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8.制裁

 大吾は、森本大輝のバイクの後ろに乗った。

 普通、バイクの免許取得は最低でも十六歳からなのだが、当時の斎川市では無免許運転が横行していた。不良たちは中学生といっても体格がよく、高校生と見分けがつかない。警察も、あまり真剣な捜査はしていなかった。

 中学生がテキトーに調達したバイクのためか、ほとんどはやたらと派手な原付だった。大輝のバイクは一応125ccの単車だった。大輝と大吾の大男二人が乗ると、おもちゃのように見えた。

 車列は斎川市の中心部とは逆方向に、人気のない山道を進んだ。大吾はてっきり、東岸連合の主なメンツが集まる斎川市中心部に行くのだと思っていたので、少し怖くなってきた。こんな山中でボコボコにされたら、見つかるまで相当な時間がかかる。

 かつての自分の人生では考えられなかった展開に、大吾は怯えきっていた。唯一の救いは岡崎拓真も一緒に来ていることだった。仲良くはないが、知っている者が一人いるだけで心強いものだ。

 やがて車列は表道からそれて、未舗装の轍が刻まれた農道を通った後、人気のない神社に到着した。山の斜面を利用して作られた、立派な境内だった。

 大輝に続いて、大吾と拓真が進むと、参道の階段を登りきったところで、大量の不良たちが溜まっているのを見た。

 五十人くらいはいるだろうか。これほど大規模な集まりは、大吾は見たことがなかった。

 参道は開けられており、本殿の賽銭箱の前には、一人の少年が座っていた。


「お前が、稲垣大吾か!」


 少年は立ち上がり、大吾のところへ歩いてきた。

 とても小さな少年だった。髪を銀色に染めているが、童顔っぽく、不良には見えない。どちらかというと、小学生が背伸びして不良のマネをしているような出で立ちだった。特攻服が全然合っておらず、裾を引きずっているのが余計にそう思わせる。


「あれは東岸連合のリーダー、宮本純矢さんだ……」


 近くにいた拓真がつぶやいた。

 なんとなく風格はあったので、大吾もそう思っていた。ただし大吾は、中学時代に東岸連合と関わった記憶はほとんどなく、純矢のことはよく知らない。


「ははははは! お前、でっけーなー!」


 近寄ってきた純矢は、大吾の身体を見上げながら、ガキのように笑った。

 上島に歯向かった手前、東岸連合の連中に復讐リンチされると思っていた大吾は、少し気が抜けた。


「東岸にまだこんなデカいやつがいたなんてな。ルーカスとどっちがでかいんだ? おいルーカス、背合わせしてみろよ」


 ルーカス、と呼ばれたのは森本大輝だった。なぜ名前が森本なのにルーカスなのか、意味不明だったがとりあえず受け入れるしかなかった。

 言われたとおり、むすっとした大輝と緊張している大吾が、背合わせになった。純矢がおもしろそうに、じろじろとその様子を見つめる。


「身長は同じだけど、ルーカスの方がパーマの差で勝ってる!」


 純矢が言うと、不良たち一同からどっと笑いが起こった。

 大吾は特にこだわりのない長髪で、上方向には立っていなかったので、たしかに大輝のパーマには勝てなかった。

 大吾は、不良たちがあまりピリピリしていないことに気づきはじめた。むしろリラックスしている。一仕事終えたような感じだ。もしかして、不良を装っているだけでアットホームな感じの集団なのか。

 一瞬そう思った大吾だが、次の純矢の行動で、その希望はメタクソに破壊されることになる。


「稲垣大吾。今日はお前に見せたいものがある。ついて来い」


 そう言われて、純矢は境内の裏へ先導した。大吾たちがついて行く。

 そして、あまりの凄惨な光景に、大吾は言葉を失った。

 三人の、全裸の男が、角材で作られた十字架に、磔にされていた。

 体中アザだらけで、タバコの焼印も大量に入れられていた。若干出血もあった。三人とも意識はあるようで、うつろな目で大吾のことを見ているが、言葉を発する気力はないようだ。

 顔がアザだらけのため一瞬わからなかったが、大吾は彼らが、上島と、その取り巻きだということに、少し遅れて気づいた。


「お前、上島に勝ったっていうのは本当か?」


 言葉の出ない大吾に、純矢が話しかけた。


「う、うん」

「よくやってくれたな。おかげで上島たちを制裁する理由ができた」

「せ、制裁? 理由?」

「こいつら、瓜谷中で女、襲ってたんだろ。けっこう前から、東連も噂に聞いてたんだよ。俺たち、瓜谷中まで出ていく時間がなくて、自分で確かめられなかったんだ。だから保留にしてたけど、お前が女の子襲ってる上島を倒して、タクがそれを俺たちに報告した。だから正式に、制裁することにした」


 タク、と呼ばれたのは岡崎拓真である。大吾が拓真の顔を見ると、静かにうなずいた。どうやら拓真が見ていて、それを東岸連合へ報告された事で、このような事態になったらしい。


「『女には優しくしろ』。それが先輩たちから伝わる東岸連合のルールだ。上島はそのルールを破った。だから制裁した」


 なんと、制裁されるのは大吾ではなく、上島たちの方だったのだ!

 

「ほとんど喧嘩したことがないようなヤツに負ける上島は、瓜谷分隊のリーダーとしても認められん。上島は永久に破門じゃ」


 そう言うと純矢は、柄杓と大きな袋を持って上島に近づいた。

 透明の袋の中には、白い粉。どうやら塩のようだった。

 純矢は柄杓で塩をすくい、ふりかぶって、上島に思い切りかぶせた。


「あああああああああああ」


 傷口に染みるのか、上島は磔のまま身体をビクビクと震わせ、悶絶する。


「上島ァ! 次同じことしたら、その貧相なチ◯ポ切り落とすけんな!」


 純矢が鬼のような形相で叫ぶ。背後には、中華包丁をたずさえた大輝がいた。

 やばい。こいつら本気だ。

 大吾はそう感じた。絶対、東岸連合に逆らってはいけない、と思った。


「さーて、上島の破門の儀式はこれで終わりじゃ。戻るぞ」


 純矢の号令で、不良たちは一斉に移動し、神社本殿の前に戻った。中心では、純矢と大輝、大吾と拓真が向かい合っている。それを大量の不良たちが囲んでいる。


「なあ、お前あだ名とかないんか?」


 純矢が言う。


「い、一応、ダイゴロンって呼ばれてるけど」

「ダイゴロン? それゼル伝に出てきたやつじゃん! ははは! おもしれー! 気に入った! 俺もお前のことダイゴロンって呼ぶわ」


 オタク仲間にだけ呼ばれていたそのあだ名を純矢に呼ばれるのは、少し違和感があったが、大吾はビビってしまい、もはやこの男には何も逆らえなかった。


「ダイゴロン、お前、東岸連合に入ってくれるよな?」

「えっ?」

「入って、くれるよな?」


 純矢と大輝が迫ってくる。

 だめだ。とても断れる雰囲気ではない。


「う、うん」

「よおーし! 聞いたかお前ら! ダイゴロンが東岸連合に入ってくれるらしいぞ!」


 おおー、と不良たちから野太い歓声が上がる。

その中で、純矢が高らかに宣言する。


「俺は、ダイゴロンを東岸連合四番隊隊長に指名する!」

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