飽く無き挑戦者
華ちゃんのイラスト
食い子ちゃんのイラスト
◇◇◇◇◇◇
いつもは向うからランチのお誘いをして来る久美子ちゃんがスッー!と居なくなったので私は久しぶりに独りランチに出た。
「もう、今日は簡単でいいな」なんて思いながら街をそぞろ歩きしているとミスディオさんの好物、“牛丼”屋の看板が!!
迷わず中へ入り、ザザッ!とオーダーを入れる。
つゆだく牛丼にサラダセット、それに……今日はミスディオさんと“一緒”するから生卵も付けちゃお!なんて……どこのオヤジなんじゃい!(笑)
で、さっさとお昼を済ませて会社へ戻り、瞑想と言う名の仮眠を取っていたら食い子ちゃんが彼女らしからぬノシノシと言った足音でやって来た。
「センパイ! お昼すみませんでした! 今晩は付き合ってもらいますからね!!」と鼻を膨らませている。
『おいおい食い子ちゃん!可愛い顔が台無しだし、言葉おかしいだろ?』と心の中でツッコミを入れたが、ここはセンパイらしく微笑んでこう返してあげた。
「いいわよ。いつもの焼き肉屋で構わない?」
正直なところ、この子と焼肉屋へ行くと“お財布が痛む”のだが、まあ仕方がない。ただ色々クサくなってしまうのでミスディオさんとのデートはどうしようかと、こっそり悩んでしまう私だった。
◇◇◇◇◇◇
「で、わざわざお昼に私を呼び出した山口くんが、なんて言ったと思います?!」
肉が爆ぜるより先に食い子ちゃんが爆ぜている。
「そうねえ~『やっぱりキラキラした久美子ちゃんの方がいい』とか?」
「違います! もちろん、そんな事を言われても私は怒りますよ!大事なセンパイをディスってるんですから!! でもそうじゃないんです! アイツ!こう言ったんです!『キミの事、色々言うヤツは居るけどオレはキミの方を選んだんだ』って!ふざけてますよね?!!」
私は自分の事はディスられても、別にどうと言う事はないので肩を竦めた。
「私と比べれば久美子ちゃんを取るに決まってるじゃん」
この言葉に食い子ちゃんは目を三角にした。
「それはダメです!!いや、センパイに対してスミマセン。でもセンパイだってオトコから選ばれようなんて言葉を使っちゃいけまん! 私は自分が『食い子ちゃん』って呼ばれているのを知っています。けど何も言いません。何故だと思います?」
「そんな奴らの相手をする必要は無いから?」
「ちょっと違います。 私が“食う”のはオトコを選ぶから!オトコに選ばれて“食われている”わけではありません!」
なるほどねえ~惚れ惚れする様な肉食っぷりだ!
だからこの子との焼肉は楽しい。
「さすが久美子ちゃん! ほら、この霜降りカルビも良い感じだよ」とトングで摘まんで彼女のお皿へ取り分けてあげる。
「センパイは余裕のお顔ですけど、私は山口くんを許せないので成敗します!」
「どうやって?」
「アイツの誘いに乗ってホテル行きます」
「えっ?!」
「で、エチの最中に深~くため息ついて止まり、ふた言で滅します」
「ふた言?!」
「下手クソ!粗チン!」
怖えええええ!!!!
ワタシャ、トングを持つ手が震えてしまったよ。
「それでもまだ観念しなかったら……」
「しなかったら??」
「センパイには及びませんけど……私、ヤツをデリートする為に“おしゃべり”しちゃいます」
「ハ・ハ・ハ・私ってそんなに黒い? それに山口くんにそこまでは……」
「センパイは可愛いですよ。それは私だけが知ってると思ってたのに!! センパイ!恋人ができましたね!白状してください! そうしたら山口くんは許してあげます」
「それって脅迫?」
「違います。センパイの温度を確かめさせていただきます」
無煙ロースターだけど、煙が少し上がって来た。
「私の心はこのお肉なんかよりずっと焦げているんですよ!嫉妬で!!」
私、ため息をついた。
まったくこの子きたら怖いんだか可愛いんだか……
「恋人といっても同性、女性だよ」
そのひと言に食い子ちゃんの目がキラン!と光った。
「ぜひ、お話聞かせてください!絶対に取ったりしませんから!私、近頃、オトコの子に飽きて来たんです!」
やっぱり食い子ちゃんは……“飽く無き挑戦者”だわ!
 




