳がおり、秋の虫がその歌声を高らかに奏でていた。「これ以降の話は。また明日かな。」「そうだね。」

 僕はそれから、家に帰るべく病室を出る。大学4年生の僕は、これから卒業論文をまとめなければならない。

 翌日、図書館に行く。少し、調べ物をするためだ。

(有馬忠義が高校に入学したとすれば、それ以降の報道を調べる必要がある。)僕は、カタカタとキーボードを打ち調べる。

 気になる新聞記事等を印刷した後、再び病院に向った。

 だが、今日は先客がいた。

「あ。」「どうも。」病室に入ったとき、誰かが部屋を出ようとした。背は170センチ程で、あまり高くない。顔立ちは、何処かで見た事があるような物だ。服装は、薄手の長袖シャツに長ズボン。色は両方とも紺色で、靴は灰色のスニーカーだった。

 僕はそのまま彼の前からずれ、少し頭を下げる。

「君、所長の孫か。」「そうですが。」「そうか、じゃあ。」

 彼の事をばあちゃんに話すと、くすくすと笑った。

「あの子が、有馬忠義。昔っから性格は不器用で、けど手先だけは器用だった。」そう言うと、視線を窓に向ける。空模様は曇り空。

 だけど、それは今の時期らしい空でもあった。

 さて、昨日の続きだね。彼が高校在学中、幾つかの事件に私たちは関わった。あれは彼が高校1年の春休み。当時の3年生である喜来幸一の捜索依頼を行っていた時の事。私はその場面を実際に見た事はなかったけど、田中曰くあれは式に目覚めたというの。

「その式とは。」「生きとし生けるモノには、必ず魂が宿る。その魂に刻まれた式は、本来であれば認識できないものだ。その式を認識した時、初めて人間はその非科学的能力の限界を超える事が出来る。」「ばあちゃん。よく分からない。」「今言ったことは禁忌その物。口外したらだめだよ。」

それ以来、彼は術師的にみればみるみる強くなった。

 そして彼は5月のある日、居なくなった。それから数日後に再び現れたのだけど、明らかに気配が人間の物ではなかった。

 それから数か月後、青木ヶ原ガス爆発事故が発生した。

あれが、日本術師協会と連携した初めての事件だった。

あれはガス爆発とされているけど、実際は封印されていた古龍が封印を破って出てきたのが真相。あの時は、彼が異世界で知り合った魔術師と連携して脅威を退けた。あれは本当に大変だったけど、それ以来隣国からの干渉が無くなったのが不気味だった。

 あるパーティーに彼が参加したことも、印象に残っている。

たしか彼が2年の冬休みの事。制服で彼はパーティーに出席したのだけど、その時彼はがちがちに緊張していた。

 だけどね、彼にはある依頼を託した。それが、彼が参加していたパーティーである薬品の取引が行われる。それの証拠を撮ってほしいという依頼。確かに薬品の取引は撮ったけど、彼はまぐれで宗教団体の黒い証拠までつかみ取ったのだから驚いたわ。

 その証拠のおかげで、その宗教団体は国内からは一掃された。

当時の週刊誌には、天才少年お手柄、などと書き立てられたわ。

 彼はそれ以降も、魂魄式を用いていた。だけど、私たちはある事を懸念していた。それは妖怪化。彼の肉体が完全にそれになってしまったら、人間の彼が死んでしまうかもしれない。

 けれど、それは杞憂に終わったわ。以前、術師の使う術は2つあると言ったね。妖怪が使うのが魂魄式、人は展開式を使う。展開式は難易度が低いものの、威力も低い。魂魄術は概念にも干渉できるが、人が使えば廃人になる。

 彼が高校3年の夏のある出来事がきっかけで、彼は人のまま過ごせるようになった。彼が通っていた高校の近くには神社がある。

そこに勤めている巫女が行方不明になったことがあってね。

巫女の行方を探ると、怨霊が封印された祠に向った後いなくなったと。私たちは祠に入り、巫女を助けた。中は異様に広く、多分だけど1キロ平方m以上あったと思う。そして、その中心にあった、怨念の核になっていた長巻をその身に取り込んだ。それ以来、彼の妖怪化は収まった。

9割妖怪1割人間に成った、そして1割の人間で9割の妖怪を包んでいる。だから外見は人間そのものだと。彼の体には、あの長巻が入っている。どの様な形になって入っているかは解らないけど、彼の妖怪としての人格が長巻に乗り移ったと考えるのが自然だ。

 彼が大学入学後、私の事務所で働いている人は10人以上になった。さっき言った有馬君のほかにも、同学年の赤坂君や井狩君。

2年になった貫田さんと谷嶋さんに江風さん、佐加井さんにそれから剱田君。3年に進級した蕨田さん。

それから東雲兄妹。後は異世界から来た魔術師“イリーナ・アーゼンバーク”。田中君と私。総勢15名。

 まあ、有馬君たちが大学を卒業してからは3人体制に成ったけど。

 たしか有馬君は海上自衛隊に入隊し、龍田さんも後を追った。有馬君は姓を龍田に代えているが、階級は確か2等海佐。龍田さん、いや七海ちゃんは海曹長として海士達と勤務している。

 赤坂君と井狩君はある企業にエンジニアとして入社。今は開発課の主任と副主任になっている。

 東雲兄妹は教員として高校に勤めている。校内では生徒たちに慕われているそうだ。

 貫田さんと剱田君は結婚して、カフェを経営。近所ではちょっと有名な店らしい。

 谷嶋さんと江風さんは、共にエンジニアとしてある企業に勤めているそう。その企業名が、武蔵野工業。代表者の名前が、扶桑一だ。

もしかしたら、この会社は付喪神しか入れないかもしれない。

 蕨田さんは、今は博物館の研究員として働いている。この職についてから、眼鏡を外せなくなったと嘆いていた。

 みんな、それぞれの明日を生きているのだ。

「ばあちゃん。話を聞かせてくれてありがとう。」「いや、たいしたことはしていないさ。それに、少し自伝を書いてみたくなった。」

「ばあちゃん。パソコン使う。」

「いや、原稿用紙と万年筆でやるよ。」

その数年後に、ばあちゃんは息を引き取った。享年1210。彼女は妖怪の中でも、特に長く生きた。

 そして、その葬式の時にばあちゃんと親交のあった人からの話も聞いた。しかし、最も驚いたのはばあちゃんが特に親しくしていた故田中弘治氏の娘田中友子さんの話である。

 「1週間前に、見知らぬ電話番号から電話が掛ってきて。」なんでも、ばあちゃんはよく彼の家に上がってともに酒を飲んでいたという。

 彼の葬式の時、ばあちゃんも当然参加していた。そして、今回の訃報を受けここに来たという。「亡くなる数日前に、涼子さんと話をして。」彼女曰く、どうやら唐突に電話をかけてきたらしい。

「すまないが、この本の校閲を頼みたい。そう言って託されました。

そして、それが終わったらあなたに渡してほしいと。」彼女が抱えている茶封筒には、原稿用紙がぎっちりと入っていた。

 僕は、葬式が終わった後にそれを見た。それは、題名が付いていた。幾鏡。ああ、そうか。

ばあちゃんは、僕に最後を託したのか。そう思って、最後の校閲作業に打ち込んだ。多くの人々の手を渡って書かれたそれには、多くの人が関わった痕跡があった。

 ここは貫田さんが直したのだろうか、そう思う部分もあった。

時として文体は叫ぶ磯浪が如く激しく。時として柳を揺らす優しい風の様に。また、桜並木の下を通るかのような優しい文体で。

 ばあちゃんが亡くなって、丁度一回忌の日。

「書けた。」僕は校閲を終えた。後は印刷所に持っていけばいい。

 2061年。ある本が出版される。

題名は“幾鏡”。全25巻、総ページ数212,500。総字数160,000,000。

 初めに記された文は、このような物だった。

“これは、時の荒浪を駆けた。ある妖怪の話である。

この書が妖怪の存在する一つの証となることを、私は切に願う。”

 あとがきには、校閲者たちの感想が載せられていた。その全員が、佐川涼子の関係者だった。

 その人数およそ20名。そして、最後の校閲者の名前が佐川良治だ。“この題名、”幾鏡”の意味について。

残念ながら、本書が出版される前に執筆者は亡くなっており、その真意を引き出すことは出来ない。だが、おそらく幾星霜の時を超えて生きた彼女の記憶と、校閲にかかわった幾人もの人から取り“幾鏡”にしたと思う。この記録が後世に伝えられ、教訓となることを切に願う。“

 ある日、1人の男が幾鏡を手に取った。

その男の名前は、八重島鷹。彼もまた、この幾鏡にかかわった一人だ。だからこそ、彼は驚いたのだろう。「…まさか、これに俺の親父と俺が関わっているとはな。それに、田中さんの名前まで。」八重島は何かを決めたかの様に店を出る。

 幾星霜を超えて語られる。それはまるでおとぎ話の様に。

人の世とは、驚くほど気まぐれなのだ。


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