バレンタインデーには“N°5 ロー”は居ない ③
何とか間に合いました。
修正は明日以降<m(__)m>
ここからしばらくはミスディオさんが語ります。
窓の外にライトアップされた観覧車の見えるそのスィートルームは、セミダブルのベッドが離れて置かれていた。
その頃の私は、まだ“最後”まではしないお店で働いていたので…
一晩の契約で寄越されて、
嫌な予感しかしなかった。
でもお金は欲しいし必要だったので、受けた。
「ああ…契約外でヤられちゃうんだろうな。
でも、お互いの合意で、店の女の子が勝手にやったこととケツまくられるような結果にはなりたくない…
とにかく肚くくって、危険な目には合わないように
あと、絶対に!と6連につながったキャンデーのようなそれごとバッグの中に入れておいた。
そんな状況だったので、ヤられた後は、また枕を抱いて隣のベッドに逃げこめるかもと考えていた。
で、肝心のそのオトコは、窓際の白いテーブル(そこにはルームサービスでオーダーされたであろう物で溢れかえっていたのだが)の前で蹲っている半ば呆けた酔っ払いだった。
最低だ。
歳は若い。
多分、私より少し上
でも、何だろう
およそこのスィートルームには似つかわしくない“くたびれ感”があった。
「あの、お呼びいただきありがとうございます。初めに説明しておきますが、私どもは風営法の規制があって性行為類似サービスしか提供できません。」
「は?」
そのオトコは一瞬ポカンとしてから力なく笑った。
「ああ、そうなんだ。うん まあ いいよ うん 別に」
私がいよいよヤバさを感じた時、スマホが鳴った。マネージャーからだ。
私はオトコの前を横切り大急ぎでバスルーム側へ駈け込んで電話をとった。
いきなり能天気な声が話し始める。
『着いたか?、客居るか? そうか、オトコか? うん、いや、女からの電話だったからよ! 予約がさあ。
オンナとヤる場合はまた違った話になるからよ、うん更に上乗せできる
んーなに?? おうっ! 目いっぱいカモってっからよ
その代わり 皆まで言わせんな
お前向きだろ? カネの匂いのする話は
まあ、シッカリとヤんな』
私
ちょっと肩を竦めて戻ってくると
いきなりオトコに言われた
「帰っていいよ。その封筒にカネ入ってるから。もう事務所?と連絡取れたんだよね。オレ要らないから。封筒の中身確かめて、帰っていいよ。オレはシャワー浴びて来るから、その間に消えてくれたらありがたい」
ヨタヨタとバスルームへ歩いて行くオトコを見送って、ナンダコイツ と思う。
でも、テーブルの隅の白い封筒を手に取ったら、バカにされたように軽い。
腹立ちまぎれに確かめると、中身は綺麗な女文字の手紙だった。
『匠さんへ
すべては紗英の遺言に沿って用意しました。
あの子との思い出の場所で、
貴方にはお辛いでしょうが、
私が貴方から奪い取った指輪の代金として、愚かな親がやってしまった事として、
どうか全てをお受け取り下さい』
私が封筒を間違えてしまったのだ。
“私向け”の封筒は
オードブルの皿の脇に
無造作に投げ置かれていた。
中身を確かめると“法外な”金額だった。
「まだ居たのか?」
しばらく動けないでいた私は
背中から声を掛けられた。
「なんだ、手紙も見たのか そう、すべては演出だよ。こうすれば類似じゃない、本当のサービスが受けらるかなと言う下心」
私はキッ!と男を睨んだ。
「ひと、なめんなよ! わざわざこんなスィートルームをリザーブして、法外な金額を支払わなくても、ヤらせるオンナはごまんといるし私もそうだ!」
「ふん! だからどうだっていうんだ!」
私、だらしなくソファーに身を投げているカレに向かって怒鳴った。
「シャワー浴びてくるから!
首洗って待ってろ!」
ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!
なんで私なんだ!
なんで!
なんで!!!
うっかり髪にかかった水滴と涙をギュッ!と絞って
鏡の中の私に
私は言い含めた。
私は器、私は器、私は
ただの
器
と
。。。。。。。。。
最初は無理やりくちびるを奪って
耳元で
匠さんって囁いた
それから
出来る限り
私の全てを砕いた。
長い時間を掛けて
手の中のものが
ようやく形を成した時
私はキャンデーのパッケージを嚙み破いて
中身を口に含んで
覆いかぶさった。
やがてカレが
「紗英!!」
と叫んでくれて
私は
私は
いっぱい
感じてしまった…
。。。。。。。。。
カレをきれいにしてあげて
寝入った後に
私は隣のベッドから抜け出して
そっと着替えて
逃げ出した。
もうこれ以上は居られなかった
とうに終電も過ぎた真夜中の道を
私は鬼のようにズンズン歩いた。
そう
鬼は外
なのだ。
もう中途半端はイヤだ!!
私は店を移る決心をした。
“全てを受け入れる”サービスの店に
移る決心を
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こういう事があってから
私はバレンタインデーに仕事はしないの。
心も体も
“紗英”さんに持って行かれそうな気がして…
わかるでしょ?
今の私の源氏名のわけ
カノジョと同じ名前にして
色んな事から
私自身を
守っている…
ミスディオさんはいつの間にか
グラスを手放して
私のテーパードシルエットのパンツの内ももをキラキラの爪で
規則正しく引っ搔いていた。
そしてもう片方の、“例の爪の丸い人差し指”で私の手の甲を
愛撫していた。
そしてゆっくりと私の髪に顔を埋め
シャンパンの香りの吐息を
私の耳に流し込んだ
「ウチに来て…」
バレンタインデーのその夜
私はミスディオさんに寄り添って
店を出た。
。。。。。。。。。
イラストは
ミスディオさんです。
通勤電車の中
お絵かきアプリで大急ぎで描いたので…(^^;)ですが…
ミスディオさん。 珠子センセイと系統は同じですね(^^;)
でも、ミスディオさんだと、目の表情を強めに描けました。不思議…
ずっと昔
私は飲み友達から
似た話を聞かされました。
でもカノジョは
私を必要とはしなかった。
カノジョを抱きしめてあげたかったのに
私はポンコツで…その度量も、魅力も
何にひとつなかった。
せめて一緒にいる間は我慢して
家に帰って
独りで泣くことしかできなかった。
だから
私は
華恵さんに嫉妬してしまう…