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第9話 (勇者視点)自慢の聖剣が錆び付く

「ここだぜ……ここがザハラ砂漠だ」


 勇者ロベルト率いる勇者パーティーは目的地であるザハラ砂漠に来ていた。当然のように日中の砂漠は日陰などない為、猛烈に暑かった。


「……あ、暑い」


 回復術士であるセリカはそのあまりの暑さに辟易していた。


「セリカ、待ってて」


 魔導士のルナリアはセリカに氷結魔法(コールド)をかける。無論、モンスターを相手する時のような強烈な威力で放ったわけではない。心地良い涼風程度の冷気だ。


「あ、ありがとう、ルナリア。涼しい……」


「何をへこたれてるんだ! 本番はここからだぜ!」


 ロベルトはパーティーメンバーに喝を入れた。


(俺達のパーティーは完璧になったんだ! もうあの闘えもしない無能野郎! 鍛冶師のロキなんてうちのパーティーには必要ないって事を証明してやるぜ!)


 ロベルトは一人で意気込んでいた。ロキがいなくてもパーティーが問題なく回るという事を証明しようと躍起になっているのだ。


「気を付けてください! 何かが来るようです!」


 剣聖であるフレイアが注意を促した。独特な直感を彼女は持っていたようだ。他のメンバーよりも早くに、そいつの気配に気づいたようだ。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!


 突如として地響きがする。


「へっ! おいでなすったようだぜっ!」


 砂漠に蟻地獄のような巨大な渦が出来る。足元を掬われると、そのまま渦の中に飲み込まれてしまいそうになる。

 

 そして、その蟻地獄の中から、突如として巨大なモンスターが姿を現した。巨大なミミズのようなモンスターだ。


 『サンドワーム』という、砂漠地帯に生息するモンスターだった。ただのミミズではない。普通のミミズとは違い、巨大な口を広げ、鋭い牙を持ち合わせていた。本当の脅威はその牙ではないが……。


「……へっ! 見せてやるぜ! 『サンドワーム!』この俺様の聖剣エクスカリバーがあればあの鍛冶師のロキなんて必要ないってことをなっ!」


 一体、誰がその聖剣エクスカリバーを作ったというのか。当然のようにロベルトが作ったわけでもない。だが、ロベルトはその恩恵などすっかりと忘れ去り、自分の手柄のように思い込んでいる節があった。


「フレイア、とりあえずはここは俺様の活躍を黙って見守っててくれ」


「……良いのですか? あのモンスターは大変危険な存在に見えるのですが……」


「へっ……あの程度のモンスター、この俺様が一捻りしてやるぜっ! 行くぜ、『サンドワーム』!」


 ロベルトは聖剣エクスカリバーを構え、斬りかかる。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 ――しかし。


「な、なにっ!?」


 『サンドワーム』が突如、口から唾液を吐きかけた。『サンドワーム』の唾液は当然のようにただの唾液ではなかった。強い酸性を帯びていたのである。例えそれが伝説級の武器である聖剣エクスカリバーであれど、錆び付かせてしまう程に強力な酸を。

ロベルトは突然の攻撃に、避ける事ができずにまともに酸を受けてしまう。そう、ロベルトの自慢の聖剣エクスカリバーがどっぷりと酸に漬かってしまったのだ。


「ロベルト! あ、あんた大丈夫なの!?」


 ルナリアが声をかける。


「へっ! こんなのまぐれ当たりだぜ! 大した事はねぇ! 気を取り直していくぜっ! おらああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 ロベルトは『サンドワーム』に斬りかかる。


「……お、おかしいぜ」


 ロベルトは異変に気が付いた。いつもであれば聖剣エクスカリバーの一撃であれば、『サンドワーム』を一刀両断にしてしまえるほどに恐ろしい切れ味と威力があったのだ。だが、今の攻撃は『サンドワーム』の皮膚の表面を傷つけるに留まる。


 その程度の傷では恐ろしい程の回復能力を持っている『サンドワーム』は一瞬にして回復してしまい、致命傷には足りえなかった。


「な、なんでだ! どうして俺様の攻撃が効かねぇ! ま、まさか! ……」


 ロベルトはやっとの事で原因に気がづいたようだ。


「さ、さっきの酸の攻撃で、俺様の聖剣エクスカリバーが錆び付いちまったのか……」


 そうなのである。先ほど『サンドワーム』が放った攻撃により、聖剣エクスカリバーが錆び付き、切れ味が半減してしまったのである。


「ば、馬鹿な! こんな事あるはずがねぇ! この俺様が!」


「何やってるのよ! ロベルト! 前を見なさい! 敵はまだ健在なのよ!」


 ルナリアが叫ぶ。


「なっ!?」


 キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!


 獰猛な叫び声が響く。


 『サンドワーム』はその獰猛な牙でロベルトに食らいつこうと、物凄い速度で襲い掛かってきたのだ。


 ロベルトの背筋が凍り付く。突如として死の恐怖に支配されたのだ。


 ――と、その時であった。


 一振りの剣が走った。


 フレイアの剣だ。


 サンドワームの動きが突如と止まった。


 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 サンドワームが断末魔を上げて果てた。


「お、俺様は生きているのか……」


「手を出すなとおっしゃっていましたが、少々危ういようでしたので……」


 フレイアは告げる。呆れたように溜息を吐かれる。


「さ、流石は剣聖様だ……すげぇ剣の技じゃねぇか。あの『サンドワーム』を一撃でなんてよ。そ、そういう演出だったんだよ。俺様がピンチを演じて、それであんたの剣の腕を見たかったんだ。今回はそういう趣旨の演習の場だったんだよ……」


 ロベルトは見苦しい言い訳を並び続ける。


「こ、この分なら当分あんたに期待できそうだな……」


「あまり私に期待しないでください……この剣を見てください」


 フレイアは指し示す。剣には明らかなヒビが入っていた。


「先ほどの戦闘で更なる負担がかかってしまったようです。そう何度も剣が負荷に耐えられません……次の戦闘ではヒビどころか、真っ二つに割れてしまうやもしれませぬ」


「そ……そうか……なんだ。そうだよな……はぁ」


 ロベルトは溜息を吐いた。


「それを防ぐためにはやはり早急に鍛冶師ロキ様にお戻り頂かなければなりませぬ。彼に新しい剣を拵えて頂かなくては……」


(くそ……あんな野郎! いなくたってなんとでもなるぜっ! その事を証明してやるっ!)


 ロベルトは次の機会による活躍を心に誓った。その為にはこの錆びてしまった聖剣エクスカリバーを修復しなければならなかった。


 だが、当然のようにロキはもうパーティーに戻ってはこない。戻って来ない事を誰よりもロベルトは知っていた。だったらどうする? ロベルトは考えた。


(だったら簡単だ! 鍛冶師なんて他にいる! 隣国に鍛冶が盛んな『ルーベンス』って国があるんだっ! そこにいる鍛冶師たちに頼んで、この聖剣エクスカリバーを直して貰えばいいっ! それで次こそはかっこいいところを見せて、信用を取り戻してやるんだ!)


 こうして、ロベルト達は『ルーベンス』という、鍛冶が盛んな国へ向かうのであった。


 だが、その国へ向かった事がロベルトを更なる窮地へと追い込んでいく事になるとは、その時の彼には知る由もない事であった。


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