バレンタインデーには“N°5 ロー”は居ない ②
第2部分です。
「『地酒にはまるヤツはドン●リにもはまる』ってすかしたフェラーリ乗りが言ってたけど、ホントのところどうよ?」
「いや、価格帯違うでしょ? 720㎖で数万円する日本酒はそうは無いもん」
「だよね、だからアイツの事は気に食わないんだ。一時は毎日のように呼んでくれたお客だったから、1回は助手席に乗ってあげたけどさ。まあそれはさておいて! 香りの変化とかそういうところが、どうかなっ?って」
「うん、それは分かる気がする、ナマ言っちゃうと」
「良かった」
「えっ? あ、うん、飲ませてくれてありがとう」
「そうじゃなくて」とミスディオさんは私の手に自分の手を重ねて言う。
「私のウチの冷蔵庫に『P2』ってのが入ってるんだ。飲み比べてみない?」
「えっ?!」
「華ちゃんならいいんだ、私」
「でも、アンタの家で飲んだら私、ホントどうにかなっちゃう…まだ月曜だし」
「ふふ、この際、会社でリア充アピするのも良くない?」
なるほど、それが良いのかもしれない、今の私には…
でも、そうなると
私はこの人の魅惑に抗えない気がする
そうしたら臆病な私は
きっと…
「華ちゃん!『切ない』ってのはね、こういう時に使うのよ」
ミスディオさんは私の手の甲を軽くつねって、グラスを呷った。
佐藤ちゃんはすかさず新しいグラスにドン●リを注ぐ。
さらに華やかな香りが辺りを覆う。
カノジョに似つかわしい
そんなカノジョなのに
毒を吐く。
「義理チョコはまだいいのよ、他愛がないから。でも義理でするエッチはどうなのかな」
「えっ??!!」
「私の仕事は、さ。人類史上最初のお仕事なんだって、そしてその開闢以来、女性たちからは蔑みの対象となった。それは分かる。
でもね、だったらね、『アイドルやイケメンのあの人を思い浮かべてする』とか『耐え忍んだ自分に後でご褒美をあげる』とか『そもそも修行』とか言うの、止めて欲しい。
そんなんだったらウチらと変わんないじゃん!
そうね!ごはん作ってあげたり、洗濯してあげたり、色んな事もしてあげてるんだよね。でもねウチらだって色んな事、してるよ。お金と引きかえに。
アンタたちのダンナやカレがアンタたちには絶対しないしやらせないような事、してるよ」
私はミスディオさんの暴走が悲しくて、カノジョの手を握り返した。
カノジョ、少し落ち着いて、またひと息にグラスを開けるとため息をついた。
「もったいない飲み方してるね。 せっかく醸し出ている香りを踏みにじってるね。でも、それとおんなじ!! あなたたちも!
私は器。オトコやオスの吐き出すものを
ただ、受け止めることしかできない
でもあなたたちは、愛ってものでつながったのでしょ?
愛って
そんなにも寄るすべのないものなの?
私は愛がわからないから
教えて欲しい」
私はカノジョの口から漏れ出た言葉に
涙が零れた。
考えてみれば
私は
いつも愛をないがしろにして、生きてきた
喪女を隠れ蓑にして
自分に嘘をいっぱいついて
愛を知らないというカノジョの歩いて来た道を私は知らない。
でも、
やっぱり
この後、カノジョが話してくれた、あるバレンタインの夜の話を聞いて
私はカノジョを好き…いや
もう愛なのかも…
と思っている。
『あるバレンタインの夜の話』を時間までに書き切れるだろうか?