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7.言い出しっぺの法則

 斎川署、というのは言うまでもなく、斎川市を管轄する警察署のことだ。

 これまで、不良たちで好き放題やっていたことに、大人たちの介入はほとんどなかった。大吾が生きてきた現代だったら即補導されそうな不良たちであるが、この時代はまだ、そこまで警察や教師などは介入してこなかった。殺人とか強盗とか本当にやばい事件でなければ、不良でも警察の世話になることはまずなかった。

 しかし、相手の親が斎川署の刑事となれば話は変わってくる。

 大吾は、タイムリープしてくるまで警察の世話になるような悪事は一切してこなかったが、現場監督の仕事をしていた頃、何度か警察と話をしていた事がある。

 いずれも、大吾の下につく職人たちがなにか事件を起こしたり、あるいは前科があって聞き込みを受けたというような事だった。

 警察は、些細な事なら泳がせておくこともあるが、本気になったら一般人ではかなわない力がある。一人の人間に何人もの刑事がついて、捜査するのを大吾は知っている。

 だから、斎川中の古川の父親が刑事だというのは、非常に厄介な問題だった。自分の息子のためなら、地元の不良にはノータッチという暗黙の了解が破られるかもしれない。

 大吾は、一連の会話で、東岸連合では一番頭の切れる祐が、警察の恐ろしさを知って、総攻撃をしたがっている仲間たちを制止しているのだとわかった。

 

「うーん。やっぱりだめか? 俺は手っ取り早い方法が好きだけどな」


 純矢が首をかしげる。

 大吾も、総攻撃なんて目立つことはよくない、と思うが、一方で純矢が総攻撃と口にした時、取り巻きたちがおおーっ、と威勢のよい声を上げたことを、大吾は聞き逃さなかった。

 おそらく東岸連合の皆は、斎川中の古川に対して相当な敵意を持っている。

 それがガイアの死のためなのか、あるいはジャッカルのようにいじめられていた者の恨みなのかはわからないが、リーダーの純矢は、東岸連合のメンバーたちの怒りの気持ちをコントロールしないと、リーダーとしての信用を失うだろう。

 リーダーに不満のある集団が、うまく動かなくなって、最後は反旗を翻すというのは、大吾の現場監督時代の経験で、よくわかっていた。

 そして大吾は、こういう時の対処法を、自分なりに心得ていた。


「まずは、斎川中でいじめをしている子をシメて、一人ずついじめられている子を減らしていくのはどうかな」


 大きな課題ではなく、目先にある小さな課題から片付けていくのだ。

 人間は、自らの手に負えない大きな課題を抱えると、それがストレスになって、疲労し続けてゆく。そこで自分で解決できる小さな課題を解決することで、成功体験となり、自信もついていく。いずれ、最初は手に負えなかった大きな課題も、クリアできるようになってゆく。


「なるほどなー。でもそんなことしてどうなるんだ? 古川と関係ないじゃん」


 純矢がそう言った。真っ向から反対しているわけではなさそうだが、完全に納得もしていないようだった。


「僕も、まだ全部、計画を立てられたわけじゃないけど……いじめをする生徒を一人ずつ減らしていけば、古川の指示で動いている人間が減るってことでしょ。そうしたら、古川の信頼がだんだん落ちていくんじゃないかな。いきなり真っ向から行くんじゃなくて、まずは古川の周囲の力を剥いでいくんだよ」

「なるほど。みんなそれでいいか?」


 純矢が周囲に聞くと、


「俺はええで」


 祐が答えた。

 周囲の取り巻きたちも、おおーっ、と同意の声をあげる。

 ただ一人、大輝だけは何も言わずに顔をしかめたままだった。しかし大輝は普段から何も言わないのが普通なので、反対はしていないと受け取る他なかった。

 その時、ざわめいている取り巻きたちの中から、ジャッカルが声を上げた。


「あの! だったら俺、最初にやらせてください!」


 ジャッカルが、かつて斎川中でいじめを受けていたのは、すでに聞いた話だ。

 過去のいじめに復讐したいという気持ちは、大吾にもわかる。もっとも、いじめられた者が復讐を成し遂げるのはかなりハードルが高いので、心配な気持ちはあるが。

 祐が、気持ちを高ぶらせるジャッカルに近づいて、肩を叩いた。


「そんなら、ジャッカルは今日から四番隊やな。大吾と一緒に、斎川中のやつシメてこい」

「うっす!」

「……えっ、僕がやるの?」


 大吾はしまった、と思った。

 確かに発案したのは自分だったが、なんとなく、東岸連合の皆で協力してやるものだと思っていた。


「当たり前やろ、言い出しっぺの法則やん」


 祐が笑った。

 それから、小声で大吾に耳打ちする。


「心配するな、俺も後ろでおるから。お前が四番隊隊長として、東岸連合で名前を上げるにはぴったりの機会やんか」

「う、うん。それはそうだね」


 大吾は上島に勝ったというだけで、いきなり四番隊隊長に指名されたが、それ以外の成果はない。東岸連合のメンバーは大吾がどういう人間なのか、まだよくわかっていないはずだ。

 だから祐の提案は、大吾にとってもメリットのあることだった。


「ダイゴロンさん! 明日から斎川で悪いやつシメましょう! 俺、斎川中のやつらがいじめに使う場所だいたい知ってるんす!」

「ああ、うん、いじめられてたもんね」

「そうです……でも今の俺はもうそんな弱い存在じゃないっす!」


 ジャッカルの健気な姿は、大吾にとっては、中卒で入ってきた若い職人がひたすら頑張っているのと同じように映った。

 頑張っている子は、ちゃんと育てなければいけない。人の上に立つと、そう思うものだ。


「うん、一緒にがんばろう」

「うっす!」


 こうして、東岸連合による、斎川中いじめ根絶作戦が始まった。


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