第17話 多頭竜(ヒュドラ)との闘い
俺の目の前には待ち構えるようにして大きな扉が聳えていた。
退路などはない。気をつけつつも、前に進むより他になかったのだ。
ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!
鈍い音を立て、巨大な扉が開け放たれる。
扉の先は巨大な空間になっていた。俺が中に入ると、扉が音を立てて閉まった。そして、再び出られないようだ。どうやら逃がすつもりはないらしい。そういう仕組みになっているようだ。
まるで地獄の底から湧き上がってくるかのように、突如として巨大なモンスターが姿を現した。
前に闘った竜と似たようなモンスターだった。間違いなく竜種族ではあるが、標準的な、誰もが想像するような竜ではない。
その竜は頭がいくつもあったのだ。こういった種族のモンスターの事を、多頭竜と言う。
この多頭竜はそれぞれ、異なる属性の竜の頭を有しているようであった。氷から雷、地、光、闇。多種多様な属性を持っている。
俺は剣を構える。
やるしかなかった。あの時のプラチナゴーレムと同じだ。とても会話が成立するような相手ではない。
やるか、やられるか。闘いというのは常に二つに一つしかないのだ。
「「「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」」」
「くっ!」
多頭竜が持つ無数の頭が叫び声を上げる。その音量は凄まじく、思わず耳を塞いでしまいたくなる程だ。
多頭竜は叫び声を上げた後、その多数の頭から無数の息吹攻撃を放つ。
多種多様な息吹が咲き乱れ、この空間を無茶苦茶に破壊していった。俺は避けるので精一杯だった。
いくら『アダマンタイトプレート』を装備しているからと言って、竜のブレスをそう何度も受けて無事で済むわけがない。攻撃というのは受ければ相当なダメージを負うものだ。当たらないに越した事はないのである。
「はあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
俺は攻撃する。剣が走った。多頭竜の皮膚は抉れる。
……いける。
多頭竜の皮膚は確かに硬いが、それでも普通の竜と同程度のものだ。あのプラチナゴーレムより硬くはない。今の俺の装備だったら問題なく通用する。
だが、問題なのは多頭竜の攻撃面だ。多頭竜は多種多様の息吹攻撃を放ってくるのだ。
その攻撃は凄まじいものがあった。当たったら無事では済まない事だろう。
だが、俺は攻撃を避け続けた。鍛冶師という、本来は闘う事のない生産職ではありつつも、この地下迷宮に捨てられてからというもの、必要に駆られて俺はずっと戦闘行為を続けてきたのだ。
その結果、鍛冶師ではありながら、俺は数多くの戦闘経験を積んで来た。その積み重ねが自分でも知らないうちに勘として機能するようになる。
無意識のうちに多頭竜の放つ数多の攻撃を避ける事ができるようになっていた。
「はあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
唸り声と共に、俺の剣が走った。
俺は数多ある、多頭竜の数多のうち、一本の頭を斬り落とす事に成功した。
「次だ!」
俺は次なる多頭竜の頭を狙う。
◇
どれほどの時間が経っただろうか。永遠にも思えるような長い時間が流れたような気もするし、振り返れば一瞬の事のようにも感じられた。だが、闘っている最中はとてつもなく長い時間に感じられるような。そんな矛盾を抱えた瞬間の出来事だったのかもしれない。
「はああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
唸り声と共に、俺の剣が走る。今まで、俺は数多の多頭竜の頭を斬り落とした。その数、合計6本。残るは1本だけだった。
グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
多頭竜が最後の断末魔を上げて、果てた。
「はあ……何とかなったか」
俺は胸を撫で下ろす。多頭竜は断末魔を上げた後、光になって果てる。
そして、一つのアイテムをドロップしたのだ。
魔石。
天使や悪魔。あるいは上位の竜。限られた強力なモンスターを倒した場合にだけ手に入れる事ができる魂の結晶。
それが魔石である。この魔石は伝説級の武器や防具を作る時に、必要になるアイテムだ。
「……こいつと『ヒヒイロカネ』があれば伝説級の武器が作れるな」
鍛冶師としての心が躍った。条件は整った。
こうして俺は伝説級の武器を作る事にしたのだ。