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6.作戦会議

 大吾が斎川中へ潜入したあと、純矢の号令で、東岸連合の隊長たちが集まることになった。場所は、上島への制裁が行われたあの神社だった。

 大吾はバイクを持っていないので、一人だけ自転車で向かった。すでに現地には、三台のバイクが停まっていた。

 純矢、大輝、祐の三人が、賽銭箱の前に座ってたむろしていた。

 他の隊員たちもいたが、あくまで取り巻き、といった感じで、周囲から三人を見ていた。その中には、先日大吾と一緒に斎川中へ潜入したジャッカルもいた。


「あれ……? もう一人、二番隊の隊長は?」

「イソか? 来いっつったんやけど、来てねえな」


 大吾が言うと、純矢がつまらなそうに答えた。隊長が全員集まるという話だったが、皆三番隊隊長の磯崎翔太が不在でも、特に気にしていないようだった。携帯のないこの時代、約束した場所に来なければ、それ以上確認する術はない。頻繁にバックレるヤツもいた。磯崎翔太はそういうヤツなのかもしれない。


「ダイゴロン。お前、斎川中、見てきたんだってな」

「う、うん」

「俺の言った意味、わかったか? 地獄絵図だろ」

「うん……あんな、ひどいいじめがあるなんて思わなかった」

「東岸の奴らは、喧嘩が強ければ偉いし、喧嘩せんヤツには手出さんっていう暗黙のルールがある。東岸連合はみんなそれを守ってきた。でも斎川中には、そういうルールはない。だからあんな地獄みたいな事になる」


 純矢の言うとおりかもしれない、と大吾は思った。大吾の高校時代、相撲部の友人に中学時代、デブだからいじめられていたという同級生がいた。大吾はその手のいじめに遭遇しなかったので、当時はよくわからなかったのだが、今になってその同級生に気持ちがわかった気がする。思春期真っ盛りの中学生たちは皆、暴力的な一面を持っていて、ヤンキーじゃないから素行がいいという訳ではなく、隠れていじめに興じるヤツも多いのだ。


「だから俺は、古川克也を倒して斎川中を解放してやりたいんや」

「ちょっとまって。いじめと、斎川中の古川くんに何の関係があるの?」

「ああ、そこは知らんままなんか。斎川中ってな、一クラスに必ず一人、いじめのターゲットになる生徒が男女で一人ずつおるんや。おかしいと思わんか?」

「た、確かに。クラスで決めるものじゃないよね」

「で、そのターゲットを決めてるのが、古川なんや」

「どうして……そんなことをするの?」


 本当だとしたら、古川は極悪人である。しかし大吾には、その理由がわからなかった。自分がいじめを行い、それで快楽を得る(あってはならないことだが)ならともかく、学校中のいじめを取り仕切る必要性はよくわからなかった。


「理由は、俺らにはわからん。でもとにかく、古川の認めたターゲットでなければ、いじめてはいけない決まりになってるらしい。斎川中へ転校したヤツがそう言ってるから間違いない。どんな理由でも、あんなアホないじめは放置したら駄目だ」

「転校したヤツって、ガイアさんの元彼女の聖子さんの事?」

「あっ? お前、聖子の事知ってんのか?」

「うん。ジャッカルと一緒に潜入した時、偶然会ったよ」

「聖子と話したんか!?」


 純矢が身を乗り出して、大吾に迫ってきた。こんなに食いつかれるとは思わなかった。


「う、うん。その時は聖子さんの事知らなかったから、ちょっと話しただけだよ。東岸連合の者だって言っても驚かなかったから、何かあるのかなって」

「そ、そうだったんか……聖子、ガイアさんが死んでから、東岸のヤツとは全く話してなかったんだよな」

「そうなの?」

「親の方針らしい。東岸の不良とは一切関わるな、って。俺らは聖子、助けてやらなあかんのに」

「助けるって……もしかして」

「そうじゃ。聖子、斎川中でいじめのターゲットになっとる」


 大吾は息を飲んだ。美人すぎる故に他の女子から目をつけられ、いじめられるということはいかにも有り得そうな話だった。


「死んだガイアさんのためにも、俺たちは古川を倒して、斎川中からいじめをなくして聖子を助け出さなあかん。これでわかったか? 俺たちが古川を倒したい理由が」

「うん……それなら何となくわかったかも」


 要するに純矢は、いじめをなくすという善意ではなく、聖子を助けるという目的のために東岸連合を動かして、古川を倒そうとしているのだ。

 聖子の話をする時、純矢は明らかに目の色を変えていた。もとはガイアさんの彼女だったという話だが、あれだけの美人なら、純矢が聖子に惚れていたとしてもおかしくはない。

 

「今日は、そのための作戦会議をするぞ」


 純矢はそう言って、地面に簡単な地図を書いた。斎川と、その先の西岸にある斎川中、斎川西中が描かれた。


「東岸から見たら、斎川中より先に斎川西中がある。俺たちはまず斎川西中におる西岸連合のやつらを倒さないかん」

「うん……うん?」


 急にヘンな話になって、大吾は頭を抱えた。ゲームの戦争の話みたいだ、と大吾は思った。


「いや、ちょっとまってよ。確かに西中は斎川中より手前にあるけど、別に関係なくない?」

「なんでだよ? いきなり斎川中に俺たちが攻め込んでも、後ろから西岸連合の奴らに攻撃されたら、斎川中と斎川西中で挟み撃ちにされるだろ。挟み撃ちされたら戦争に負ける、って社会の先生が言ってたぞ」


 不良のくせにちゃんと授業聞いてるのか、と大吾は笑いそうになったが、必死でこらえた。


「いや、斎川中には西岸連合の人なんかいないんだよね? 西岸連合が東岸連合を攻撃する理由、特にないでしょ」

「東岸連合と西岸連合は昔から仲悪いんだよ。西岸に攻め込んだ時点で戦争になる」

「じゃあさ、西岸連合って今、全部で何人くらいいるの?」

「確か十人ちょっとだな」

「それ、ただのお友達の集まりだよね。全員集合したら百人近くいる東岸連合に勝てる訳ないでしょ。しかも斎川中には、僕たちみたいな喧嘩できる不良いないんだよ。戦力的には僕たちが圧倒的に強いんだよ」

「……確かに」


 純矢は、すぐに納得した。


「ダイゴロン、お前頭いいな! よっしゃ! 楽勝に決まってるなら、さっさと総攻撃かけるか!」

「いや待て、純矢」


 黙って聞いていた祐が、初めて口を開いた。


「ガイアさんがそうしなかった理由をよく考えろや……古川の親父は、斎川署の刑事なんやろ」

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