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8.作戦開始

 大吾とジャッカルは斎川中のいじめを止めるため、『サンサニー斎川』へ向かった。

『サンサニー斎川』というのは、斎川の西岸地区に当時オープンしたショッピングモール。昔は二本中にあったジャ○コのような、現代の巨大イ○ンと比べれば小さめの施設だ。とはいえスーパーマーケットより大きい店舗がなかった斎川市では当時最大の商業施設で、新しい工業地帯と一緒に発展を続ける斎川氏西岸地区の勢いを象徴づけるものだった。

 この『サンサニー斎川』では、多くの店舗が入る本棟とは別の建物でゲームセンターがあった。その裏の暗い駐車場エリアが、斎川中の生徒のたまり場になっていると、ジャッカルが教えてくれた。

 大吾もこの『サンサニー斎川』へは、両親と一緒に買い物へ来たり、あるいは新作ゲームを求めて友人たちと自転車で来たりして、馴染みのある施設だった。

 全体の雰囲気は明るく、不良たちのたまり場というイメージはなかったのだが、当時のゲームセンターは不良のメッカだったのだ。

 平日の夕方。大吾とジャッカルが『サンサニー斎川』のゲーセン裏に着くと、すでに斎川中の生徒が何人か、たむろしていた。

 何が行われているかは、大吾にはすぐにわかった。

 いじめられてる生徒が一人。その男子は、太っていた。周囲の数人が、デブとかブタとか、お決まりの文句を言って、いじめが行われていた。

 大吾自身、太っているからその言葉とは無縁でなかった。


「ダイゴロンさん、俺が先に行きましょうか?」


 ジャッカルに言われたが、大吾はすでに、スイッチが入っていた。


「いや。ここは僕にまかせて」


 他校の生徒のいじめを止めるなんて、一体どうすればいいのか大吾にはわからなかったが、自分と似た境遇の男子生徒を見て、急に同情の気持ちが湧いていた。


「何しとんじゃお前らあああ!!」


 大吾は、自分でも驚くほどのどすが聞いた大声を上げて、集団に入っていった。


「う、うわっ、なんだこいつ」

「デブをいじめるんじゃねええええ」

「なんかわからんけどやばい、逃げろ」


 大吾が凄むと、いじめていた斎川中の生徒たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。


「ダイゴロンさんすげー! 一人でやっちまった!」


 ジャッカルが隣で大喜びしている。何もしていないが、ジャッカルにとっては弱くて何もできなかった頃の自分を取り返すような気持ちで、心強かったのだろう。

 その後、いじめられていた生徒に、もうあいつらと関わるんじゃないよ、などとケアをして、二人は『サンサニー斎川』を去った。

 大吾の迫力がすごかったので、いじめられていた生徒もビビって動けなくなっていた。自分たちは悪者ではない、とフォローしておかないと、誤解されるのではないか、と思ったのだ。


** *


 その後も、大吾とジャッカルのペアで、斎川中のいじめを見つけては、止めるのを繰り返した。

『サンサニー斎川』のゲーセン裏は、大吾たちの噂が流れたのが、すぐに斎川中の生徒が現れなくなったため、その後はジャッカルの記憶で、斎川中に近いコンビニや公園などを中心に、いじめを潰してまわった。

 大吾は、不良たちに翻弄された瓜谷中で育ったからわからなかったが、斎川市西岸では本当にいじめが横行していて、学校の外でも公然と行われていたし、女子どうしや小学生などの姿もあった。大吾たちは斎川中の男子グループに限って活動をしていたが、それだけでも、大吾とジャッカルでは追いつかないほど、あちこちでいじめが発生していた。

 一週間ほど活動を続け、大吾とジャッカルは『斎川公園』に来た。

 『斎川公園』は斎川中のすぐ近くに作られた広めの公園だ。広い芝生のエリアや遊歩道などがあり、一番端にあるトイレの近くが、斎川中の生徒のたまり場になっているとの事だった。

 この日も、二人はいじめの現場を見つけ、大吾が突っ込んでいた。

 いじめの理由は共通していることがあって、必ず身体的特徴だった。太っている、背が低い、歯並びが悪い……こうしたしょうもない理由を見つけては、罪のない誰かを攻撃する。大吾は、普通にそれが許せなかった。


「何しとんじゃお前らあああ!!」


 大吾が、いじめている生徒たちに突っ込んでいった。

 ところが、この日は少し、様子が違った。

 いじめている生徒たちは、大吾を見かけると皆でアイコンタクトをして、「逃げろ!」という言葉を残し、すぐに去っていった。

 もちろん大吾の勢いを感じてのことだと思われたが、それにしてはチームワークが整っていた。はじめから、大吾が来たら逃げるのが前提だったようだ。

 案の定、大吾の違和感は当たっていた。

 公園の奥から、別の集団が現れたのだ。


「お前か、斎川中の生徒をいじめているヤツは」


 皆、斎川中の学ランを着ていて、皆、細長い布の袋を背負っていた。

 あれは竹刀や木刀を入れる袋だ。瓜谷中にも剣道部があったから、大吾は知っている。

 斎川中の剣道部。

 と、いうことは……


「僕は、斎川中の古川。剣道部のキャプテンだ」


 中心にいた、メガネをかけ、背の高い生徒が古川だった。

 おそらく取り巻きは剣道部の連中だろう。

 武道系の部活動は、大吾がタイムリープ前に経験した相撲部もそうだが、その力で他人に危害を加えないようにきつく指導を受ける。もし破ったら、破門になりかねない。

 だから、この連中がただちに大吾たちへ襲いかかってくるとは思わなかったのだが、一方で明らかに、大吾へ侮蔑の視線を向けていた。

 大吾はその雰囲気で察していた。

 自分たちは、良かれと思って斎川中のいじめを一つずつ潰していたが。

 斎川中の生徒からすれば、他校の生徒が突然、自分たちの聖域へ踏み込んできたことに変わりなかったのだ。


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