表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

流れ星の向かう先に

【キャラクター】


梔子くちなし 優理ゆうり

3年生。寡黙な性格で、つっけんどんな印象がある。

その内はとてもやさしく、メンバーへの気配りや配慮にもたけている一面も。

イラスト部の影の支柱的存在。斎藤と幼馴染。


斎藤さいとう 向日葵ひまわり

3年生。イラ研部部長。ハツラツとした性格。

チャレンジ精神が旺盛な反面、壁にぶつかると臆病になってしまう一面も。

梔子とは幼馴染。


槿むくげ れん

2年生。ムードメーカー的存在。向日葵と優の三人でイラスト研究部を設立した。

ポジティブかつ活発な性格で、周りを引っ張っていくことも。少し抜けているのが玉に瑕。


紫垣しがき 陽花ようか

1年生。奥手な性格。槿(妹)の親友。

ただ、いざという時はしっかりと前へ出る、芯の強さも持っている。


槿むくげ ひめ

1年生。わがままプリンセス。蓮の妹。

小悪魔的な性格。外交的。ピーチネクターが好き



【配役表】


~~~流れ星の向かう先に~~~


https://ncode.syosetu.com/n2084hu/


♂優理 :

♀向日葵:

♂蓮  :

♀陽花 :

♀姫  :




【台本について】




・仲間内で楽しむのは勿論、配信サイトで公演したりしていただいても問題ありません。使用報告は義務ではありませんが、ツイッターのDM等で教えていただけると泣いて喜びますし、何卒、拝聴させていただければと思います(土下座)→ Twitter: @samoedosan




・台本上映の際は、営利、非営利を問わず、作者名と台本名、台本のURLの明記をお願い致します。




・性別転換やアドリブは、共演しただく方が不快に思わなければ大歓迎です。ぜひ皆様で、この台本をもっと面白く、楽しくして頂ければと思います。




・台本に関する著作権は放棄してません。が、盗作や自作発言等、著しいものでなければ大丈夫です。



  ~~~~シーン⓪~~~~




優理(M):セミが、鳴いている。


向日葵(M):恋の歌を奏でている。


姫(M) :ゆったりと風が頬を撫でる。


蓮(M) :誰が吊るしたか分からない、風鈴の音。


陽花(M):紙の上で踊る、鉛筆の音。


向日葵(M):そんな緩やかな静寂が、心地よくて。


蓮(M) :きっと、底なし沼みたいに、抜け出せなくなったんだと思う。


姫(M) :それでも、やっぱり時間は止まらなくて。


陽花(M):行き場のない心だけを、置き去りにしていく。


優理(M):その気持ちは、たぶん円周率みたいなもので。


向日葵(M):落っことしてしまったものは、案外すぐそこにあるのかもしれない。


蓮(M) :ふと振り返ってみれば、見つかってしまうのだろうか。


陽花(M):鮮明せんめいに揺らぐ、陽炎かげろうの向こう側に。




  ~~~~シーン①~~~~



  某県、下井戸市。下井戸高校。

  季節は夏。7月の中旬。

  空き教室を部室に、3人が絵を描いている。




優理 :みーん、みんみんみんみん……。


姫  :うわ。ゆーり先輩やめてくださいよー。ただでさえ暑っ苦しいんですから。


優理 :すまん。健気に鳴いてるの、可哀そうになってきて。


姫  :なんすかそれ。うるさいだけじゃないですかー。


陽花 :でも、私わかる気がします。つがいを探すために、一生懸命鳴いてるわけですし。


姫  :そうだけどぉ。ヨーカも先輩も、そんなセンチメンタルな人でしたっけ。


陽花 :ヒメちゃんは、なんか、わかる。


姫  :はいはい。どうせ感受性乏しいですよあたしは。……そんで? ヨーカは今日、何描いてんの?


陽花 :文房具のデッサン。


姫  :センパイは?


優理 :風景。


陽花 :ヒメちゃんは?


姫  :オリキャラ。


陽花 :あぁ。教室で言ってたやつ?


姫  :そ。でも無理。暑すぎる。あーあ、ピーチネクターのみたいー!


陽花 :ほんとに大好きだね、ピーチネクター。


姫  :すきぃ。ってかセンパーイ。この部室、クーラーつかないんですかー?


優理 :つかんだろうなぁ。なにせ部員が5人しかいないし。

    紫垣しがきは大丈夫か? 暑くない?


陽花 :暑いは暑いですけど、大丈夫ですよ。


姫  :田舎の貧乏学校じゃ、無理だよねー。


優理 :悲しいけどな。イラスト研究部なんてマイナー部、後回しになるだろうし。


姫  :悲しいですねー。……っていうか、後二人遅くないです?


陽花 :ひまわり先輩は、学級委員もやってるから、忙しいんじゃないかな。

   

優理 :槿むくげは……。まぁ。あいつだし。


姫  :どーせクラスの奴らと、ひとしきりダベってからくるんでしょー。レンにぃだし。


陽花 :先輩ですからねぇ……。




向日葵:(走ってくる)みんなーっ!! ごめん! 遅れてっ!!


蓮  :同じくスマンっ! 途中でひまわり先輩につかまっちゃってさー。


優理 :お疲れ様。


向日葵:ありがとーっ!!


姫  :うわ。レンにぃ汗くさ。寄らないで。


蓮  :ひどっ!? オレ頑張ったのに……。(溜息)。汗くさ兄貴は、窓際で涼んでくるっすよー。


向日葵:てか! みんな聞いて聞いて! 一大事!!


優理 :なんかあったんだろ? 見れば分かる。


向日葵:そうなんだよ! 聞いて!?


優理 :分かったから。とりあえず大人しくしてろ。


向日葵:わっ!


優理 :汗だくでいるとベタつくぞ。拭いてやるから。


向日葵:ひゃーめーてー。あわわわわ……。


姫  :あーっ! ひまわりセンパイずるー! ゆーりセンパイあたしにもやってくださいよー。


優理 :後でな。 


陽花 :……それで、何かあったんですか?


蓮  :あー……、それが、ねぇ……。


姫  :うっわ。なんか嫌な事あったぞって顔。


蓮  :いやその通りなんだけど……。


向日葵:ぶひふ! はふはふ、はほっへ!


陽花 :えっと……?


向日葵:ぷはっ! 部室! なくなるかもって!!


姫  :はぁっ!? 部室がなくなる!? なんで!?


蓮  :なんでも、実績が無い期間が長すぎるんだと。


陽花 :あー……。確かに、外に向けての活動はなんにもしてないですからね。


姫  :ダベりながらイラスト描いてのんびり過ごす。そんな部活があったっていいじゃないですかぁ。


蓮  :そうもいかねぇよ。実際問題、画材やらなんやらは部費で賄ってるわけだしな。


姫  :うっさいしゃべりかけないで。


蓮  :えぇー。


向日葵:でもね! 夏休み終わりまでに、なにかしらの活動実績があれば、考えてくれるとも先生言ってた!


優理 :コンテストに参加してみるとか?


向日葵:わたしもそう思って調べてみたんだけど。

    どれも期限までに結果発表が間に合わないんだよね……。


陽花 :それに、そういうのって専門学校で本格的に学んでる人も応募してきますから……。


優理 :現実的ではない、か……。


姫  :じゃぁ、ネットにアップするのはどうですか!?

    下井戸しもいど高校イラスト研究部公式アカウント! いっぱい“いいね”とか貰えたら──。


蓮  :1万いいね貰えたとしても、部の活動としては弱いだろうな。


姫  :うっざ。レンにぃには関係ないじゃん。


蓮  :いやバッチバチの関係者!!


向日葵:どうしよー!! 全然いい案出てこないよー! たすけてユーリー!!


優理 :はいはい。……とはいっても、結構難しい問題だよな。

    猶予は1カ月弱。その期間で制作、発表、実績確保までをこなさなきゃならない。


向日葵:そうなんだよねー。加えて、先生たちに認めてもらえるようなものじゃなきゃ……。


陽花 :期間的に、ゲームみたいな創作物を出すのも難しそうですね。


姫  :それに課題とかもやんなきゃだし。割く時間も限られる……。

    そんなの無理! 高校の夏休みは人生で3回しかないんだよ!?

    旅行とか夏祭りとか海水浴とかにも行きたいよー!!


蓮  :確かになぁ。もちろん部室がなくなるのは絶対嫌だけど、青春をふいにするってのも勿体ない────。

    いやまて。旅行か。結構いい線いってるかもしれない。


向日葵:とういうと?


蓮  :……社会福祉、やりましょう。ひまわり先輩。


向日葵:しゃかいふくし?


優理 :なるほど、そういうことか。


姫  :えっ? どういうこと?


蓮  :町おこしだよ。下井戸市の観光スポットをイラストにして、商店街とかに掲示する!


陽花 :それなら、取材と掲示の許可さえ貰えれば、何とかなりそう……!


優理 :先生方も納得しそうな活動だな。俺も賛成だ。


姫  :意義なーし!


陽花 :私も賛成です。


優理 :部長はどう思う?


向日葵:わたしも賛成っ! イラスト見て観光に来てくれる人が増えたら嬉しいもんね!


優理 :後は、どこにアポ取ってどこをイラストにして、どこに掲示許可をもらうか、だが……。


向日葵:それならわたしに任せて! うちのお父さん商店街の組合長してるから顔も広いし。


蓮  :おぉ! めっちゃ頼もしいっす!!


向日葵:でしょー。掲示許可なら、商店街の人たちに頼めば何とかなると思う。


優理 :取材はどうする?


姫  :はいはーい! あたしは、大祓白犬神社おおはらいしらいぬじんじゃがいいと思います!


優理 :成程。あそこは結構おごそかな感じだし、歴史もある。いいんじゃないか?


陽花 :コズミックプラネタリムとかどうかな……?


蓮  :あぁ! ムーンライズ下井戸の最上階にできたやつな! デートスポットには最高だよなー!


陽花 :えっ! 行ったことあるんですか!?


蓮  :いや! ねぇ!! カノジョできたら一緒に行きたいなーって思ってるだけ!!


陽花 :なる、ほど……。


姫  :レンにぃキッショ。


蓮  :いいだろ夢見るだけなら!!


向日葵:後は、川沿いの研究所とかどうかな!? めっちゃオシャレな建物の!


優理 :あぁ、バーチャルソサエティ研究所、だったっけ。確か。


姫  :イングラでもめっちゃアップされてますよねー! グラ映えめっちゃしますし。


向日葵:だよねだよね!! あと二つはどこがいいかな……。


優理 :別に、1人1ヶ所じゃなくてもいいんじゃないか? 許可取りに行くのも大変だろ。


蓮  :確かに。少なくとも、下井戸の目玉! みたいなところは抑えられてると思うっす。


陽花 :1ヶ所で別々のイラストがあった方が楽しめそうな気もしますね。


向日葵:それもそっか! じゃぁ、この3ヶ所でいこう! 


陽花 :わかりました。


向日葵:うん! じゃぁ、夏休みまでの一週間で取材許可とっとくね!


蓮  :まじで助かるっす! 各所の担当はどうします?


向日葵:公平にくじで決めよう! ちょっと待っててね!!


陽花 :えっ、くじにしちゃうんですか?


向日葵:希望でもいいんだけど、かたよっちゃうと気まずいかなーって。


姫  :(にやにやして)えー。ヨーカ、誰か一緒に行きたい人でもいるのー?


陽花 :えっ!? いや、そんなことは……。ヒメちゃんこそ、一緒に行きたい人いるんじゃない?


姫  :ふっふーん! ひみつぅー。


陽花 :ふーん……?


蓮  :──なんのハナシ?


姫  :にぃには関係ない!


蓮  :悲しっ!!


向日葵:ほいほーい! じゃぁ、みんな同時にひくよー!


蓮  :うっす! いくっすよー!? いっせーの、せっ!!




  ~~~~シーン②~~~~




  大祓白犬神社。

  3人の男女が、それぞれ写真を撮っている。



蓮  :なんか、収まるところに収まったみたいな感じだな。


姫  :何? あたしとじゃ不満?


陽花 :まぁまぁ。先輩、カメラもってきました?


蓮  :もち。バイト代貯めて買った、たっかいやつ。


姫  :あぁ、それ。出番があってよかったじゃん。


陽花 :出番?


姫  :最初はところかまわずパシャパシャとっててうざかったんだけど、

    最近はめっきりって感じだったから。


蓮  :最近は数より質を求めてんの。


陽花 :将来はカメラマンに?


蓮  :いんや、趣味。でも、プロ顔負けの1枚をいつか取りたいなって。


陽花 :なるほど。先輩らしいです。


蓮  :だろ? さぁって、どこ撮るかねー!


姫  :とりあえずピンときたら片っ端からとればいいじゃん。


蓮  :そうするかぁ。10枚20枚あればさすがに足りるだろ。


陽花 :じゃぁ、ちょっと散策してみよっか。

   

姫  :そだねー。あたし、あっち見てくる!


陽花 :うん。気を付けてね。


姫  :ありがと。


蓮  :転ぶなよー。


姫  :うっさい!



  間



蓮  :(溜息)嫌われてんなぁオレ。


陽花 :ふふ。ヒメちゃんにですか?


蓮  :んー。昔はもっと、仲良かったと思うんだけどなぁ。


陽花 :二人とも、すっごく仲がいいですよ? 今も、昔も。


蓮  :そうかなぁ!?


陽花 :そうなんです。


蓮  :……そうかぁ。



 間



陽花 :……そうだ先輩、カメラは人物写真を撮ってらっしゃるんですか?


蓮  :いんや。風景画オンリー。


陽花 :そっかぁ。……そっかぁ。


蓮  :もうちょっと実力ついたら、人物も撮ってみたいと思うけどな。


陽花 :じゃぁ、ここ、撮ってください。


蓮  :鳥居? おっけ、分かった。どの角度がいいかな……。


陽花 :せーんぱい。わたしも、入れてくださいね?


蓮  :え? マジ? オレ人物撮るの経験ないぞ……!


陽花 :それでもいいんです! ほら、早く!


蓮  :変な構図になっても文句言うなよ!?


陽花 :大丈夫でーす! ポーズ、こんな感じでいいですかー?


蓮  :いいと思う! それじゃ、撮るぞー!



 間



蓮  :……どうだ?


陽花(M):木漏れ日が、優しく私を包んでくれている。そんな印象を受けた。

     笑顔を向ける女の子は、どこか自分じゃないようで。

     その視線は、レンズのその先へ、続いているような気がした。


蓮  :微妙だったら、正直に言ってくれてもいいんだぞ……?


陽花 :いえ。素敵、です。ありがとうございます。


蓮  :ならよかったー! 思った以上に緊張するもんだなコレ。


陽花 :それ、帰ったら送ってくださいね?


蓮  :おう、分かった。


姫  :(遠くから)レンにぃーっ! よーかー! ちょっときてーっ!!


陽花 :ひめちゃん、呼んでますね。


蓮  :そうだな。行くか。


陽花 :あ、先輩、ちょっと待って。


蓮  :……ん?


陽花 :そこで、少しじっとしていてください。


蓮  :え、なんで───、って、ちょっ! 近い……っ!


陽花 :ふふふ、動いちゃダメですよー。はい、笑って笑ってー。


蓮  :スマホって……。せっかくならオレのでとった方が……。


陽花 :こっちでいいんです! いきますよぉ。はい、チーズ!


蓮  :──ったく、急にどうした?


陽花 :どうもしてませんよー。ほら、ヒメちゃん待ってます。早く行きましょ。


蓮  :…………? なんなんだよ……?



  間



蓮  :おまたせ。


姫  :おそい!!


蓮  :ごめんごめん。それでどうしたんだよ、大声出して。


姫  :あたし、ここにする。


陽花 :ここは……?


姫(M):見た瞬間、ときめいた。触っただけでも崩れてしまいそうな、二つのほこら

    隣どうしで並ぶ二つは、きっと優しい神様から守ってもらっているのだろう。

    特別に許された、二人だけの空間。あたしは、たぶんそんな景色に、心打たれたんだと思う。

    

陽花 :青い祠と、赤い祠?


蓮  :鬼子おにこ伝説だな。赤鬼と青鬼にまつわる話らしいけど。


姫  :にぃ、写真撮って。


蓮  :はいよ。……んー?


陽花 :どうしました?


蓮  :いや、なんか既視感があって……。

    なぁヒメ、俺たち、前にここに来たことあったっけ?


姫  :うーん、あったと思うけど……。覚えてない。


蓮  :だよなぁ……。


姫  :いや、でも。すっごく前に、ここで遊んだ気がする。2人で。


蓮  :そうだったっけ……。


姫  :そうだ! レンにぃ言ってたじゃん。“またここで、二人であそぼう!”って!


蓮  :あー……。なんか言ったような気がするなぁ確かに。いつかは全く覚えとらんけども。


姫  :そうなんだよねぇ。……ま、でもいいや! とりあえず収穫はあったし、帰ろ!!


陽花 :じゃぁ先輩、帰ったら会議に送ってくださいね。


蓮  :はいよ。


陽花 :(ささやく)……あ。私のは、DMだけに送ってくださいね。


蓮  :えっ?


姫  :あーっ! 二人で何ナイショ話してんの!? ずっる!!


陽花 :なんでもないよー。


姫  :えー。絶対なんかあんじゃん!


陽花 :なんにもないってば。それよりヒメちゃん、なんかスッキリした顔してない?


姫  :なんかねー。達成感? みたいなの。今めっちゃある。


陽花 :なにそれ。


姫  :わっかんない! ってかヨーカ! 帰りアイス食べて帰ろうよ!! レンにぃの奢りで!!


蓮  :オレッ!?




  ~~~~シーン③~~~~



 同日。バーチャルソサエティ研究所。

 大きな公園やオフィス街に隣接している近代建築の建物。

 駅からも住宅地からも近い為、若者や老人、会社員などがちらほらといる。

 インスタントカメラを手にあたりを眺めるひまわりとゆうり。



優理 :平日の昼間だっていうのに、結構人がいるな。


向日葵:夏休みだからねー! ちっちゃい頃は、ユーリと近くの公園でよく遊んでたよね!


優理 :俺らが住んでる団地からも近いしな。


向日葵:ね! おっきなお池もあるし、遊具もたくさんあるし! バスケやスケボもするとこあるもんね!


優理 :そこらへん、ガキの頃は近づくのビビってたけどな。


向日葵:だって、お兄ちゃんばっかで怖かったんだもん。


優理 :そうだよな。俺も似たようなもんだったし。


向日葵:それが今や、公園の人皆トモダチみたいなところある! あ、魚屋のおじちゃんだ。おーいっ!!


優理 :まったく……。コミュ力爆発しすぎだろう。


向日葵:ユーリのおかげだよ。引っ込み思案のわたしを外に連れて行ってくれて。


優理 :こうなるとは思わなかったよ。


向日葵:そりゃ10年以上も経てばね! いろいろと変わるわけですよ。

    この研究所もそう。10年前は更地だったわけだし。


優理 :確か、前はこじんまりとしたオフィスで開発とかやってたんだっけ。


向日葵:らしいよ。お姉ちゃんが言ってた。


優理 :んで、VR専用友人AIのNAO-KUNとファーニちゃんがバズって、ここに研究所を新設したと。


向日葵:そうそう! んでまたその建物もバズって。お姉ちゃん鼻高々そうだったよー。


優理 :コズミックプラネタリウムの開発もやったって言うし。下井戸を代表する企業だよな、ほんと。


向日葵:そうだねー。ここだけじゃなくて、街並みとか、人とか、やっぱりどんどん変わっていくんだよ。


優理 :まぁな。でも、ひまわりと一緒にいる時間は変わんないよ。いつも、ゆったりとしてて。


向日葵:……ユーリも、昔からずっと変わってないよ。優しいユーリだ。


優理 :そう、かな。


向日葵:うん。……あ!! そうだ! あそこのスポット撮りたいと思ってたんだ! いこいこ!!

    おわっとっと……っ!


優理 :おっと。


向日葵:……ごめんー。こけるところだった。


優理 :危ないな。ヒール、初めてなんだろ。大丈夫か。


向日葵:大丈夫だよー。……あいたぁ~。


優理 :暑いしな。何か飲んどいたほうがいい。とりあえず座ろう。


向日葵:うん……。


優理 :スタコーでなんか買ってくるけど、何がいい?


向日葵:えっと……、限定のやつ。桃のフラペチーノ。


優理 :わかった。財布だけ持っていくから、荷物見ててくれるか?


向日葵:うん……。


優理 :絆創膏、カバンの中に入ってるから、よかったら使って。


向日葵:ありがとう……。



 間



向日葵:やっぱり、変わったよ……。たくましく、なった。



 彼女は、自分の足に視線を落とす。靴下をめくると、マメができていた。



向日葵:何やってんだろ……、あたし……。絆創膏もらお……。



 スマホのバイブレーションがなる



向日葵:ん? 通知かな? ……わたし、じゃ、ないみたい。

    ユーリ、ゲームたくさんやるからなぁ。それかも。

    ばんそーこー、しつれーいしまーす。


向日葵:あっ、ユーリのスマホ……? 持って行かなかったんだ。

    この通知……、「ヒメヒメ」って……。ヒメちゃんから……?



 間



向日葵(M):見ちゃいけない。知性と本能がわたしに呼び掛ける。ひやりとした汗が流れた。

    ムシムシとした空気がからからに乾いていく。そんな感覚だった。


姫  :センパーイ! めっちゃいい写真とれましたーっ!


姫  :今日のあたし、めっちゃ可愛くないですか!?


姫  :神社の取材行ってきましたー! みてみて!


向日葵(M):どくり、と。気持ち悪い音がした。

    不可抗力だと分かっていても、後悔と罪悪感に押し潰されそうになる。

    現実から目を逸らす様に、絆創膏を取った。

    どろどろとしたところを隠して。勝手に癒して。無かったことにしてくれないだろうか。

    そう、思いながら。


優理 :……ひまわり?


向日葵:あ、ユーリ……。


優理 :なんか、あったか……?


向日葵:んーん。大丈夫。


優理 :まさか、ナンパか?


向日葵:されてないよー! ひとっこひとり話しかけられなかったよ!

    あ、でも、かわいいワンちゃんはいたかな! まっしろでおっきい、もふもふのやつ!


優理 :そうか……。


向日葵:うんっ!


優理 :……すまん。俺、歩くの早かったか。


向日葵:えっ、全然だよ!! へーきへーき! ほら、いこっ!!

    どこ撮る? やっぱり定番は抑えておきたいよねっ!


優理 :なぁ、ひまわり。


向日葵:んー?



 間



優理 :……俺は、ずっと味方だから。なにがあっても。


向日葵:……うん。ありがとう。


優理 :おう。……定番で言うとやっぱりあそこかな。有名ティートッカーがアップしてた、あのアングル。

    まずはそこに行ってみよう。


向日葵:うん! 行ってみよーっ!!



優理(M):隣で歩く、拳二つ分の距離。……これ以上踏み込みきれない空間。

    彼女の笑顔が、誰かに狙われていたわけではないことに安堵あんどする。

    じんわりと滲み出した汗と、おでこに張り付く前髪。

    拭っても拭っても再び現れるその不快感は、どうにも。

    彼女の笑顔を独り占めしたい気持ちと、どこか似ているような気がした。




  ~~~~シーン④~~~~




  一週間後。ショッピングモール「ムーンライズ下井戸」。

  最上階には、最新型の投影機を使った、「コズミックプラネタリウム下井戸」がある。

  エントランスホールの広場に集合するイラ研メンバー。



優理(N):一週間後。



優理 :よし、全員揃ったな。


蓮  :すみません、遅れちゃって。


陽花 :気にしないでください。大丈夫ですよ。


姫  :まったく、しっかりしてよねー。


蓮  :いや寝坊したのお前だろ!?


姫  :だってー。楽しみすぎて昨日眠れなかったし。


蓮  :子供か。


優理 :まぁまぁ。早いうちに連絡もしてくれてたし。俺たちものんびり来れたよ。


蓮  :すんません……。


優理 :さて、今が14時。プラネタリウムの上映が18時。

    それまでは予定通り、ムーンライズ下井戸の散策と撮影か。


姫  :ようするに自由時間って感じですね!


陽花 :でもその前に、プラネタリウムのチケット買っておかないとですよね。


優理 :問題ない。既に人数分ネットで買っといた。


姫  :おぉー!! ゆーりセンパイやるぅ!


陽花 :えっと、おいくらでした……?


優理 :いやいいよ。俺が勝手に抑えといただけだし。


蓮  :いやいやよくないっすよ! オレ出します! 3千円あれば足ります!?


優理 :気にすんなって。先輩に華を持たせろよ。


陽花 :でも、申し訳ないですよ……。


姫  :気にしない気にしないっ! スパッと奢られるのも礼儀だって。


陽花 :そうなのかなぁ。


優理 :あぁ。


姫  :で! も! レンにぃはそれでいいのかなぁ? 奢られるだけってのは、ダサくない?


蓮  :男のプライドをガリガリ削ってくるなぁ!?


姫  :ゆーりセンパイはかっこいいなぁ。男気あるなぁ。イケメンだなぁ。ねぇ?? レンにぃ??


蓮  :だー、もうわかりました!! ユー先輩! すみませんオレも半分出させてくださいっす!!


優理 :(苦笑して)わかった。


姫  :そんなことよりゆーりセンパイ! この服どうですかぁ? めっちゃ似合ってません!?


向日葵:……っ!


陽花 :あー……。


蓮  :ひまわり先輩?


姫  :どうですどうです? キュンときましたぁ?


優理 :あぁ。似合っていると思うぞ。


向日葵:あの、ユーリ────。


姫  :でしょー!! 一目惚れしちゃったんですよねー。


向日葵:……。


蓮  :あー……。


姫  :こんなかわいい女の子とデートできるなんて幸せですよ! どこ回りますー?


優理 :あ、いや。俺は……。


向日葵:あっ。


陽花 :じゃぁひまわり先輩、私と一緒に回りましょう!! ちょうど誰かに服選んで欲しかったですし。


向日葵:えっ、でも……。


陽花 :先輩も一緒に行きましょう! 男の子の意見も聞きたいです。


蓮  :えっ!? いや、オレはいいけど、でも……。


陽花 :ほら行きましょ!!


蓮  :あっ、ちょっと待って……。


向日葵:あ、あの……。


姫  :ゆーりセンパイも行きましょーっ!


優理 :ちょ、ちょっと……。


姫  :(小声)ヨーカ、さんきゅ。


陽花 :(小声)まかせて。



  離れていく2人と3人。



陽花 :3階にいいお店があるんですよ! ひまわり先輩に似合そうな服、いっぱいあるんですけど!


向日葵:……。


陽花 :……ひまわり先輩?


向日葵:えっ!? えっと……。あはは、ごめんなんだっけ?


陽花 :あ、えっと……。


蓮  :ひまわり先輩。なんかあったんすか?


向日葵:えっ、なんで?


蓮  :元気、ないっすよ先輩。


向日葵:そ、そうかなぁ!? 全然元気だよ!!


陽花 :悩み事ですか? よかったら、聞かせてください。


向日葵:ありがとね。けど、大丈夫だから。わたし────。


蓮  :先輩。……オレ、先輩の力になりたいっす。困っていることがあるなら、何でも言ってください。


向日葵:えっと……、だから────。


蓮  :先輩。


向日葵:えっと……。えっとね……。

    イラスト、描けなくなっちゃったんだ……。


陽花 :描けなくなった?


向日葵:この前ね、研究所の取材行ってきて。いっぱい写真撮ったんだ。


陽花 :はい。


向日葵:どれもすごく素敵に撮れて、イメージもいっぱい湧いてくれたんだけどね……。


陽花 :もしかして、筆が進まない……?


向日葵:うん。少しでも早く完成させなきゃいけないのは分かってるんだ。

    でも、全然ペンが動いてくれなくて……。


陽花 :どうして、です……?


向日葵:なんで、なんだろう、ね。


蓮  :そんなの、決まってるじゃないですか。


向日葵:えっ。


蓮  :決まってますよそんなの。心がストップかけてるんす。


向日葵:心が……?


蓮  :2人が取材に行った日、なんかあったんすよね?


向日葵:ぜんぜん、そんなことないよ! ユーリはいつも通り、優しかったし……。


蓮  :でも、何かがあった。ひまわり先輩まっすぐだから、そういうのすぐ顔に出るんですよ。


向日葵:えぇっ!?


蓮  :そんで、なんかあったらすーぐ我慢しちゃう人。

    今はたぶん、これ以上キツいのは無理だって、無意識にブレーキかけちゃってるんじゃないっすか?


向日葵:そうなのかなぁ?


蓮  :わかんないっすけど。

    でもきっと、ブレーキさえ取っ払っちまえば、きっと前に進めると思うっすよ。


陽花 :どうやって……?


蓮  :全然わかんねぇっ!


陽花 :先輩っ!?


蓮  :その答えは、オレは持ってねぇっす。

    ブレーキがぶっ壊れたんなら、後はまっすぐ進んでぶつかるだけっす。先輩。

    そしたら、その答えは、先輩が自然と導きだすはずですよ。


向日葵:レンくん……。


蓮  :だから、行きましょう。先輩。

    先輩の隣にいるのは、たぶん、オレ達じゃないっす。


向日葵:……。


蓮  :自分に正直にいきましょう。


向日葵:自分に、正直に……。

    そうだね!! やってみるよ!!


蓮  :えぇ、その意気っす!!


向日葵:ありがとう! わたし、いってくる!!


蓮  :はいっ! がんばってください!!



蓮(M):遠くなっていく背中を見送る。

    彼女のまっすぐな瞳が好きだった。湧き水のように、澄んだ瞳に恋をした。

    そして、星のようにきらきらとした瞳に魅了されたんだ。

    でも、その視線が向かう先はオレではない人で。

    その時から、この恋はもう。最初から、終わっていたんだ。

    頭では分かっている。この気持ちはどうしたって消えるしかなくて。

    心だけが、オレを置いて、どんどんと先に進んでいってしまうんだ。



陽花 :行っちゃいましたね。


蓮  :……少しは力になれたかな?


陽花 :どうでしょう。でも先輩。お兄ちゃんとしては赤点過ぎて落第ですよ?


蓮  :……確かに。


陽花 :先輩はどうですか?


蓮  :何が?


陽花 :先輩は、自分に正直になれてますか?


蓮  :はは。どうだろうな。


陽花 :私はいいと思います。自分に嘘を付いたって。

    歩き出せるタイミングを見計らうのも、ありなのかなって。


蓮  :あー……、言われてみればそうかもな。


陽花 :それに、私たちは似てるじゃないですか。


蓮  :どこが?


陽花 :嘘つきなところ。

    ほら先輩、行きますよ!!


蓮  :あ、まてって、引っ張んなよー!!



  場所が変わり、ショッピングモール屋上テラス。

  まばらにいる家族連れの客と、二人の男女。



姫  :わー!! めっちゃいい風ですよ、センパイっ!


優理 :……そうだな。


姫  :あっついですけど、風があるからそんなに嫌じゃないですね!


優理 :あぁ……。


姫  :そういえば、今日のプラネタリウム、アロマも焚いてくれるんですよね!


優理 :らしいな。


姫  :えー、めっちゃ楽しみ!!

    絶対リラックスできる奴じゃないですか! 寝ちゃわないか、今から心配ですよー。


優理 :だな。


姫  :センパイも寝ないでくださいねー? 寝たら絶対、あたしラクガキしちゃいますから!!


優理 :……あぁ。


姫  :でーもー。センパイはあたしが寝ててもラクガキしないでくださいね!?

    まぁ、こーんなかわいい顔にラクガキしちゃう人ではないとは思いますけど!


優理 :そうだな。



  間



姫  :……行きたい、ですか。ひぃセンパイのところ。


優理 :えっ、なんで……?


姫  :分かりますよー。ずっと、センパイを見てきたんですから。


優理 :……。


姫  :図星、ですよねぇ。ほんとにセンパイは、嘘がつけない人です。

    ……ま、そういうところも好きなんですけどー。



  間



姫  :……何か。言ってくださいよ。センパイ……。



姫(M):最初は、イケメンなセンパイだなーってだけだった。

    特に恋愛感情とかもなかったし、こうなるなんて思いもよらなかった。

    それから、声が好きになって、仕草が好きになって、優しさが好きになって。

    気付いた時にはもう止まらなくなってしまっていた。

    センパイがあたしを見てないことは、ずっと前から分かってる。でも諦めたくなかった。

    絶対振り向かせたい。せめて、終わりの言葉を聞くまでは。



姫  :あたしは……。それでもあたしは。ずっと、センパイの事が大好きですよ?


優理 :でも、俺は……。


姫  :わかってますー。センパイ優しいから、強く振りほどけないんですよね?

    それに甘えてる、あたしもあたし、ですけど。


優理 :……すまん。


姫  :はーい! 何に対してのすまんなんでしょーか!

    もしかして、あたしのかわいさですかぁ?


優理 :えっと……。


姫  :────なんて。ほんとはいつまでもおちゃらけていられないのは分かってるんです。

    でも、やっぱり怖くて。本当は、こんなになるつもりなんて無かったのに。


優理 :……ひめ?


姫  :でも。それでも……。



  間



姫  :あたしは、センパイの事が。好きです…………!


優理 :……っ!!



  二人の距離が縮まる。軽く、唇が触れ合った。



姫  :…………ごめんなさい。これが、最後ですから。


優理 :…………。


姫  :これからも、いっぱい絡んじゃうと思います。でも、今みたいなのは、もう最後ですから。


優理 :……ごめん。ひめ、俺は────。


姫  :言わないでっ!!


優理 :……っ。


姫  :分かってます。……分かって、ますから……。


優理 :……ごめん。


姫  :……でもっ! ちゃんと突き放さないセンパイが悪いんですからね!

    猛アタックしますから、あたし!! 早く折れちゃった方がいいですよ!!


優理 :……あぁ。


姫  :……皆の所に戻りましょうか。

    今あったことは、忘れてください……!(走り出す)



  間



優理 :……俺も、行くか。

    ……あっ。ひまわり……!?


向日葵:……あ、ごめん……っ! 覗き見とか、そんなの、するつもりなかったんだけど……。


優理 :あ……、いや、違う。今のは────。


向日葵:ごめん! 2人がそういう関係だって、わたし知らなくて……!

    お邪魔虫、だったよね!!


優理 :違う! 聞いてくれ、そういうんじゃなくて────。


向日葵:ほんとに! 覗く気とかはなかったから! たまたま来ちゃっただけだから!!

    あはは! タイミング考えろって話だよね!! ホントにごめんっ!!(走り出す)


優理 :ひまわりっ!!

    ────クソッ!! 何だってんだよもう……!




  ~~~~シーン⑤~~~~



 ショッピングモール内を散策している2人



陽花 :ふんふんふーん(鼻歌)。


蓮  :ご機嫌だな。


陽花 :そりゃまぁ。素敵なネックレス選んでいただきましたから。


蓮  :オレのセンスでほんとによかったのかぁ?


陽花 :オレのセンスがよかったんです。


蓮  :なんだそれ。


陽花 :それに、仕事はちゃんとしてますからね、私達。散策ついでに写真も結構とりましたし。

    というか。皆はまぁ、それどころじゃないでしょうし?


蓮  :なー。本末転倒って感じもあるケド。


陽花 :後は屋上テラスを撮れば、一通りいい所は抑えた感じになるでしょうし。

    サクッとやっちゃいましょ。


蓮  :へいへーい。


姫  :(走ってくる)。


蓮  :(ぶつかる)あだっ!!


姫  :あっ、すみません!!(そのまま走っていく)


陽花 :大丈夫です?


蓮  :あぁ。──てか、今の……。


陽花 :ヒメちゃん、でしたよね。


蓮  :あぁ。なんだあいつ、トイレやばかったのかなぁ?


陽花 :泣きながら、ですか?


蓮  :えっ!?


陽花 :私、ちょっと行ってきます。先輩は先に屋上見ててください。


蓮  :お、おう……。



  ショッピングモールの一角。

  女の子のもとに、1人駆け付ける。女の子の目元は、泣きはらして真っ赤だった。



陽花 :ヒメちゃん! ……ヒメちゃんっ!!


姫  :……あ、ヨーカじゃん。おっつー。


陽花 :おっつーじゃないよ。何があったの?


姫  :……なにもない。


陽花 :なにもないわけないじゃん! ヒメちゃん泣いてたんだよ!?


姫  :あはは……、見られちゃったかぁ。

    でもね。ほんとに。なんにもなかったんだよ。なんにも……。

    (涙が込みあがる)なんにも、なくて……。あたし……っ!


陽花 :ヒメちゃん……。


姫  :がんばったんだよ、あたし……! いっぱいアタックしたし、いっぱいかわいくしたし……!!


陽花 :うん。


姫  :でも、なんにもない! いつも見てた!! センパイしか映らなかった!!

    いつも優しく微笑んでくれて! でも、それでも!! 遠くにいるのっ!


陽花 :うん。


姫  :諦めようって何度も思った! でも、センパイの顔見たら、胸が波打つんだよっ!!


陽花 :うん。わかるよ……。



  泣きじゃくる女の子を、優しく抱きしめる。



陽花 :なんでだろうね。近いようで、遠くて。

    手を伸ばせば触れられるのに。……いつだって、届かない。


姫  :…………っ!

    ────ごめん……! ヨーカ……、ごめん……! あたし……っ!!


陽花 :ううん。がんばってたよ、ヒメちゃんは。

    ────がんばったんだよ……。


姫  :あぁ、ああぁ……!! ああぁぁああああぁぁっ!!!!



  大泣きする女の子。瞼をぎゅっと閉じ、抱きしめる彼女の瞳にも、涙があふれた。

  ────場所が変わり、屋上テラスへと続く通路。



蓮  :結局独りぼっちかよ……。ほんとに、何と言うかだなもう!



  トイレへと続く通路。その手前のベンチに、女の子が俯いていることに気づく。



蓮  :あれって……。ひまわり先輩じゃないっすか! どうしたんすかこんなところに1人で!!


向日葵:レンくん……?


蓮  :…………先輩。泣いてるっすか?


向日葵:えっ……? いや、ないてないよぉ。


蓮  :嘘だってバレバレっす。ああもう、目元真っ赤にして……。ハンカチ使ってください。


向日葵:……ありがと。────あのね。


蓮  :はい。


向日葵:行ったよ、ユーリのとこ。


蓮  :はい。


向日葵:屋上にね、いたんだよ。ユーリと、ヒメちゃん。


蓮  :…………はい。


向日葵:2人ね。すごく距離近くて。


蓮  :はい。


向日葵:……キスしてたんだ。


蓮  :…………。


向日葵:わたし、胸の奥がぐちゃってなって。逃げ出してきちゃった……。


蓮  :…………はい。


向日葵:苦しくて、つらくて……。でも、それが自分勝手な気持ちだって分かるから、余計につらくて。


蓮  :……はい。


向日葵:ちっちゃい頃から、ずっと、傍にいてくれたから……。わたし、甘えてたんだ……。

    これからもずっと、なんて。そんなことないって分かってたのに……!


蓮  :先輩……。


向日葵:ずっと、好きだった……! 好きだったんだよ……!


蓮  :…………。

    ────はい。


向日葵:でも、蓋をしなくちゃ。明日には。明後日には。一週間後には。来月には。来年には。

    きっと、笑えるよね? わたし、いつものひまわりに戻れるよね?



  間



蓮  :…………そんなの、ダメっすよ。先輩。



  少し、触れるだけの抱擁。彼女の頭を自身の胸にコツリとあてる。



向日葵:あ……。


蓮  :先輩。自分に正直に、っす。嘘ついちゃ、ダメっすよ……。


向日葵:あ……。う、うぅ……。



  こみ上げる涙が、溢れ出してくる。



蓮  :先輩は、どうなんすか? どう、思ってるんすか……?


向日葵:────やだ……。


蓮  :はい。


向日葵:嫌だよ……。嫌だ……。


蓮  :はい。


向日葵:嫌なの……! 嫌だ……っ!!

    ずっと好きだった……! 大好きだったんだよ……っ!!


蓮  :はい。


向日葵:わたし、ユーリが好き……っ!! 大好きなの……!!!!


蓮  :…………はい。


向日葵:離れたくない!! でも遠くへ行っちゃうの!!

    そんなの!! 嫌だよ────っ!!



  泣き崩れる女の子を優しく支える。

  しばらく泣きじゃくるのを、目をつぶって待つ。



向日葵:────ごめん。シャツ、濡らしちゃった。


蓮  :先輩。だったら、オレと────。



 間



蓮  :…………やっぱり。ダメです。先輩。


向日葵:レンくん?



  優しく離れる。



蓮  :大丈夫っす!! 先輩、最高にかわいいっすから!

    ヒメの事は、多分、きっと、アレだと思うっす!!


向日葵:アレ……?


蓮  :わかんないっすけど、多分、まだ終わってないと思います!

    ユー先輩がどう思ってるかはアレっすけど、ヒメみてる感じ、格闘中って感じでしたし。

    あいつ、焦ると暴走するところあるっすから!!


向日葵:暴走?


蓮  :とにかく、後はお若い者同士で!

    っていってもどっちも先輩っすけど。オレは、ここでお終いっす。


向日葵:お終い……?


蓮  :後は、ユー先輩に任せるってことっす。

    ────ね! 先輩!!


向日葵:────えっ。


優理 :…………ひまわり。ごめん。どうしても伝えたくて。


向日葵:ユーリ……!? え、ヒメちゃんは……!?


優理 :えっと……、あれはな────。


蓮  :ユー先輩っ!!!!


優理 :槿むくげ……?


蓮  :────次は、ねえっすから。


優理 :次……?


蓮  :次、ひまわり先輩泣かしたら、ぶん殴りますからね! ってことっす!!


優理 :槿……。


蓮  :あーあ。まったく損ばっかっすよ今日は!! じゃぁ、後はお二人でってことで!!

    分かってるとは思うっすけど、上演にはちゃんと集まってもらうっすからね!!


優理 :────あぁ。わかった。


蓮  :(ぼそりと)────ほんとに、損ばっかっすよ。オレ…………。



  少年は、2人に聞こえるようにぶつぶつと不満を垂らしながら、エスカレーターを下る。

  降りると、そこには1人の女の子が待っていた。



蓮  :ようかちゃん。


陽花 :……お勤め、ご苦労様です。


蓮  :なーにがお勤めだよ。マジで。こんなんなら来るんじゃなかったわー。

    あ、後、ヒメは?


陽花 :ヤケ“シャミタツ”、ですかね、今は。


蓮  :三味線の達人なぁー。なら、オレもヤケゲーセンとしゃれこむかぁ。


陽花 :先輩。


蓮  :おー?


陽花 :泣いても、いいんじゃないですか。こんな時くらい。

    今ならちょうどいい女の子が慰めてくれますよ?


蓮  :────。……ありがとな。なら、ヤケゲーセン付き合ってくれよ。


陽花 :はーい。


蓮  :……なぁ、これって全部計算だったりする?


陽花 :────さぁ、どうでしょうねー。

    意外と私、女狐だったりするんですか?


蓮  :あー。まぁ、いいんじゃね? そういうのも、正直でさ。



  場面は戻り、屋上テラスへと続く通路。



向日葵:ユーリ……。


優理 :(頭を下げる)────ごめんっ!!


向日葵:えっ!?


優理 :どうしていいか俺も分かってないけど……! なんか、コレが一番正しい気がするんだ。


向日葵:えっ……、えぇ……!?


優理 :さっきのアレは、そういうんじゃないんだ。

    もし、俺とひめが付き合ってると思っているのなら、違うから。


向日葵:え、付き合ってないの……?


優理 :付き合ってない。

    アレは……、なんて言ったらいいかな……。ひめは、俺の事を好きって言ってくれてる。

    だから、多分あんな行動をしたんだと思う。


向日葵:……。


優理 :でも、俺は彼女と付き合う気はなくて……。って、こんな言い方嫌味な奴だよな。

    少なくとも俺は、ひめにそう言った感情は待ってないんだ。


向日葵:そう、なの……?


優理 :あぁ。どうしても、ひまわりには知ってほしくて。勘違いしてるなら、そのままにしたくなくて。

    (顔を上げて)それで、ここに。


向日葵:ほんとに……?


優理 :ほんとに。


向日葵:よかった……。よかったぁ……っ!!


優理 :あの、ひまわり。


向日葵:ん?


優理 :前にも言ったけど、俺はずっとひまわりの味方だから。高校卒業しても、大学に入っても。

    それからも、ずっと。


向日葵:ありがとう……。わたしもずっと、ユーリのそばにいたいよ。


優理 :……うん。だから、ひまわり。



  間



優理 :ひまわり。……俺と────。


向日葵:ちょっとまって!


優理 :えっ?


向日葵:……ここ、トイレの前だから。ほら、男の子が……。


優理 :……あ。そ、そうだな。いこう、ひまわり。


向日葵:うんっ!



  2人、手をつないで歩き出す。



向日葵:(繋がれた手を見て)……ふふっ。




  ~~~~シーン⑥~~~~




  17時45分。コズミックプラネタリウム下井戸。



優理 :お待たせ。


蓮  :ほんとー。待ったっスー。いつまで待たせるつもりだったんすか―。


優理 :……遅刻。


蓮  :大変申し訳ございませんでした。


優理 :ほら、チケット。


蓮  :あざっす!


陽花 :先輩、ここのチケットどんな奴なんです?


蓮  :あ……? ほい、これ。


陽花 :(ぼそっと)C55……。


蓮  :ってか、別に自分の見りゃいいだろ。


陽花 :それもそうですね。貰ってきます。

    梔子くちなし先輩、チケット選べますよね?


優理 :あ、あぁ。


陽花 :ありがとうございます。ではこれで。


優理 :おう。後……。あの、これ。ひめも、受け取ってくれ……。


姫  :(ムスッと)…………。


優理 :あの、受け取って────。


姫  :センパイの、隣ですか。


優理 :えっ……!? いや、まぁ。一応、そうなるかな……。


姫  :…………。


優理 :でも、ひめ。俺は────。


姫  :(チケットを奪い)じゃぁ、いいです。今は、それで。


優理 :今はって……。


姫  :先行ってます。


優理 :あ、おい……! …………まぁ、すぐにってのは、難しいよなぁ。


向日葵:ユーリ?


優理 :あ、ごめん。……ひまわりには、コレ。


向日葵:ありがとう。…………あ、これ、端っこなんだ。


優理 :スマン、真ん中の方がいいよな、やっぱり。


向日葵:あ! ううん!! そういうんじゃないけど!!

    ユーリは52?


優理 :あ、あぁ……。


向日葵:あの、ユーリ。もしかして、わたしが端っこなのって────。


優理 :…………。


向日葵:────ふふっ。いこっか。


優理 :……あぁ。




  ~~~~エピローグ~~~~




優理(M):星が、散っていた。


向日葵(M):夜の街を照らしていた。


姫(M) :ゆったりと風が頬を撫でた。


蓮(M) :どこで鳴いているか分からない、すずむしの音。


陽花(M):土の上で擦れる、靴底の音。


向日葵(M):そんな緩やかな静寂が、心地よくて。


蓮(M) :きっと、底なし沼みたいに、抜け出せなくなったんだと思う。


姫(M) :それでも、やっぱり時間は止まらなくて。


陽花(M):行き場のない心だけを、置き去りにしていく。


優理(M):いうなれば、それは織姫と彦星みたいで。


向日葵(M):落っこちてしまったものは、無くなってしまったのかもしれない。


蓮(M) :もう、振り返っても、隠れてしまうのだろう。


陽花(M):鮮明せんめいに描く、流れ星の向かう先に。



  間



姫  :できた……っ!!


陽花 :できたね……っ!!


姫  :できたーっ!!!! やっとおわりーっ!!!!

    ゆーりセンパイ! ひぃセンパイ! レンにぃ! おきて!! おーきーてー!!


蓮  :ぬぉっ!! やべ、寝てた……!!


陽花 :全部終わりましたよ!! 後は印刷して掲示するだけです!!


向日葵:ほんとっ!? わかった! すぐに印刷所のおっちゃんに電話するね!


蓮  :鬼みたいな寝起きっすね。


優理 :お疲れ様。後は俺と槿むくげの仕事だな。


姫  :爆速でチャリ漕いでね!!


陽花 :頑張ってください……っ!


向日葵:ユーリ。はいこれ、データ。


優理 :おう。


蓮  :よっしゃ、いくっすよーっ!! ユー先輩、後の奴が先着いたやつに奢りっすからね!!

    んじゃ!! お先にーっ!!!!


姫  :うわ。清々しいほどに屑。


優理 :んじゃ、行ってくる。帰り、槿むくげに麦茶用意してやってくれ。


向日葵:うん、分かった。いってらっしゃい。


優理 :おう。



  エンジン音がかかり、少しづつ遠ざかっていく。



蓮  :(遠くで)えっ!!? ちょ、原付!!? そんなーっ!! 聞いてないっすよ!

    ユーせんぷあぁぁああぁぁいッ!!!!



  ~~~~終演~~~~



挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ